二話~悪魔の天敵?5~
澄み渡る空は、この世界には何もやましいことなどないと語っているようだった。気持ち良いとも思うが、オレのように部屋に籠りっ放しで夜間型の人間にとっては、眩し過ぎるくらいだ。
フェリーに言わせると、空は何もないただの空間らしい。色も地上に最も届きやすい光の集まりだ。夢も希望もないと言えば、『この世にそれがないから、あたしがいんのよ』と鼻で笑われた。
それもそうか。だからオレは、フェリーという幸福の悪魔を呼び出した。呼び出せたのかもしれない。
オレは、鞄の厚い山羊の皮の上から、『悪魔召喚の書』を撫でた。かなり重量のある書だが、これは肌身離さず持っていなければならなくなった。これを狙っている奴らがいる事実。オレは、『魔王になる』という夢以前に、何かとんでもないことに巻き込まれているらしい。
「マスター、はやくぅ」
「あ、ああ」
気付けば、前を行くフェリーとオレの間の距離が、かなり開いていた。振り向くフェリーに、小走りで追いつく。
山間にあるガラーナから隣の町や村に行く公道は、今オレとフェリー、テウ(他の人間には見えていないけど)が通る一本しかない。が、時々ガラーナに向かう荷馬車や商人と擦れ違うだけで、行き交う人はほとんどいなかった。
「ガラーナがどんだけ寂れた町なのか分かるわね」
「寂れてんじゃなくて、人があんまりいないだけ」
「それを寂れてるっていうんじゃない? マスター」
「うっ……」
言葉に詰まるオレを、テウが手を叩いて面白がっていた。
「笑うなよ、テウ」
「笑いたくもなるわよねぇ、テウ」
渋い顔をするオレとくすくす笑うフェリーを交互に見て、テウはまた愉快そうにコクコク頷いた。
こんな風に人外のふたりと話していても、不思議がられることがないほど、人が通らない道だった。
温かくなり始めた風が、オレ達を通り越していく。長閑な時間だった。
暫くすると、不意にフェリーが言った。
「マスターはなんであの町にいるの?」
「え?」
その問いに記憶が蘇る。
オレは肩を竦めた。
「オレの心が読めるんだろ?」
「あなたは肝心なとこをすごく奥深くに隠してる」
「あの町にいることが肝心なことなのか?」
「自分でも気付いてないのね」
今度はフェリーが肩を竦めたようだった。
「隠してるんじゃなくて、仕舞い込んでるのかしら。見ないようにして」
風が吹く。
オレはオレを通り越していく風を思い切り吸い込んだ。季節が変わり始めている。
オレは、あの頃から変われているのだろうか?
「生きている者に、変わらないもんなんかないわ。神くらいよ、変わらないのは。変われない、って言った方がいいかもしれないけどね」
少し不満げなフェリーに、オレは首を傾げた。が、何も訊かなかった。
「で、そろそろ気付いたら?」
「奥に仕舞い込んでるっていう気持ちをか?」
「違うわよ。ほんと鈍感ね」
テウがオレの前で立ち止まった。
「どうした?」
「来るわよ」
「え?」
フェリーの言葉を合図にしたかのように、風が唸った。




