二話~悪魔の天敵?10~
息が切れる。喉が痛い。でも、これは走っているせいではない。
「ちょっ……すいません! すいませんっ……」
枯れた声でオレは街の人達の悲鳴と混乱を掻き分けながら進んでいた。
過去と重なる。心臓が早鐘を打っている。
大通りから逸れる。昨日訪ねた、このシーフの街に来る度に足を運ぶ店にオレは急ぐ。
見えてきた古書堂カフカ。古びたドアが少しだけ開いている。オレの心臓は掴まれたように痛くなった。
心は焦っているのに、恐怖で足が止まってしまった。
また失うかもしれない――その恐ろしさ。
「怖じ気づいてたら後悔するわよ?」
「ッ……」
ついてきていたフェリーの言葉は冷たかった。オレは肩を震わせる。
「しっかりしなさい! マスター!」
「!」
そうだ、オレは……!
「行くぞ」
汗ばんだ手で、扉を開けた。
むわりと生温い風がオレの身体に纏わりついた。嫌なにおいがする。オレが一番嫌いなにおい。恐い。
でも、行かなければ。
「アル……」
震える足で踏み出す。外は家々に立ち上った炎で変に明るい。が、カフカの中は暗かった。
中がよく見えない。
「アル? いるのか?」
オレはゆっくりと奥へと進む。闇と嫌なにおいがどんどん濃くなった。
そして、オレはハッとする。
予感が、目の前にあった。
「ッ……!」
恐怖が確信に変わり、オレは駆け出していた。足元にぬるりとした感覚があり、少し滑った。
「ッ……アル!」
床に倒れているアルを抱き起せば、手にもぬるっとしたものがついた。血だ。
「あっ……」
「だから、しっかりして! マスター!」
横に、フェリーがいた。が、猫の姿ではない。
美しき赤い悪魔の姿だった。
「フェリー……」
「まだ助かる。急いで回復の術を」
「あっ、ああ」
フェリーの冷静な言葉に、オレはアルの傷口に手を当てる。アルの自然治癒力を高める。どくどくと流れる血が、少しずつ正常な脈へと戻る。
が、これは応急手当だ。
「はやく診療所へ……」
不意に背後から気配を感じて、オレは振り向いた。フェリーが睨むように扉を見据える。
「君の持っている物をこちらへ」
掠れた声音に反応して、黒い風が巻き起こる。逆光になって顔は見えないが、道中にオレを襲った風だと分かる。
「それか、君自身が我々と共に来てくれるかい?」
「……ふざけるなよ?」
さっきまでの恐怖は吹っ飛んだ。
オレの中で何かがキレそうだった。




