二話~悪魔の天敵?4~
オレはベッドの端に腰を下ろしていた。立っていたら、足が震えてしまう。
どうしてこれほど衝撃を受けてしまったのか、自分でも理解できない。
「ほんとに大丈夫か?」
「ああ」
ディーンは何度目かの問いに、オレは同じく何度目か分からない頷きをしてみせた。
でも、動揺はなかなか抑えられなかった。
自称元王で自国の民の霊を操るネクロマンサーだった男、グレア・アレクサンが死んだ。
ディーンが言うには、突然だったらしい。死因も不明。ただ最期に苦しみながら、『申し訳ありません』と誰かに謝罪をしていたそうだ。
「あいつも、誰かの手下だった……ってことか?」
「さあな」
ディーンの顔は険しいままだった。
「だが、最近この近辺で妙な集団がいると噂が流れてきている」
「妙な集団?」
「魔術を使う宗教団体で、信者を増やしているんだと」
ディーンがオレを訪ねて来た理由は、それか。
「で、オレにそれを調べろ、と」
「話が早くて助かる」
オレの言葉に、ディーンは苦笑した。オレはそれに少しだけ違和感を覚えた。
「なんだ? あんまり乗り気じゃないみたいだけど、オレにばっか良い格好させたくないってか?」
わざと冗談交じりに言えば、ディーンは「そういうわけじゃないが」と言葉を濁す。
「ほんとなんだよ? いつもは『じゃ、よろしく』って丸投げするくせに」
「丸投げとは失礼な」
「本当のことじゃないか」
「おまえの力を信じているんだよ」
「物は言いようだな」
オレの言葉に、ディーンは漸く笑った。でも、やはりいつもの彼ではない気がした。
「ダリア、断ってもいいぞ」
「は?」
不意に言われ、オレは呆気にとられた。
ここまで来て、なぜそんなことを言うのだろうか。
さっきの衝撃と、知人からの言葉に、不安が増していく。
「オレの力を信じられなくなったのか?」
「そういうわけじゃない」
すぐに否定されて、少し安心した。
「なら、……」
「おまえも、アレクサンのようにならないか……と思ってな」
オレから視線を外したディーンは、言い難そうに呟いた。
これは、心配されているということなのか。
「オレは例え魔王になっても、民を操るような人間にはならないよ」
「そんなことは分かっている」
普段ならオレが『魔王になる』と言えばからかってくるディーンだが、今日は真剣そのものだった。
「おまえの力も、性格も、俺は今まで見てきている。魔王になりたい、という夢は置いといたとしても、人の弱みに付け込むような男ではないことくらい分かるさ」
「夢は置いといて、は引っかかるけど……あ、ありがと」
視線は外されているとはいえ、目の前でそう言われると、恥ずかしかった。
夢は置いといて、はやっぱり引っかかるけど、それでも分かってくれる人がひとりでもいることが、純粋に嬉しかった。
「俺が懸念しているのは、前みたいに倒れやしないかってことだ」
「あ……」
ネクロマンサーとの戦いの後、オレは一週間近く身体が動かなかった。
妙な集団は魔術を使うという。もし交戦することになれば、術での戦術が基本になるだろう。高度な術を使う者もいるかもしれない。そうなれば、オレもそれなりの術で応戦することになる。地の精や風の精など、自然の精霊達に手伝ってもらうならそこまで気力も体力も使わないが、高度な術はそうはいかない。
何よりも、フェリーの力を借りることになるかもしれない。それが最も生命力を使う。ディーンには言えないけれど、前に倒れたのはそのせいなのだ。
「まずは調査だし、大丈夫さ」
オレは適当に言って、笑った。
「それに、人を傷付けるような術をオレも使いたくない。もしもの時は、全力で逃げることを考える」
「……ダリア、……ああ、そうしてくれ」
ディーンは何か言いたそうだったが、それ以上は言わずにいてくれた。
「で、オレはどこへ行けばいい?」
オレは、こうして妙な魔術集団を追うこととなった。




