二話~悪魔の天敵?9~
――またこの夢だ。
肌に感じる風に、一歩踏み込む度に沈む土の感覚は現実味を帯びているのに、夢だと分かる。
木々に囲まれている朽ちかけた教会。誰も足を踏み入れなくなって何年、いや何十年、何百年と経つのだろう。
見たことのない風景だけれど、どこかで覚えている。
……そうだ、あの本の挿絵だ。夢だと分かるのに、本の表題が……
気付けば教会の中へ足を踏み入れていた。
天井は高く、足音がやけに響く。それすらも陽炎のような夢。でも、とてもリアルだ。
礼拝堂の奥には、ステンドグラスと輝く女神像が――いや、これは女神ではない。
『天使……ッ』
瞬間、像がさらに輝きを増した。
『!』
オレは眩しくて右腕を目の前に翳す。
すべてが見えなくなるほど、眩しい。
…………!
何か聞こえる。声――? フェリーのような……
ドスンッ、と大きな音がして、部屋が激しく揺れた。
「ッ……なんだッ……?」
いつの間にか腰かけていた恰好からそのまま後ろに倒れて眠り込んでいたオレは、巨大な音と振動に飛び起きた。
「やっと起きたわね」
焦るオレに、窓際に座ったフェリーは優雅にも聞こえる声音で言った。
「なっ、一体何が……?」
「襲撃よ」
「しゅっ、襲撃って……なんでそんな落ち着いてんだよ!」
「暢気に寝てたマスターに言われたくないわね」
「うっ……」
痛いところを突かれ黙れば、再び振動が襲った。外から悲鳴が聞こえ、ざわめきが一層大きくなる。
「マスター」
よろけるオレを別に心配することもなく、フェリーは窓の外を見るように促した。オレは少しだけムッとしたが、今は喧嘩をしている場合ではないことくらい分かる。フェリーに促され、床を這いながらもオレは窓際に寄る。が、窓枠の下で止まってしまった。
心の奥がズキっと痛む。この先に広がる光景。オレは正直見たくなかった。
「マスター、逃げるとこが違うわよ」
「わっ、分かってるよ!」
ここで逃げれば、オレはきっと一生魔王になれない。
オレは、意を決し窓の外を見た。
「あ……」
予想通りの光景だった。お昼近くの賑わうシーフの風景はそこになく、混乱と恐怖に路地を逃げ惑う人々がオレの目に飛び込んでくる。細道にあるこの宿屋前でもこうなのだから、大通りは混乱の極みだろう。
と、またメイン通り方面から爆発音が轟く。オレは反射的に身を竦めた。
「集中して。感じるはずよ?」
フェリーの言葉にオレは無言で頷く。
「術者が……いる」
「ええ。しかも、前にマスターを襲った奴と同じ」
そこまで分かるのか。オレは窓際から動かず、視線も外から逸らさないフェリーを見上げた。
雑音と混沌とする街の気配に、オレはすっかり怖気づいていた。
「ほらっ。すぐすぐビビらない!」
「あっ、ああ!」
フェリーの叱咤にオレは反射的に頷く。
ふと、横にテウの気配がした。街中まであまり追ってこない精霊なのに、一体どうしたのだとオレは視線を横に移す。
「えっ……?」
そこには慌てふためいたテウ。
オレは嫌な予感がした。いや、確かにはじめて聞こえた、テウの言葉。
『アカッ……イッパイ……ホンのヒト、シヌ』
「ッ――!」
「ちょっ……! 待ちなさい! マスター!」
フェリーの制止は、オレが勢い良く閉めた宿屋の薄いドアにビリビリと響いただけだった。




