三話~呪いの書と悪魔と女神の怒り3~
街の人々の視線が、オレに――いや、オレの横を歩くミセリアに集中している。
「いやですよぉ……呪われちゃいますよぉ」
泣き言を言いながら、ミセリアはそれでも真っ黒い『呪いの書』を腕に抱えている。白い頬にかかる蒼い髪と潤む薄金色が薄幸さを演出していて、彼女の美しさが増している気がした。
が、放つ言葉が残念過ぎて、街の人達が困惑しているようだ。
「私、いつもそうなんです……みんなを幸せにしたいって思うのに、ぐすっ……やることなすこと全部裏目に出ちゃって……ぐすっ……もう呪われてるんです」
『呪いの書』をまた抱き締めるミセリアに、オレはどう声をかけていいのか困った。
「もう、昔のことをいつまでもぐちぐちと。まあ、このマスターといたら、またぐちぐち言う機会も増えるだろうけどね」
いつの間にかオレの足元を歩いていたフェリーが言った。
「それにしても、マスターの魔力も順調に高まってきてるわね。ミセリアを真の姿のまま維持できてるんだから」
「そうなのか? 自分ではあんまり自覚がないというか、実感が湧かないというか」
「魔力の成長とはそんなもん。ただ、マスターの場合は、精神的に不安定だから気をつけないと」
「うっ……」
これは言い返せない。
前回も、怒り任せに敵へ突っ込みそうになった。状況を把握できないまま動いてしまうのは、これから先さらに検討を厳しくするだろう。
「怒りは諸刃の剣。それを自覚していれば、今はいい」
「ああ」
ミセリアの暗い顔の横で、オレも項垂れた。
「もぉ~、ふたりして辛気臭い顔しない」
「だってぇ」
オレとミセリアの声が被る。
が、周りにはフェリーの声が聞こえていないので、オレ達はまた困惑した街の人々の視線を受けたのだった。
教会は、街外れの丘の上にあった。
朝は集会が開かれていたようだが、昼間は静かなものだった。
教会の造りは、宗教によって少し違うが、厳かな雰囲気はどれも似ている。中に入れば、高い天井に軋む扉の音と澄んだ空気が舞い上がる。陽の光が細い窓から射し込み、神聖さがさらに際立っていた。
奥のステンドグラスの窓に、オレはふと思う。
「そういえばさ、ミセリアはなんであの教会に?」
「え? あっ、……それは……」
言い難そうなミセリアに、オレは少しだけ罪悪感を覚えた。
「あっ、それはね」
「フェリーさん! それは自分でっ……」
「あなたは、一体?」
ミセリアの反論の大声に、静かな、しかし凛とした声音が遮った。
オレ達の視線が、その人物に注がれる。
そこには、長いローブを着た男性がいた。声の落ち着きからもっと上かと思ったが、年齢は三十代くらいか。茶色の曲毛を少しだけ伸ばし、項辺りで纏めている。毛の色と同じ瞳からは、感情を読み取れない。
「あっ、大声を出して申し訳ありませんっ」
ミセリアが慌てて謝罪をすると、男性は「いいえ」と微笑んだ。聖職者らしい穏やかさがあった。
が、それはすぐに厳しさを帯び、オレを見据えた。
「あなたは、一体何を従えていらっしゃるのですか?」
「えっ……」
感情の読み取れない茶色の瞳が、オレを真っ直ぐ見据えた。
オレの喉が、小さく鳴った。




