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レヴァールの華  作者: 紫音
婚約期間編

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34/52

予兆

 

 一度、フィオナは部屋へと行き、着替えをしてから再び寝室へと戻ってきた。既に着替えを済ませている神琉は、何やら手元にある書類を見ている。仕事は終わったのではないかと、フィオナは怪訝そうに首をかしげた。

 フィオナの視線に気がついたのか、神琉は顔をあげる。


「どうした?」

「いえ……その、お仕事、ですか?」

「いや……これは……」

「神琉様?」


 言い淀む姿は珍しく、本当に何があったのかと不安になる。そんなフィオナに、神琉は大きく息を吐いた。


「……明日」

「明日?」

「無理矢理休まされたからな……丁度いいから、君を案内しようと思う」

「案内、ですか?」

「あぁ。屋敷にいるばかりでは、気が滅入る。既に正式な身分がある以上、外出しても問題はない」


 正式な身分。それは、神琉の伴侶ということだろう。

 村娘であったフィオナに姓はない。しかし、神琉と婚約式を終えたことでレヴィンフィーアの姓を名乗ることを許されている。以前のような人質という形ではないため、表に出ても構わないということだ。


「……どうだ?」

「い、良いのですか?」

「ここでは俺が主だ。文句を言う者はいない……ただ、場所は限られるが」

「お願い、したいです! 行きたいです、私」


 フィオナは魔族の国、シュバルツを知らない。知識としては勉強してきているので理解してきているが、実際に見たことはない。それに、村を出てからはずっと屋内で過ごしてきたので、外に出るのは本当に久方ぶりだった。思いの外浮かれてしまったのも仕方ないだろう。


「そうか……ならそうするか」

「はいっ! ありがとうございます、神琉様」

「礼を言われるほどのことではない」


 素っ気ない言い方ではあるが、その声は柔らかい。フィオナは嬉しさを隠しきれずに、ベッドに座った。すると、神琉は持っていた書類をテーブルの上に置き、フィオナへと近寄ってくる。


「か、んる様?」

「じっとしていてくれ……」

「は、い」


 じっと見つめてくるその眼差しに逸らすことが出来ず、フィオナは神琉の藍色の瞳に見入っていた。ふと、身体の奥から何かが蠢くのを感じてしまう。


「あ……」

「っ……悪い、入れすぎたか」


 違和感でフィオナは声が出てしまう。感じたことのある感覚に、婚約式での事を思い返した。己の中に何かがある感覚。これは、神琉の力だ。目の前にいる神琉の瞳を見れば、違和感が和らぐのを感じる。訳がわからないまま、フィオナはただ神琉を見ていた。


「……まだ、慣れていないようだな」

「え?」

「魔力を通した。万が一のことを考えるなら通しておいた方がいいと思ったが、大丈夫か?」

「えっと……はい。その……」

「まだ暫くは様子見だな……」


 そうして神琉はフィオナから離れた。

 魔力を通したということが、何を意味するのか。フィオナには分からない。ただ、何かがフィオナの中にある。無意識に、フィオナは己の胸に手を当てていた。


「……」

「……どうした?」

「……私、ここに……何かが……」

「フィオナ」


 再び近づいてきた神琉が、フィオナの手の上から己の手を重ねるように触れてきた。ベッドに右手を付いてフィオナの胸に左手を当てている態勢で、フィオナの胸元を凝視している。


「あ、の……神琉様……」

「黙っていろ」

「うぅ、は、い」


 就寝の準備ということでネグリジェを着ているため、薄い生地から中が透けているのだ。そんなところに手を当てられれば、フィオナも真っ赤にならざるを得ない。当人は至って真面目なのだろうが、フィオナは恥ずかしさでいっぱいだった。


「俺の魔力に反応したか、血が馴染んだとも言えるか……なら、フィオナ自身が慣れていない所為。ということは、触れさせる方がいいようだな」


 何やら呟いているが、フィオナはそれどころではない。顔の体温が上昇しきって、もう限界だと神琉の方を見ると目があってしまった。


「フィオナ、どうかしたか? 顔が赤いが?」

「いえ、その……手が……む、胸に」

「手? あぁ、これか。悪い」


 何でもないという風に、神琉は手を離した。だが、顔はまだ近い。


「あの……」

「契りを交わしたのだから、そこまで恥ずかしがることではないと思うが?」

「そ、そういう問題ではなくて、ですね……その、いえ、嫌だと言うわけでもなくて……」


 ただただ恥ずかしかっただけなのだが、それさえも神琉には理解出来ないという風に言われてしまう。たしかに、色々な姿を見せてはいるが、見せたからといって平気になるわけではないのだ。

 ふと顔を俯かせると、神琉がその手でフィオナの顎を上げさせて、唇を重ねてきた。突然のことに、フィオナは驚く。しかし、神琉は唇を離すことなくより深く口づけてきた。

 漸く離された時には、フィオナは息が乱れて呼吸が荒くなっていることにさらに顔を赤くする。見上げる形で神琉をみれば、いつになく余裕がないようにも見えた。そのままフィオナの肩口に額を当てて、顔を隠してしまう。


「悪い、抑えられなかった……」

「かんる、さま?」


 神琉にしては珍しい姿だ。いつでも冷静な神琉の様子に、フィオナは半分ぼんやりとしながらも、声に耳を傾ける。


「……婚約式を終えた一週間。この期間は、血を与えた側にとっても大きな意味を持つ」

「え?」

「魔族に取って血は力だ。伴侶となるものを得たことで、血がざわめく。それを抑えるためには、相手を抱くのが一番有効な手段だ」

「それって」

「血を受けた者も同じだが、フィオナは人間だ。無理強いはしたくない」


 フィオナはそっと肩口に埋まっている神琉の頬に手を伸ばした。疲労を感じているとは思っていたが、もしかすると仕事の疲れだけではなかったのだろうと。血がざわめくという感覚は、フィオナにはわからない。しかし、一つの可能性が浮かんだ。


「私の、ためだったんですか?」

「……見た目は人間と変わらなくとも、俺たちは……俺は魔族だ。君を壊すわけにはいかない。これでも、耐えることには慣れているからな」

「神琉様……」


 平気だと顔をあげた神琉に、両手で頬を挟むとフィオナはそっと唇を寄せた。目を見開く神琉へ微笑む。


「私に触れてください。大丈夫です……私は壊れません」

「保障はできない」

「だとしても、その……神琉様になら、構いません。私は、神琉様の妻になるのでしょう? それに、私ならもしかすると、その……子どもも授かるかもしれませんし……」

「……」

「ですから……神琉様、無理はしないでください」


 それが合図となった。再び強く口づけられたかと思うと、抱えられてベッド上に下ろされる。いつもの冷静な神琉ではないことが怖い訳ではないが、フィオナは受け入れると決めたのだ。何度も角度を変えて与えられる口づけに、フィオナは身を任せていた。


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