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レヴァールの華  作者: 紫音
婚約期間編

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32/52

屋敷での生活

 

 整理を終えた頃には日が沈みはじめていた。そろそろ夕食だということで、フィオナはアンリらと共に食堂へ移動する。中には入ると執事服を来た人が出迎えてくれた。着いたときにもいた老齢の男性だ。


「お待ちしておりました。どうぞ、若奥様」

「は、はい」


 慣れない呼称に戸惑いつつも、案内された席へと座る。まだ神琉は来ていないようだ。


「申し遅れました、私は屋敷の筆頭執事をしております津南=バースでございます。以後、宜しくお願い致します」

「こ、こちらこそお願いします……? その、もしかして」


 姓がバース。佳南と同じだ。視線を佳南に向けると苦笑していた。

 以前に聞いていたのだ。神琉の屋敷で、両親が働いていると。津南もフィオナの言葉の意味するところを理解してくれたようで、話を続けてくれた。


「如何にも、若奥様付きの佳南は、我が娘でございます。何か粗相はしていないでしょうか?」

「いえ、佳南にはとても良くしていただいています!」

「そうですか。何かお困りのことがあれば、佳南へお伝え下さい。若奥様が健やかにお過ごしになれるよう、若様より仰せつかっておりますので」

「神琉様が……ありがとうございます、津南さん」

「我々は使用人ですから、津南で構いませんよ」


 その言い方にフィオナは、佳南に初めて会った時のことを思い出した。同じ事を言われたのだ。呼び捨てにしてほしいと。

 見た目は全く似ていない父娘から同じ言葉を聞いて、フィオナも思わず笑顔になる。


「はい、お願いしますね、津南」

「えぇ」


 そうして暫くすると神琉がやってきた。神琉が席に座ったタイミングで食事が運ばれてきた。こういった食事にも慣れてきたので、フィオナも躊躇うことはなくなった。

 ゆっくりと会話の少ない食事の時間を終え、温かい紅茶を飲む。


「荷物の整理は終わったのか?」

「あ、はい。その……衣装も沢山、用意してありました」

「あぁ、その辺りは母上が好きにやっていた。気に入らないものがあるなら、処分しても構わないから」

「そんなことできません! どれも素敵でしたし……私が、本当に着てもいいのかと」


 貴族ではなかったフィオナからすれば、どんなものも高価であることに違いない。姫としてここに来た時も、内心は衣装に臆していた。王族として来ている以上、顔に出さないことに必死だったのだ。だが、もう取り繕うことはないので、正直な想いを神琉に伝える。

 すると、神琉は一瞬だけ動きを止めてフィオナを見た。


「臆するなという方が無理、か。だが、これからは慣れていってほしい……俺には女性の衣装のことなどわからないが、母上が選んだのなら間違いはないはずだ」

「本当に、いいのでしょうか?」

「俺がいいと言っている」

「神琉様……はい、ありがとうございます。大切に、着させていただきます」

「そうしてくれ。母上も喜ぶ」


 紅茶を飲み終わると神琉は出て行った。フィオナも移動や整理などで疲れていたので、部屋へと戻ることにした。湯あみを終えて、寝室へと向かう。

 広いベッドは整えられており、いつでも寝られる状態だ。とはいえ、今日は先に寝ているようにと神琉から言われている。一人で寝るには広すぎるベッドにフィオナは横たわる。ふかふかのベッドはとても寝心地が良く、フィオナは直ぐに夢の世界へと旅立った。



 翌朝、フィオナが目を覚ますと隣には温もりがなかった。もう起きてしまったのか。この時はそう思っていた。しかし、それから二日間、神琉が寝室に来ることはなかった。

 食事は共に摂るし、会話もする。だが、寝室に来た気配が一向にない。どこで寝ているのかと、気になるがフィオナには聞くことが出来なかった。

 元々、寝室を一緒にすることは神琉から提案されたことだ。だから、避けられているということはないだろう。ならばどうしてなのか。


「瑠衣さん、何か知っていますか?」

「……全く、若君は」


 そう瑠衣に尋ねると、盛大なため息が返ってきた。フィオナに対してではなく、神琉に対して呆れているらしい。理由がわからなくて、フィオナは困惑するばかりだ。


「あの、瑠衣さん?」

「あれほど休んでくださいと言っているのに、身体を壊したら元も子もありませんし」

「えっと……」

「フィオナ様」

「はいっ!」


 名前を呼ばれてつい、背筋を伸ばしてしまった。瑠衣は、そんなフィオナに満面の笑みを浮かべる。


「燕には言っておきますから、夕食後は神琉様のお部屋へ行きましょう。今夜は、無理やりにでも休んでもらいますから」

「えっと、つまりは」


 話を聞くに、暫く領地から離れていたことで、領主としての仕事が溜まっていたということのようだ。皇都でできるものは無論やっていたが、領地に居なければできない仕事というのも多分にある。それをこなすため、寝る時間を惜しんで仕事をしているらしい。

 燕や瑠衣らが何度か休みを促していて、返事はするようだが……実行はしていないということだ。顔では笑っている瑠衣だが、実はかなりご立腹のようだ。フィオナは、黙って従うのが賢明だと、瑠衣の提案に黙ってうなずいたのだった。







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