一話~出会い・悪魔の呟き~
金色の瞳を片方だけ僅かに開ける。起こさないようにと気遣って部屋を出て行く青年の背を追った。
やはり疑問が湧く。
『このあたしがこんな平凡そうな人間の男に?』
この一カ月、マスターとなった青年ダリアを見てきた。
『他の人間よりも魔力は高いし、素質はある。けど、何か他に……』
悪魔を、その中でも高位悪魔を召喚するだけの何か――
フェリーキタースは、召喚された先々で滅びを迎えた人間や国を見てきている。
幸せは、諸刃の剣でもある。特に人間には、欲が生きていく原動力のひとつであり、満たされれば、歩みを止めてしまう者もいる。
たったひとりだけ、しかし違ったことを思い出す。
六百年前、フェリーキタースの力を借り、国を治めた男。フェリーキタースは、彼を心から信頼し、悪魔の自分には決して抱くことなどないと思っていた感情すらあった。彼はフェリーキタースを傍に置き、自らと人々の欲を叶え過ぎることなく、国のバランスを保っていた。
彼はよく言っていた。
『人とは欲深い生き物だ。だから、それを奪い過ぎては生きていけないのだよ、フェリー』
いつもどこか寂しそうな微笑みが、フェリーキタースを六百年前に連れ帰る。
何も不安も心配もない、屈託のない笑顔にしてあげたかった。
しかし、彼は病に侵され、亡くなった。フェリーキタースがどんなにそれを取り除くと言っても聞かなかった。これが、自分の運命なのだと彼は最期まで言っていた。
名君を失った国は、瞬く間に傾き、滅んだ。それは悪魔フェリーキタースのせいだと王の家族、将軍達や国民が騒いだ。フェリーキタースは、そうなることを承知していた。
だから、自ら封印されるという途を選んだのだ。
『あたしを召喚するだけの力を持つ者、か』
ダリアははたしてどちらなのだろうか。
どうして自分は、この青年に召喚されたのか。
フェリーキタースは、金色の瞳を再び閉じ、その疑問をまた人間が心と呼ぶ場所に隠した。