一話~出会い10~
夢を見た気がする。
幼い頃の、あの夢ではなかった。
幸せな、夢。
過去のことなのか、未来のことなのかは分からない。
でも、オレは確かに誰かと笑い合っていた。
そんな夢だった――
痛い。どこが痛いかは分からない。そんな痛みで目が覚めた。見慣れ過ぎている天井が、ぼんやりと視界に映る。
「ここは……オレの部屋?」
オレは生きている。
あれは、夢だったのか?
「ッ……う……」
身体を起こそうとしたが、無理だった。痛みが重みとなって、全身に圧し掛かってきた。
誰かが横にいる。小さな寝息で分かった。
誰だろう……?
首を動かすことも億劫だった。どうにか目玉だけを横へと動かす。
「フローラ?」
ベッドの端に突っ伏すようにして、彼女は眠っていた。
なぜここに?
思考もなかなか正常に働いてくれない。
フローラの栗色の横髪が、微かに赤い頬にかかっている。泣いたのだろうか。
フローラ、どうしたの?
もっとちゃんと顔を見たくて、頬にかかる髪を横に撫でたかったが、指先すらも動かせなかった。
オレ……なんでこんなに動かない?
浮かんだ疑問をまた考える。こうなっている理由を思い出す。
昨夜、フローラがいなくなって、山小屋でネクロマンサーと戦って、大蛇が現れて、それから地の精と――フェリーの真の姿。
オレは、どうしてこうしているのだろう?
大蛇はフェリーが倒した。そこまでは思い出した。
「フローラを助けに……えっと、山小屋の中……」
「やっとお目覚め?」
「え?」
フローラとは反対側から声がした。また目玉だけを動かした。
窓が少し開いている。陽が高いようで、外は明るかった。
珍しい。この時間に起きているなんて……
「フェリー」
「ったく、どっかの誰かさんがベッドの横を占領してるから、あたしが眠れないわ」
フェリーは大欠伸をして言った。
「オレ……どうして?」
「ギリギリ合格」
フェリーは笑った。猫の姿だから、きっと笑ったのだろうと思う。
「冷や冷やしたけどね」
その声が優しく思えた。でも、きっと気のせいだ。
「なんか、疲れた……」
「そりゃそうでしょ。あたしと契約してるんだから」
瞼が重たくなる。かなり眠っていたはずなのに、思考が追いつかない。
「もっと強くなってもらわないと困るわ」
「うん」
「マスター、あたしはね、見てみたいのよ」
何を? オレのその問いは、眠りの泉に沈んでいった。
「でも、今は休みなさい。恐い夢を見ないように、あたしがここにいるわ、マスター」
安心した。
父親がいなくなってから、オレははじめて深い眠りにつけた。
なぜかはやはり分からない。
規則正しい青年の寝息が、過去と呼ばれる時間を思い起こさせる。
「……見てみたい」
フェリーキタースはもう一度言葉にした。
「あなたが望む世界を」
もう一度。
ダリアの寝顔は、とても穏やかだった。
六百年前の彼のようだ。
少しだけ不安になった。
でも、寝息がそれを優しく取り払ってくれるようだった。
穏やかな時間。いつまでも続けばいいと思う。
悪魔であるはずの彼女は、自分のそんな想いを自嘲し、笑った。




