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一話~出会い6~

 机に向かっていると、時折、不意に子どもの頃よく見ていた父親の背中を思い出す。

 狭い書斎に籠って、どの国の、どの時代の、どの文化の文字なのか分からない難しい書物をよく読んでいた。オレにもよく読んで聞かせてくれた。だからか、十歳くらいになった時、オレの愛読書も自然と魔術に関連した本になった。友達はみんな気味悪がった。仲間外れにされることも多かったオレは、ますます魔術に嵌った。人を呪う術も本で知った。

 でも、父さんは言ったんだ。

『どんなに意地悪をされても、魔術で仕返しをしようと思ってはいけないよ』

 父さんがいなくなってから暫くは、それを忠実に守ってきた。

 だが、数年前から、術を使うことが多くなった。例え人を殺めるほどの術でなくても、約束を破っていることには違いない。

 これも生きてくため。魔王になるためだ。それは、言い訳なのかもしれない。

 でも魔王になれば、何が必ず変わる。いや、変えてやる。オレはオレ自身を変えなければならない。オレが平凡で、弱い人間だから、あの時誰も助けてくれなかった。オレが誰よりも強い魔王になれば、世界は変わる。オレは父さんを亡くしてから、それをずっと信じている。

「ねぇ、つまんなぁい」

 さっきから、というかこの一カ月何十回と聞いた台詞を、フェリーはまた口にした。オレはうんざりしていた。

「外行って、町をいっぱい滅ぼしちゃおうよ。ねぇったら、ねえ」

「町は滅ぼしちゃダメ、絶対」

「なんでよぉ? 魔王になりたいんでしょ?」

「町を平和にする魔王になりたいんだ」

「あんなことばっかやっても、平和になりはしないわ」

「あれは資金稼ぎだ」

 昨夜の山賊捕縛は、憲兵隊に所属する知人からの依頼だった。オレの魔術の腕を買ってくれた最初の人物でもある。だから、時々オレはああやって憲兵隊も手を焼く荒くれ者達を術で捕まえていた。

 フェリーは、あまり気に入らないようだ。

「滅ぼしちゃえば、平和になるじゃない」

「どういう理屈だよ!」

 読んでいる本からフェリーに振り返れば、彼女は床に積まれた書物の上にいた。

「ちょっ……! それ、大事な本なんだから乗るなよ!」

「大事だったら本棚にしまえば?」

「入らないんだよ!」

「じゃあ、大きい城を買えばいいじゃない?」

「どこにそんな金があるんだぁ!」

 このボロ屋を震わせるくらいの声で叫べば、フェリーは器用に前足で耳を塞いだ。

「そんな大きな声出さないでよ、うっさいなぁ」

「マスターに向かってうっさいはないだろ」

 オレは一応、フェリーのマスターのはずだ。しかし、この一ヶ月間、マスターらしい扱いを受けたことがない。マスターらしい扱いがどういうものか、正直分からないけれど、きっと丁寧な言動をされることだとは思う。

 だが、彼女はこうだ。

「マスターこそ、マスターらしくしなさいな」

 後ろ足で耳を掻きながら、フェリーは言う。

 マスターらしく。それもよく分からなかった。

 フェリーは小さく息を吐く。

「そんなんで魔王になれるのかしらね」

「なっ、なってみせるよ! 全員を救えるくらい強い魔王に!」

「へぇ、どんな風に?」

 からかうフェリーに熱くなったオレは、読んでいた愛読書『悪魔召喚の書』を抱えて立ち上がった。

「この本の中の悪魔を全員従えてさ!」

「あ、ポエナとティオーはやめて」

「罰と償いの悪魔?」

「昔っから真面目で小難しいのよ、あいつら」

 真面目な性格の悪魔なんているのだろうか。目の前で大欠伸をするフェリーを見ると、さらにそう思う。

「でも、……」

「何か言った?」

 またフェリーの声が聞こえなかった。

「そろそろかしら?」

「え? 何が?」

 金色の宝石のような目を眇めるフェリーに、オレは少し不安になった。まるでオレの心の中を覗かれているような気がして……と、オレの腹の虫が盛大に喚いた。

「あ……」

「アケルに行きましょ!」

 フェリーが見透かしていたのは、オレの腹具合だった。

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