三話~呪いの書と悪魔と女神の怒り2~
オレの前には、まだ怪我で少しだけ辛そうなアルと、真っ黒い――呪いの書。
「ごめん、アル」
「よくあることだ」
よくあるんだ、とオレは心の中で突っ込んだ。
でも、それもそうか。物騒な読み物は、古ければ古いほどある。アルはそれと何度も対面しているのだろう。
フェリーと出会った『悪魔召喚の書』もそのひとつだ。
「まあ、世の中には物好きがいるからな」
アルの視線と言葉に、オレはにっこりと愛想笑いで答えた。
「でも、俺だって長年の経験から売っていい物とそうじゃない物の区別はついているつもりだ。これは、明らかに……」
「やばい?」
険しくなるアルの表情に、オレも声を潜めた。アルは大きく頷き、「どうしたもんか……」と腕を組んだ。
しかし、オレの不安げな顔を見たアルは、肩を竦めた。
「心配すんな。人の手に余る代物は、教会にでも持ってくさ」
「じゃあ、オレが持っていくよ!」
オレが提案すると、アルが驚いた。
「いや、そこまでしてもらうわけには……」
「オレがまたこんな厄介事を招いちゃったんだ。それくらいはするよ」
今度は、アルの目に心配が浮かんだように見えた。
「大丈夫丈夫。いざとなったら、オレには魔術があるからさ」
オレの意地に、アルは苦笑する。
「じゃあ、これもダリアに任せるかな」
古書堂カフカの閉店時間は決められていない。
『呪いの書』を教会へ持っていくため、店を閉める。アルはその間、自分が店番をすると言ったが、オレは彼の身体を心配して止めた。アルは、「お前の主は意外と心配性なんだな」とまた苦笑した。フェリーは、金色の目を細めるだけだった。
閉め作業は、売買した書物の出納帳を書いて、本棚の整理、店の清掃だ。最初はもたもたとしていたオレも、今は手際良く店を開け閉めできるようになっていた。
閉店準備を終えたオレに、フェリーがフンッと鼻を鳴らした。
「どうやって持ってくのよ?」
「えっ? どうやってって、手で……」
「それはやめられた方がいいと思います」
青い小鳥が、『呪いの書』の近くに舞い降りる。
「これは、手に振れた瞬間、術が発動するようです」
「と、いうことは」
「手で持っていくことは、すなわち」
「呪いを大歓迎するってこと」
「どうすれば⁉」
安易に請け負い過ぎた。後悔先に立たず、だ。
フェリーの大きな溜息が、ぐさりと刺さる。
「仕方ないわねぇ」
金色の瞳が、青い小鳥を捉える。小さな身体が小さく震える。
「ま、まさか……」
「他に誰が手で持つのよ?」
オレは察した。




