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一話~出会い8‐②~

「フローラがどうしたんです?」

 今度はオレが訊いた。

「おまえの所に晩飯を持っていくと言って出てったっ切り、戻って来ねぇんだ」

「え?」

 なぜ、フローラがオレに夕食を?

 ディーンがヒューと口笛を吹く。オレはそんな知人を睨んだが、込み上げる嬉しさはなかなか抑えられない。

「ほんとどこへ行っちまったんだ……」

 ゲルのその言葉と、フローラがここに来ていないという事実に、照れ臭い喜びは掻き消えた。

「ここには来てないよ」

「それはさっき聞いた。一体どこへ……?」

「他に行くところがあったとか?」

 膨らむ期待と不安に押し潰されそうなオレの横で、ディーンがゲルに尋ねた。しかし、ゲルは首を横に振る。

「いや……ダリアに晩飯を届けたらすぐに帰ると言っとった。だから、俺はてっきり話し込んでいるのかと思ってな」

「なんでオレに?」

 素朴で不謹慎だが嬉しさを含む疑問だった。

「昼間、おまえに食い逃げ野郎の分まで払わせたことを申し訳なく思ってよ。フローラがしばらくダリアに晩飯を作ってやってくれ、とさ。ちくしょう……俺が持ってくればよかったぜ」

 バツの悪そうな顔で言ったゲルに、オレは再び嬉しさのような喜びのような、久々に温かい感情を覚えた。が、ゲルが実際ここに持ってきていたら、少々その感激度が薄れていたかもしれない、と失礼なことも思ってしまった。

 でも、今はそんなことを思っている場合ではない。

「おまえのとこに来てないとしたら……あぁ! ちくしょう!」

 オレとディーンは目を合わせる。

「オレ達も捜します」

 ゲルは一瞬希望を目に灯したように見えた。多分、藁にも縋りたい気持ちからだろう。オレ達の方がフローラの行きそうな場所など知らないのだから。それでも、人手が多い方がいい。

「俺は戻って、まず応援を呼んできます」

「よろしく頼む」

「オレはこの周辺を捜してみます」

 術で、とは言わなかった。ディーンはいいとしても、ゲルはそういう類の力をあまり信じていないようだからだ。

「ふたりとも、すまないな」

「何言ってるんですか。こういう時こそ助け合わないと」

 ディーンが、ゲルを安心させるように微笑んだ。

 オレも、そうだと思う。でも、ディーンのように純粋にそうだとも言えなかった。

 オレの住んでいた村にも、ディーンみたいな人間がいればな……

 幼い頃の記憶が、オレを人間不信から解放してくれなかった。

 ディーンが出て行った後、ゲルもまた町の方面に最愛の娘を捜しに戻った。

 オレは家から出て、とりあえず地の精霊に手伝ってもらうことにした。

 が、言霊を唱える前に、声が上から降ってくる。

「やめときなさいよ」

「フェリー、そこにいたのか?」

 屋根の上に、三日月を背負うようにして赤い猫が座っていた。

「人助けなんて魔王がすることじゃない」

「フローラに懐いてるのに、随分と冷たいな」

 フェリーの冷淡な声音に、オレは苛立ちを覚えた。

「あれは、別にそうしたくてしてるわけじゃないわ」

「じゃあ、なんでフローラにだけ撫でさせるんだよ? オレやエイミや、ディーンからはすぐ逃げるくせに」

 嘆息が聞こえる。金色の瞳が、つまらなそうに細められた。

「ああすれば、マスターも話しやすいでしょ? 彼女、猫が好きみたいだし」

「え……? オレのため?」

 また大きな溜息がひとつ。

「ほぉんと鈍感」

「あっ……!」

 驚く間もないほど、フェリーは家の裏の方へと身軽に跳んだ。

「ちょっ……! またどこ行くんだよ?」

 駆け出すと同時に、項辺りがざわっと泡立った。

 何か良からぬ者が近くにいる。精霊ではない。人間でもない。神でも天使でも、悪魔でもない者。

 オレは、ゆっくりと振り向いた。

「ッ……」

 ぽっかりと空いた目。人の形として分かるのはそれだけだった。

「悪霊……!」

 そいつは天に向かって耳を劈く奇声を発し、勢い良く霧散した。

「!」

 咄嗟に腕を翳す。塵が舞った。が、それよりも辺りに広がるなんとも言えない臭いに、翳した腕を鼻へと移す。が、無駄だった。

 オレはこの臭いを知っている。腐臭だ。

 悪霊が消えても尚纏わりつく臭いに噎せた。辺りを見回す。まだいるかもしれない。しばらくそうしていたが、もう気配はなかった。

「ん?」

 悪霊がいた場所に何か落ちている。それは、丁寧に折り畳まれた紙だった。

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