神琉への想い
久しぶりの投稿になります。
佳南を侍女に加えてから数週間が経過した。フィオナの周囲に特別な変化は起こっていない。そして婚約式がもうすぐそこまで迫っていた。
「……はぁ」
「どうかなさいました、姫様?」
「エルウィン様?」
思わず声が出てしまった。午後のティータイムをアンリ、佳南が用意してくれていた紅茶とお菓子をつまみながらまったりとしていたのだが、考えるのは式のことだった。瑠衣に手順を教え込まれ、準備は出来ている。それでも、心のどこかに儀式への恐怖があることは否めない。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていただけなの」
「考え事ですか?」
「えぇ……もうすぐ、だから」
もうすぐ、その言葉で佳南もアンリも何のことだかわかったはずだ。佳南の表情がわずかに陰ったのは見間違いではないだろう。
「……やっぱり、不安なのですね」
「不安よ……決めたことだし、逃げても国に帰れるわけじゃないのだから、覚悟しているつもりなのだけど、いよいよって思ったら」
「……姫様」
「若様に、ご相談されたりしましたか?」
「神琉様に?」
「はい。エルウィン様は若様の正式な婚約者ですから、それくらいの我儘は許されると思いますよ」
確かにフィオナ、否エルウィンは神琉の婚約者だ。皇王が定めた正式な。だが、神琉と会話をしていても、フィオナに興味を持っているようには思えなかった。
「神琉様はお忙しいのだし、お手を煩わせるわけにはいかないわ」
「……本当にエルウィン様は変わっていらっしゃいますね」
「そう、でもないと思うけれど……」
「いえ。これが貴族の令嬢であれば、若様の都合など関係なく訪ねていくでしょう。まぁそういったことが原因で、若様は女性を避けている節があるのですが」
「避けているの? 確かに歓迎されている雰囲気ではないけれど」
「若様がお二人での場を設けていること自体がすごいことなのです。ですからエルウィン様はもっと自信を持ってください。婚約式が終わりましたら、晴れて社交に出ることにもなりますし、若様のお相手として威厳を持っていただかないといけません」
「か、佳南……?」
「普段からもっと愛想をよくしてほしいとお願いしているのですが、瑠衣殿や燕殿がお願いしても治らないのです。ですが、エルウィン様がお願いすればきっと若様も振る舞ってくださいます! えぇそうですとも」
「えっとね……その私は別に、そのままの神琉様でも」
力説する佳南だが、相手は主人であるはずの神琉への愚痴になっていないだろうか。ここまで饒舌な佳南をみるのは初めてだったため、アンリとフィオナは戸惑いを隠せなかった。
「エルウィン様、本日の夕方のお話では是非ともおっしゃってくださいね」
「えっと……そう、ね」
「エルウィン様?」
「……頑張ってみるわ。あまり自信はないけれど」
そもそも神琉に好かれているとは思えない。お荷物を背負わされたように考えているのではないのだろうか。こうして屋敷においてもらい、婚約までしてもらえて、それ以上に望んでもいいものなのかフィオナにはわからなかった。
「エルウィン様は、若様をお慕いしているのではないのですか?」
「えっ⁉ な、何を言っているの⁉」
だから佳南のこの言葉には胸が飛び出すほど驚いた。思わず、頬が赤くなるのを両手で隠す。
「若様との会話の時間をお願いされたのは、若様をお慕いしているのだと思っていたのですが、違ったのですか?」
「ち、違うのよ! その……ここに慣れるために神琉様と接してみようと思ったからお願いしただけで、そんなこと思っていないわ」
「若様がお嫌いですか?」
「そんなこと……ないけれど」
「ではお好きですか?」
「それは、わからないわ」
そこまで言って改めて考えてみると、神琉は容姿にも恵まれ実務能力や腕も立つと瑠衣が言っていた。実際に見たことはないが、その姿はとても格好いいのだろう。初めて会った時も、その姿に目を奪われた。好意を持っていることは否定しない。二人で話をしている時も、神琉から話しかけてくれることはほとんどないが、それでもフィオナの話に相槌を打ってくれる。勉強のことを話せば、それについてアドバイスをくれることもあった。次第に、神琉への緊張感が和らいでいったのは間違いないが……。
「神琉様はとても素晴らしい方だと思う。この婚約のお話も、私にはとても勿体のないことで」
「若様が怖い、ですか?」
「⁉」
佳南の言葉に肩が震えた。恐い。そうかもしれない。この人の力がフィオナの命を奪うかもしれないのだから。
「私は臆病なのね。一度決めたことなのに、目前で揺れるなんて」
「姫様……」
アンリがそっとフィオナの肩に手を乗せた。
拙い文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
これからはちょこちょこ恋愛要素を入れていきたいと思っています。




