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レヴァールの華  作者: 紫音
偽者編

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14/52

公爵家

 

「あの……」

「なんですか?」

「一つ、聞いてもいいですか?」

「私にお答えできることであれば……」

「公爵様は煉琉(レンル)=レヴィンドライ公爵、なのに神琉(カンル)様は神琉=レヴィンフィーア様と紹介をされました。ファミリーネームが異なるのはなぜなのですか?」


 普通、ファミリーネームは同じだから家族だとわかるものだと思う。フィオナは平民だったため、姓はない。だが、エルウィン王女は父である国王と同じ姓を持っているし、貴族は大抵一族で同じ姓を名乗っているものだ。しかし、煉琉と神琉は少し違っている。レヴィンまでは同じだが、それ以降は別なので同じ名前には聞こえない。


「魔族の者であれば常識的に知っていることですので、隠す必要もないでしょうね」

「?」

「いえ、こちらの話です。神琉様は公爵家の嫡男という他にもう一つ身分があります。皇族、という身分です」

「皇族……」

「神琉様の生母様は、皇王陛下の妹君です。降嫁して公爵家に嫁いだのです。血筋的に、公爵家は元々皇族に連なる一族でもあるので不思議ではないのですが、神琉様はその血を濃く受け継いでおられるのです」

「それがなぜファミリーネームが違うことにつながるのですか?」

「……それは神琉様が特に濃い力を引き継いでいらっしゃるからです。レヴィンドライの名は、神琉様の弟君が受け継ぎます。レヴィンフィーアの名は、神琉様とエルウィン様の子へと受け継がれていくでしょう」


 曖昧な答え、だと感じた。皇族の血が濃いから姓が異なる。フィオナには納得できる理由ではなかったが、瑠衣はそれ以上のことは話さなかった。フィオナには話せない内容なのか。話しても理解できないからなのかはわからないが、今この場でこれ以上の説明はされないだろう。この場ではフィオナは諦めるしかなかった。



 ******



「疲れた……」

「大丈夫ですか、姫様?」


 瑠衣との勉強会が終了して、客室だが実質フィオナの部屋としてあてがわれた部屋へと戻ってくると、アンリがお茶の準備をして待っていた。知っている人がいるというだけで心が安らぐというのは本当なのだろう。異国で、知識を詰め込めるだけ詰め込んだフィオナは精神的に疲労していた。それに合わせるかのように、アンリはフィオナへと紅茶を差し出す。


「ありがとう」

「いえ、私にはこれくらいしかできませんから」

「そんなことはないわ。アンリも……その大変だったのでしょう?」

「姫様ほどではないと思います」


 瑠衣よりしごきを受けていたフィオナの側に、アンリはいなかった。同じ頃、ここ公爵家の使用人によって公爵家の使用人としてのいろはを教わることになっていたからだ。無論、ここにいる人間はフィオナとアンリの二人だけである。アンリも疲労を抱えているに違いなかった。


「無理はしないでねアンリ」

「姫様……ありがとうございます。ですが、思うほど厳しいということでもなかったので、私は大丈夫です。姫様の方が大変だったと思いますよ」

「そう……かな?」

「公爵家に仕える方々は口をそろえておっしゃいます。若様……すなわち神琉様はとても優秀な方だと。その方へと嫁ぐことになる姫様は幸運だと言いながらも、その言葉の中には別の意味も込められていると思われます……」


 嫁ぐことになる姫は幸運。だが、その言葉の裏に含む意味は一つ。神琉にフィオナは相応しくない。だが面と向かってフィオナに吐くわけにはいかないため、その矛先をアンリに変えているのだ。


「……私が人間だから、よね」

「それ以外にはないと思います」


 あからさまに敵意を向けてくることはない。面と向かって嘲笑されるでもない。その代わりに、歓迎されている風にも感じなかった。瑠衣以外とまともに会話をすることもフィオナはない。すれ違うことすらないのだから、避けられているのは間違いないだろう。


「でも……うまくやっていかないといけないのよね」

「姫様……」

「ここの人たちに受け入れてもらいたいと思う。この国で暮らすことは既に決まっていることなのだから、少しでも改善していきたいのだけど……」


 いずれ死ぬとして、それが一月後だとしても今の状況がいいとは思っていない。かといって、客人という待遇であるフィオナに出来ることは多くないだろう。今は状況を享受するだけで精一杯なのだから。


「姫様は、神琉様とお話はされないのですか?」

「神琉様と?」


 そんなフィオナにアンリは神琉との関係を問いてくる。朝食に顔は合わせているが、それだけだ。それ以降は夕食でも顔を合わせることはない。何をしているのかはわからないが、今屋敷にいないことは確かだ。


「今は留守にしているようだし、いつ帰ってくるかもわからないから難しいと思っていたけれど……話すことはできるかしら?」

「姫様がこの国で生きていくためには神琉様と交流を深めるのが一番だと思います。姫様が嫁がれる方なのですから、あちらも避けることはできないと思いますし」


 確かに、瑠衣と交流を深めても肝心の神琉と交流できなければ、ここでの生活は変わらないかもしれない。今の状況を改善したいと考えるならば、神琉に会うのが一番。確かにその通りだ。だが問題は、どうやって彼に会うか、である。


「瑠衣さんに聞いてみるしかないよね」

「それ以外の方に聞くことは出来なさそうですし、その方がよろしいと思いますよ」

「そうね、聞いてみるわ」


 フィオナはそう決断すると、気合を入れるために紅茶を一気に飲み干し、瑠衣がいるだろう図書室へと向かった。





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