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一話~出会い7‐①~

 オレが今住んでいるのは、山間にある小さな町ガラーナ。十八になった時、この町に辿り着いた。

 そして、未来の魔王の城、というには程遠いオレのボロ屋があるのは、町の西外れだ。前の住人は知らない。行き倒れみたいになっていたオレに、ここを紹介してくれた人がいるのだ。

 ボロ屋から町の中心部に行く小道を歩く間に聞こえてくるのは、鳥の囀りだけだった。

「ほんとなんもないとこよねぇ」

 これが、ここを通る時のフェリーの口癖になってしまった。

「もっとこう、煌びやかな宝石で飾ってもいいんじゃない?」

「だから、この町のどこにそんな金があるんだっつぅの」

「地味過ぎるんだもん。ほら、この色褪せた煉瓦道を黄金とか大理石とか、せめて銀にするとかさぁ……」

「もったいなくて歩けなくなるだろうが! てかっ、何度も言うけど、金がないんだよ!」

「どうしてそう否定的なのよ?」

「否定的じゃなくて、常識的で現実的なんだ!」

 オレの反論に、赤い猫は「夢がないわねぇ」と顔を顰めた。

 いつもの道を、いつものように歩いて、オレとフェリーは町の中心部にある商店街へと出た。昼時を過ぎたそこでは、取り留めのない会話に花を咲かせる主婦達や、日向ぼっこを楽しむ老人と猫、鬼ごっこに夢中の幼い子ども達が普段と変わらない日常を過ごしていた。

 オレに気付いたひとりの少女が、小走りで近付いて来る。オレは、それに合わせて屈んだ。

「ダリアおにいちゃん、こんにちは」

「こんにちは、エイミ。今日は元気みたいだな」

「うん。おにいちゃんがおしえてくれた葉っぱのおかげだよ」

「葉っぱ……ま、まあ、似たようなもんか」

 無邪気な笑顔に、オレは苦笑した。

 エイミと出会ったのはつい最近で、今日みたいにアケルに向かう途中だった。熱を出したエイミを抱き、診療所の前で途方に暮れている母親に声をかけたことが、親しくなるキッカケだった。彼女の家はあまり裕福ではなく、診せられたとしても薬まではなかなか買えない、と母親は困っていた。一見穏やかに見えるこの町にも、貧富の差があることを感じた瞬間でもあった。オレは本から得た知識だったが、山で手に入る薬草を教えた。あれから、エイミの調子は少し良いようで、オレも安心している。

「ねこちゃんに、さわっていい?」

「あ、ああ」

「ちょっと、勝手に許可しないで。あたしは猫じゃない」

 オレのぎこちない承諾に、隠れるようにしていたフェリーの表情が険しくなる。あまり触られたくないらしい。が、エイミの方は、フェリーをすっかり気に入っていて、見かける度に、触りたがった。渋々だがしばらくされるままのフェリーは、でもやっぱり嫌なのか、「そろそろいいでしょ?」とうんざりして小さな手から逃れた。と、向こうから、エイミの友達が彼女を呼んだ。

「あっ、うん! いま行くよ! じゃあ、またね、ダリアおにいちゃん、ねこちゃん」

「ああ。気を付けて遊べよ」

 エイミは満面の笑みで頷いて、友達の方へ走って行った。その小さな後ろ姿に、どうしてか懐かしさを覚えた。

 オレは、横にいるフェリーがいそいそと身体を舐め終わるのを待って、この町一番の食事処アケルに入った。ドアに備え付けてある小さな鐘がカランカランと鳴って、それから優しい微笑みと「いらっしゃい」がオレを迎えてくれる。

「ダリア君、いらっしゃい」

 アケルの看板娘フローラ・リッグが、オレの定位置であるカウンター席を引きながら言った。

 オレがアケルをこの町一番と思うのは、彼女がいるからだ。

「いつものでいいかしら?」

「あ、ああ」

 いつもの、とは、日替わり定食のことで、今日は野菜と豆のクリーム煮らしい。奥から仄かに香ってくる温かな匂いが、腹の虫をさらに暴れせた。

「パン、三つで」

 照れ隠しをしながら席に座るオレに、フローラは「かしこまりました」と微笑んだ。

 フローラは、オレがこの町で親しく会話のできる数少ない住人でもあり、なんと言うか、そう、憧れの女性だ。彼女とゆっくり話をしたくて、必ず混み合う時間帯を避ける。今日も、昼時を過ぎた今の客は、オレと隅っこのテーブル席に座るフードを目深に被った男ひとりだけだった。

「マスター、もっと何か話題ないの?」

 いつの間にかオレの横の席を定位置としたフェリーが、くすくすと意地悪な笑みを漏らしていた。それにオレが睨むような目線を送れば、「あぁこわい」と心にもないことを言う。

「フェリーちゃんもいらっしゃい」

 猫好きのフローラが頭を撫でると、フェリーは嬉しそうに鳴いた。オレは首を傾げる。

『あたしは猫じゃない』

 さっきのエイミやオレが触ろうとすると決まって不貞腐れるのに、なぜかフローラだけには、フェリーも大人しくしているのだ。

 いいなぁ、オレも猫になりたい……

 オレの横で、オレには絶対に見せない猫らしい甘え方をするフェリーに、オレは嫉妬していた。オレが撫でようとすれば、赤い猫はいつもするりと逃げてしまう。でも、フローラには、赤く艶やかな身体を擦り寄せていた。細い指が沈むほど、柔らかそうな毛並みだった。

 オレは、フェリーに嫉妬してるのか? それとも、フローラに?

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