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一話~出会い3~

 お父さんを助けてくれないの?

 どうして? 村のため? 

 みんなのためじゃないの……?

 あなたはみんなを助けてくれるんでしょ?

 お父さんやぼくは、みんなの中には入ってないの?


 だれか……たすけて……おとうさんを……



『あなたの声を、あたしは知ってる』



「だ、……か……たすけて!」


 叫んだと同時に、目が覚めた。

 あれは、夢。何度も見る幼い頃の記憶だ。


 頭が痛い。後頭部がズキズキする。なぜだろう? 夢を見た後だからか?

 あれ? そういえば、オレは一体何をやっていたんだっけ?


「やっと起きたのね」

「え?」


 目の前に現れた金色の瞳に、オレの思考は一瞬止まった。と、思ったら急速に動き出す。


「そっ、そうだ! 契約!」


 がばっと起き上がったオレに、赤い猫は蔑みの笑みを浮かべた。


「時間切れ」

「えぇ!」


 オレの盛大な驚きに、彼女はくすくすと声を漏らした。


「冗談よ。せっかくあんなつまんないとこから出られたんだから、少しは楽しませてもらわなくっちゃ。まっ、今はこんな姿だけど」


 彼女はそう言って、自分の艶やかな身体を舐めた。

 いや、よく見ると、彼女の口は動いていない。オレの頭の中に直接彼女の声が刷り込まれているかのような感覚だった。

 彼女はオレの頭の中で言った。


「あたしの声、聞こえてるでしょ? 一応、合格ね」

「合格って?」


 しかし、彼女はオレの問いには答えなかった。


「名前を教えなさい、マスター」


 普通、マスターの方が命令する側なのに、彼女は平然と上に立った。

 が、それでも構わない。彼女がここにいることが重要で、大きな一歩なのだ。


「ダリア・カーチス……!」


 その瞬間、身体中の血が沸騰したように熱くなった。息が詰まる。激しい痺れにも襲われた。雷に打たれたらこんな感じなのだろうか。悠長に考えていられないのに、ふと思う。再び意識が遠退きそうになったオレを引き留めたのは、やはり頭の中の声だった。


「マスター・ダリア、今日からあたし――幸福の悪魔・フェリーキタースが力になろう」


 男女とも判断つかない声。しかし、彼女だ。悪魔の声と共に、身体を巡っていた熱と痺れは、一気に引いていった。解放された肺に、空気が一気に入ってきて、噎せた。


「ちょっと、大丈夫?」

「あ、ああ」


 涙目で応じるオレに、赤い猫の姿のフェリーキタースはふぅっと息を吐く。


「さっきは瓶で転ぶし、契約では噎せるし、なんだか頼りないマスターね」

「そんなことないよっ……ごほっごほっ」


 反論してみたものの、実際本当に頼りないと自分でも思う。咳で喉と肺が痛くなって、情けなさが増した。

 でも、こんなオレには目標がある。

 魔王になる。それがオレの今生きていくための大きな支えで、目標だ。

 そのために、眷族となる悪魔を召喚する。もちろん、本気だった。だから、何年もかけて独学で魔法陣や悪魔について研究し、やっとのこと、ここまで辿り着いたのだ。

 フェリーキタースは、オレの希望になる、はず……目の前で暢気に毛繕いしている赤い猫に、そんな希望を抱いていいのかは定かではないけれど。


「まぁ、いいわ。あなたがマスターってことには変わりない。気分が乗った時にでも、力になったげる」

「ほんと! ありがとう! よろしく、フェリーキタース」


 どんなにやる気のない悪魔だろうが、オレの力になってくれるのだろう、多分。

 素直に喜ぶオレに、フェリーキタースは少しはにかんだ。(オレがそう思っただけなのかもしれない)


「フェリーでいいわよ、マスター」


 彼女はそう言って、踵を返した。


「おっ、おい、どこ行くんだよ?」


 さっきと同様に慌てたオレに、フェリーはさらりと言う。


「今、気分が乗ってるから、手伝ってあげるわ」

「何を?」

「あなたの世界征服に。手始めに、この町を滅ぼしちゃいましょ」

「……え? ちょっ、ちょっとまっ……だあ!」


 またすたすたと扉に向かって歩き出した彼女を追いかけようとして、オレはまた空の薬瓶に乗っかり、今度は床と思い切りキスをしたのだった。

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