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一話~出会い1~
『だれか……だれか、父さんを助けてぇ!』
数多の叫びに掻き消された。逃げ惑う人々に呑まれて、大きな背中を見失った。
何かの咆哮が聞こえた。続いて、断末魔が耳を劈いた。
だれの声……?
聞き慣れていたはずの声。優しかった語り口調は、その中になかった。
逃げ惑う人々が、佇むぼくを睨みながら通り過ぎていった。
最後には押し退けられた。倒れた道の脇に、踏み潰された花と蕾があった。
これは、父さんとぼくだ。
誰も助けてくれない。
諦めるんだ――……
妙に凛々しい表情の男が、蹲っていたぼくにキッパリと言った。
だから、ぼくは――オレは、正義の味方を信じない。
そう思うようになったキッカケは、なんか遠い過去のようで、今でも鮮明に思い出せもする。
正義の味方なんて嫌いだ。
結局、全員を救えない。分かっている。
だったら、オレは反対に魔王になろうと思った。
正義の味方を倒してやる魔王に。