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レヴァールの華  作者: 紫音
婚約期間編

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35/52

頑固な幼馴染

 

 寝室へと神琉を追いやった後、燕と瑠衣は片付けをして部屋を去った。二人の時間を邪魔することになるからだ。防音になっているので室内で何をしていようとも聞こえるわけではないが、特に用もないのに居座ることもない。鍵をかけて出ると、二人は連れ立って歩き出す。


「それで、実際のところどうなのですか?」

「まぁ、ヤバいんじゃないの?」

「……そう」


 そのままサロンまで二人が来ると、津南と一緒に女性が一人いる。瑠衣たちにとっては良く知っている人物だ。二人を見ると、柔らかく微笑んだ。


「瑠衣さんに燕さん、ちょうどいいところに。いま、お茶を入れようとしていたところなのです。召し上がっていかれませんか?」

「いただきます、バーバラさん」

「俺もご相伴にあずかりますよ」


 彼女はバーバラ=バース。津南の妻であり、侍女の一人だ。即ち、佳南の母でもある。津南とバーバラは夫婦ではあるが、津南は魔族でバーバラは人間。二人の見た目からは同等の年齢にみえるが、実際は津南の方がかなりの年上である。これは、魔族の特徴によるものだ。

 魔族は魔力が高い者ほど、長寿の傾向がある。20代までは成長にそれほど差はないが、以降は個人差が大きく出てくる。見た目と実年齢が一致するのは、瑠衣たちの年齢までということだ。バーバラは、見た目通りでもうすぐ50歳となる。このままいけば、先に老いて死するのはバーバラで、それは本人も納得していることだった。

 そんなバーバラがソファーへと座った瑠衣たちの前にティーカップを置いた。紅茶の程よい香りが鼻孔を擽る。


「どうぞ」

「ありがとうございます」

「それで、瑠衣殿、燕殿。お二人はどうされたのですか?」


 ここにいるのは、神琉の従者である燕、神琉とフィオナの侍女をしている瑠衣、屋敷の侍女であるバーバラに筆頭執事の津南と、給仕を必要とする立場にない者たちなので、全員がソファーに腰を下ろしていた。使用人ではあるが、主である神琉はあまりこういうことには拘らない。神琉が下がった後は、好きに過ごすことを認めているのだ。そのため、このように使用人同士の団欒となることは当たり前の光景のひとつだった。


「何か、と言うわけではないのですが……若君が根を詰めていたいましたので、無理にでも休ませたところなのです」

「……そうでしたか。瑠衣殿から言われてしまえば、若様も従うしかありませんでしょうね」

「まぁ瑠衣を怒らせるとまずいのは、神琉もわかっていますから。あ、次いでといってはなんですが、津南さんに聞いておきたいことがあるんです」

「私に? となると、あの事でしょうな」


 燕が何を聞きたいのか。津南には内容を聞かずとも理解したようだ。津南とバーバラ。神琉とフィオナ。共通するのは、魔族と人間であるという点。そして、今の時期は婚約式を終えてから5日程経っているということ。この状況で聞くことと言えばひとつしかないのだから。


「私と若様とでは魔力量が違いますので、参考にはならないかもしれませんが……確かに、バーバラが人間という部分は考えました」

「津南様……」

「……当時はバーバラの中に己の血を、力を感じることに幸福感を感じて己を抑えるのに必死でしたな」


 懐かしむように津南は話をしてくれた。

 魔族同士でも血の繋がりを感じることはあるという。津南は過去に魔族同士の婚約式も行っており、バーバラとは別の女性との間にも子どもがいる。既に鬼籍へ入っている女性で、バーバラも知っていることだ。魔族と人間、それぞれの女性とで婚約式を行った津南だからこそ、瑠衣と燕は聞いておこうと思ったのだ。


「魔族同士であれば相手の魔力に馴染むのがわかる位ですが、魔力に慣れていないバーバラの時は、それが顕著でした。バーバラも違和感を感じていたことでしょうが、私は喜びの方が大きかったですね」

「……もう随分と昔のことのようですが、そうですね……不思議な感じではありました」


 津南はバーバラの時はそれほど相手を強く求める衝動は起きなかったという。人間という種族の違いも無論意識し、抑えていた部分もあるが暴走することはなかった。それは2回目だったためなのかはわからない。しかし、最初の儀式の時は大変だったらしい。


「……そこまでの情はなかったはずですが、私も若かったということでしょう。恐らく、若様も同じはずです。いえ、私以上でしょうな。若様は魔力が極めて高いお方ですから」

「……そうですよね。ったく……」

「燕……」

「神琉は、姫さんを気遣ってたんだろ。もしかしなくとも、姫さんは知らないんだろうな。神琉の状態をさ」


 最初に燕は、ヤバい状態だと言った。それは間違っていないはずだ。婚約式から3日間、フィオナは目覚めなかった。目覚めた後、契りを交わしたが一度きりだ。魔族の本能から逃れることは、自分を苦しめるだけだというのに、神琉はそれを選んでいるらしい。


「知らせる必要はないと、若君は判断したのでしょう。とは言え、フィオナ様は若君を慕っておられます。若君の求めには応じるでしょうが」

「我慢強いのも考えものだってことか……あの頑固者が」

「まぁそれが若君ですから……なので、出来るだけ夜はお二人で休まれるように、燕もお願いしますよ」

「わかってる……仕事中毒から離すのは簡単じゃないんだけどな……」

「燕」

「わかってるって。だから、その笑みは止めてください、瑠衣姉さん」


 口答えは許可しないという瑠衣の笑み。神琉と燕が苦手とする瑠衣の有無を言わせない微笑みに、燕はガックリと肩を落とす。

 とは言え、瑠衣も神琉を案じているだけなのだ。ならば、燕は出来ることをやるしかなかった。




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