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レヴァールの華  作者: 紫音
偽者編

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21/52

平穏の終わり

 

 昨日を境に、神琉と会うことは出来なくなっていた。理由は告げられていない。ただ、少しの間屋敷を留守にするとだけフィオナには伝えられている。それ以上のことは何かわからなかったし、他の誰も教えてはくれなかった。フィオナの立場は神琉の婚約者ではあるが人間であることは変わりなく、詳細を教えることはできないのかもしれない。

 手元の紙に視線を落としつつ、ため息をついてしまう。


「エルウィン様、どうかしましたか?」

「……いいえ、大丈夫よ。ありがとう佳南」


 フィオナの手元の横に紅茶をいれたカップをそっと置く佳南に、顔を上げて礼を伝える。先ほどから進んでいないのを気にして、息抜きに持ってきたくれたのだろう。

 今、フィオナがしているのは魔族間で使用されている古代語の勉強だった。文字を写しながら、読み方を覚えて行く。公爵家が扱う書物は勿論、皇王への手紙など古代語でやり取りすることが今後もあるためだ。まずは己の名前と神琉の名前、アンリや佳南、瑠衣の名前が書けるように練習している。ここで練習している名前がエルウィンだということに少しやりきれない感情があるが、佳南に伝えることは出来ない。だましているということに対して負い目もある。しかし、これは一生背負っていく罪だ。家族のために、そうすることをフィオナは決めた。だから演じ続けなければならない。どれほどに辛くとも、打ち明けることはできないのだから。


「佳南……少しだけ、一人にしてくれる?」

「わかりました。では外に控えておりますが……その、若様もきっと直ぐに戻られると思いますから、気を落とさないでください」

「ありがとう」

「いえ……では」


 婚約式まで一週間もない。佳南には悪いが、フィオナが気落ちしているのは神琉と会えないからではなかった。

 偽物であるフィオナが、エルウィンとして名で婚約式に挑むことの不安が日に日に募っているためだ。こういう時には、家族の顔を思い出してしまう。


「どうしてるかな」


 こんな遠い場所に来てしまったのだから、会うことはできない。それでも、どうか無事でいてほしい。ただそれだけを願った。





 それから数日。婚約式は明日。未だに神琉は戻ってきていなかった。


「明日、か」

「姫様……」

「大丈夫。ちゃんと、覚悟は出来てるから……ちょっとだけ、もし死ぬならちゃんと自分の名前で墓を造ってもらいたかったなって思うけれど」

「それは……」


 アンリの顔が曇る。出来ないことだとわかっていることだ。それでも、きっと目の前の彼女だけは知っていてくれる。ただ、それだけがフィオナにとっての救いだった。


「ねぇ、アンリ。もし―――」


 そう告げようとした時だった。慌ただしい足音が廊下に響き、フィオナの部屋をノックなしに開く。


「姫さん、ちょいと来てもらうぜ」

「えっ? 燕さ、ん? きゃっ」

「あんたもついてこい」


 軽々とフィオナを肩に抱えあげて、アンリの腕を引っ張る。有無を言わせない雰囲気にアンリも頷いた。燕はそのまま部屋を出て走る。どこに向かっているのかはわからないが、ただならぬことが起きたことだけは理解できた。



 そうして別の部屋に連れてこられ、フィオナはソファーへ降ろされる。


「あの……」

「姫さん、あんたを悪いようにはしない。だが、他の連中はそういうわけにはいかないんだ。暫く、ここにいてくれ」

「……何かあったんですか?」


 ただならぬ雰囲気から、決して良いことではないだろう。それでも聞かねばならない。燕の次のことばを待った。暫しのちんもくの後、渋々と言った様子で口を開く。


「若様が、ある人間の村を攻め落とした」

「え……」

「人間の王が、交渉条件を違えたことによるもの。それが何か、姫さんは知っているよな」

「っ……」


 いつもと変わらぬ口調ではあったが、雰囲気は全く別物だ。フィオナは息をのみ、両手を握りしめた。そうでもしなければ、震えが止まらなかったからだ。


 交渉条件。それはフィオナ自身に他ならない。即ち、フィオナがエルウィンでないことが露見したのだ。

 フィオナの中に絶望が広がっていった。それはアンリも同様だ。


「も、申し訳ありませんっ! ですが、姫様はっ! 姫様は違うのです! 逆らえなかったゆえに、死を覚悟して身代わりになりました。どうか、どうかご慈悲をお願いしますっ! お願い、します」

「……」


 震えながらもフィオナを庇うように、アンリは前へと出た。そんなアンリを見て、フィオナの心は決まった。1日早いだけだと。

 そっと、立ち上がりアンリを背中から抱き締める。


「あ……」

「ありがとう、アンリ。でも、私はいいの。元々、明日には死ぬかもしれなかったのだから……それが早まっただけ」

「ひ、めさ、ま」


 抱き締めていた手を離し、フィオナは燕の前に両膝を付く。そして頭を下げた。


「どのような事情があったとしても、姫としてこの地に来たのは私です。アンリは強制されただけ。裁かれるのなら、私一人で十分だと思います」

「姫様っ! いけません」

「いいのよ、アンリ」


 尚も止めようとするアンリを制するフィオナ。すると燕から呆れたような深い息が漏れてきた。


「はぁ……あんたら人の話聞いてるのか?」

「え?」

「悪いようにはしない、って言っただろう? あんたらの事情なんてこっちもわかっている。何より……悪いのは王で姫さんたちじゃないってことはな」


 絶句するフィオナたちへ燕は話してくれた。

 フィオナたちがこの国へ来たときから、その正体を怪しんでいたこと。人間の国を探った結果、エルウィンが今も城にいることも。


「魔族を甘く見すぎだ。身代わりを寄越すなら、雲隠れさせるなりすればいいものを、あの姫の我が儘でそれすらしなかった。馬鹿にしているとしか思えない」

「……」

「これはその報復だ。攻めた土地は、魔族が貰う。辺境の村だ、向こうも必死に守ることはないからな。戦いは直ぐに終わった。だから残る問題は姫さん、あんただ」



内容を書き直そうとも思いましたが、まずは先に物語を進めることにしました。今後も不定期になるとおもいます。


ご覧頂き、ありがとうございます。

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