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滅茶苦茶なシスコン剣士の妹件  作者: 魔王
過去よりも未来よりも今を生きる血族たちへ
83/83

血の宴

「魔女の成れの果て?」


ティルから聞かされた答えは俺の予想を斜め上をいくものだった。

「そう、つまりぶっちゃけるなら私は元魔女ということになるわね」

「やばい、話が理解できない」

唐突な爆弾に俺はオーバヒートしていた。というか俺の頭って結構馬鹿だったりする?

えぇと、本来俺たちが教えられていた魔剣について話すとティルが言ったこととは根本的に違うことになる。

魔剣とは、鍛冶師が打った武器に呪いなどの念が取り付いたケースと捨てられた剣が何らかのはずみで意志を持ち強力な力を宿しているもの、というのが今まで教えられてきたことだ。

それがまさか、魔女の成れの果てだって?

そいつは予想外だってばよ。

「女神も魔女も、死んだら天に帰るんじゃないのか?」

「普通はそうね」

「普通は、か」

「私達は死んだら本来の肉体を捨て神の元へと戻る、そう聞かされていたわ。でも真実は違った」

「それが、魔剣の姿ってことなのか?」

「少なくともね、女神がどうなのかは知らないけれど魔女は死んだら間違いなく魔剣の姿になるわ」

「なんでそう言いきれる?」

「それは見てきたからよ。あなたと出会うもっと前に…」

ティルは遠い目をしてどこか俺ではないどこかの空間を見つめてそう言った。

「そうか」

「えぇ、でも一つ言えることは私だけがイレギュラーだったという事ね」

「イレギュラー?」

「私だけが過去の記憶を持っている。魔女であった頃の」

「ティルだけがってことはほかの魔女は?」

「魔女の頃の記憶が全て無くなっているわ」

「その中でティルだけが記憶を持ってると」

「なぜかは、知らないけどね」

今の俺にはティルが何を考えているのか分からない。

どうして急にこの話をしたのか…。

全く意図がつかめない。

そんな中、ふと昔のことを思い出した。

「いつぞやに聞かせてくれたあの童話はティルのことと関係しているのか?」

「もちろん、だって私の実体験だもの」

「そ、そうか…」

子供の頃にティルはよく話をしてくれた。

それこそ母が子にしてくれるような御伽噺みたいな読み聞かせを。

その内容はいつも最後は裏切られて終わる悲しいものばかりだった。

その話を今でもはっきりと俺は覚えている。

「でももうそんな昔のことなんてどうでもいいわ。だって今の私には貴方がいるもの。そうでしょう?ライ」

「そうだな、何はともわれティルには俺がついてる。と言うより俺がティルについてもらってるっていうのが正しいのかもしれないな」

「別にどっちでもいいわよ。で、ココ最近思ったの」

「?」

「あなたを独り占めにするにはどうしたらいいのか」

「ほほぅ」

「考えた結果、私は魔女に戻ることにしたわ」

「ん?」

「魔女に戻って貴方を私の執事バトラーにすればずっと私の傍にいられるもの」

「魔女に戻るって、そんなことが出来るのか?」

「条件は満たしたわ」

ニヤリと不敵に笑うティル。

彼女の言っていることが本気だと示すようにティルは己自身であるティルフィングの切っ先をライに向ける。

「私が魔女に戻る条件は私の中にある血の盃を満たすこと。そしてそれは満たされたのよライ、貴方の血でね」

「この前のか…」

俺はちょっと前にソレーユとの戦闘とレベンとの戦闘で吸血化ブラッドリンクを使って大量の血をティルに吸わせている。

間違いなくそれが原因であろう。

「そうよ、だから使うのはやめなさいとあれほど忠告したの」

「すまん、悪かったな」

「いいわよ、おかげで私は魔女に戻れるのだから」

「ティルは本当に魔女に戻るのか?」

「不安?」

「そりゃな、ティルがティルでなくなっちまうんじゃないかって思っちゃうな」

「平気よ、だって今日は私にとって最高の日だから」

ティルはそう言うと指を一つ突き立てて天を指す。

俺はその指につられて空を見ると月が紅く照らされていた。

そのせいか辺り赤い暗闇に包まれている。

そんな幻想的で危機を過ぎらせるような風景に少し焦燥を覚えずにはいられなかった。


「今日は百年に一度の血ノブラッドムーン、私の力はかつてないほどに満ち足りているわ」

ティルの全身が怪しく紅く光り出す。

それはティルフィングの時に吸血させた時と同じような禍々しい光だった。

次第に光が収まっていきティルが姿を現す。

その姿は先程まで着ていた純白のドレスは無く、代わりに真紅色のドレスを身にまとっていた。

そんなティルの背中には真っ黒な翼が生えていた。

まるで悪魔のような…。

「ティル…」

ティルはその翼で地面から飛び立ち紅い月を背後にバサッと翼を大きく広げる。

「ふふ、何百年ぶりかしらね。この姿になれたのは」

「それが魔女の頃の姿なのか?」

「えぇ、驚いた?」

「びっくりしたよ」

「ならサプライズ成功ね」

そう微笑むティルの口元には異常に長い犬歯が見える。

まるで物語に出てきた吸血鬼みたいだ。

「ライ、あなたの事だからもう察しはついてると思うけど改めて自己紹介しておくわ」

ティルはその翼をはためかせて俺の前に降り立つと真紅色のドレスの端をつまみお辞儀した。

「初めましてライ・シュバルツ、私は無血の魔女リタ・バートリー」

「それがティルの本当の名前なのか」

「そうよ、あなたのおかげで私は魔女にまた戻れたのだからお礼として真名を教えてあげたまでよ」

「いいのか?魔女はその名に強力な縛りを持っているのはわかってるよな?」

「私をそこら辺の魔女と一緒にされても困るわ。試しに呼んでみなさい」

そう誘うティルに俺は少しだけ迷う。

「ネアみたいになったらどうする?」

「その時はその時よ」

別に構わないと思っているのかティルは平然としていた。

そもそもたった今ので魔女に戻ったというのも信じ難い話ではある。

でもまぁティルのことだから嘘なんて一つもついてないんだろうな。


「ティル」

「それは本名じゃないわ」

「いーや、俺にとってはティルはティルだ」

俺はここだけは譲れないと頑としてそう言う。

そんな俺の姿にティルは驚くのでもなくただ静かにふふっと微笑むのだった。

「あなたらしいわね」

「だろ?」

「でもいいのかしら?ここで私を止めないと後が大変なんじゃない?」

「それなんだけど、リーナ達と喧嘩でもしたのか?」

思うにティルがここまで本気でなにかするには何かしらの原因があるのではと考えた。

もしかしたら俺の与り知らぬところでリーナ達と喧嘩しちゃったのだろうか?

「至って仲は良好よ」

「じゃあ…」

「あなたが思うようなことは何一つとして起きてないわよ」

俺の言葉をさえぎってティルはそう断言する。

「原因はリーナ達じゃないわ、貴方よ」

「俺!?」

しかも俺が探り当てようとした事まではっきりと言ってくる。

長年付き合ってきただけあってティルにはなんでもお見通しのようだ。

しかも原因俺だった…。


「無駄話はこれぐらいにしましょう」

再びティルが翼をはためかせるとフワリとその場から宙に飛ぶ。

「ライ、私のわがまま聞いてくれる?」

差し出されたティルの手を優しく取ると、俺の体もフワリと宙に浮いた。



「私の、私だけのお兄ちゃんになって」



真紅色に光る瞳が真っ直ぐに俺を射抜く。

有無を言わせぬような、そんな強烈なオーラに当てられる。

それでも俺は兄として妹の願望には答えなければならない。

「ティル…」

全てを言い終える前に俺の視界は変わり、浮いていたはずの体は地に足をつけていた。否、引き戻されていた。

ティルとは反対の手を誰かに握られていた。

「にぃ」

その手を握っていたのは何時からそこにいたのだろうか、そこにはリーナが立っていた。

リーナはライと繋いだ手をぎゅっと強く握る。

決して離さないように。

「リーナ」

「にぃ」

リーナは空に舞うティルを静かに見つめる。

まるでなにか訴えてるかのように。

「ふふ、時間をかけすぎたようね」

ティルはライと繋いでいた手を離し、そのままリーナ達から距離をとるように下がる。

そこでティルは真っ直ぐにリーナと向き合う。

リーナも真っ直ぐにティルと向かい合う。

「ごめんなさいねリーナ、私はもう決めたの」

「……」

「貴方達ではライを守れない。ここにいればいずれライは命を落とすわ。それを防げるだけの力があなたにあるかしら?リーナ」

「……にぃは」

「その人は何度忠告しても無茶ばかりする。それはこれからもきっと変わらない。でも私の側にいればもう無茶もさせないし危ないこともやらせたりしないわ」

「……にぃ、は」

「だから、ライを私にちょうだい」

リーナの言葉を遮るようにティルは続けざまに言葉を紡いだ。



目の前でティルとリーナが正面きって話しているがティルはリーナに物言わせないようにしてるように見える。

そして最後にティルの放った言葉にリーナは無言のまま固まってしまった。

「リーナ…」

目の前で心做しか小さく震えているように見える愛妹になにかしてやりたいとライは手を伸ばそうとするがその手がリーナを撫でてやることは無かった。

なぜならライの体は紅い鎖に縛られて既に動けなくなっていたから。

「お、いつのまに…」

それに手足の自由自体があんまり聞いてないような気がする。

全然力が入らない。

リーナを慰めてティルを止めさせたいのに体が動かない。

思考さえも回らなくなってきている。

そんな俺の横を二つの影が通り過ぎた。

その際にぎゅっと両手を握られた感触だけははっきりと伝わった。



「リーナ!リーナは私たちのお姉ちゃんなんだからビシッと言ってやれ!」

「そう、ね。独り占めはよくないもの、ね」

ティルに何も言い返せなくなり黙ってしまったリーナの肩を叩いたのはアリシアだった。

反対側にはネアもいて優しく手を握ってくれている。

二人のおかげでリーナもやっとティルに押しつぶされていた自分の言葉を吐く。

「にぃは、にぃのもの、ぜんぶ、にぃがきめる、こと、だから、あげたりなんて、できない」

「そう」

リーナの言葉を静かに聞いていたティルはそっと瞳を閉じる。


「なら私達は初めての姉妹喧嘩をすることになりそうね」

そう言ってティルは片方の瞼を開ける。

その瞳には魔法陣が描かれていた。

それは誰も知らない古代の魔法の一つ、魔女にとって魔眼の原点となる魔法陣。

最初に動いたのはネアだった。

ネアはリーナをそのまま自分のところに引っ張り、風魔法でアリシアを反対側に飛ばす。

その間を一筋の赤い閃光が通り過ぎる。

「私は貴方達を殺めても彼を奪うわ」

そして閉じていたもう片方の瞼も開ける。

「例えライに死ぬほど恨まれたとしても」

その瞳は紅く禍々しいモヤのようなものが溢れ出ていた。


リーナは知っている。

今まで彼女が嘘をついたことがないということを。

いつだってティルは本当の事だけを言ってきていたことを。

彼女の吐いた言葉には嘘の欠片なんてない。

だから今回も本気なのだと。

そう感じた時には私の体は動いていた。

たとえ自分自身に力がなくても、それでも私がこの中で一番お姉ちゃんなんだから、と。

(にぃ、きっと、こんなこと、のぞんで、ない!)

リーナは自分を守るために袖を掴んで引っ張ってくれたネアの手を優しく解きしっかりと自分の足で台地を踏みしめる。

今度はちゃんとティルと向き合うために。


「ティル」

「言っておくけど手加減なんてしないわよ?」

「いい、それでも、とめる、から」

リーナはその手に光の剣を顕現させる。

「非力ね、そんな脆弱な剣では私を止めることなんて夢のまた夢よ」

ティルもリーナと同じように自分の分身でもあるティルフィングを顕現する。

「非力なんかじゃないぞ、今のリーナは最強だぞ」

「私たちがついてるから、ね」

リーナの左右にアリシアとネアがたちそれぞれ構える。

「可愛い妹達に一つ教えてあげるわ。私はあなた達の存在で言う所の先代よ。それでもまだ刃向かえる?」

「それでも私はここから引く気はないぞ」

「同じく、ね」

「そう、じゃあ覚悟はいいわね」

ティルは剣を構える。それもリーナがよく知っている構え方だ。

だからリーナも構える。

誰よりもずっと見てきた人の姿を思い浮かべて。

それと同時に横にいたアリシアとネアも動く。

最初に動いたのはネアだった。

「アイシクルショット」

ネアの後ろに多重展開された氷柱つららがティルに向かって飛んでいく。

逃げ道のない多数の氷柱にティルはたじろぐことなく対処する。

「ブラッディスピア」

ネアの無詠唱と同じようにティルも同じように無詠唱で魔法を行使する。

ティルの背後にはネアと同じように無数の紅い槍が顕現される。

それが一寸の狂いもなくネアの放った氷柱に一つ残らず当たり砕ける。

「なら、これならどうだ!」

アリシアは自分に強化魔法をかける。

魔法を自分にかけたアリシアの体は淡く輝き始める。

そこでアリシアはティルに真正面から突っ込む。

「ネア!」

アリシアの呼応に合わせて二つの黒い剣が飛び出す。

それを両手で掴み取りティルに斬り掛かる。

「はぁぁぁぁ!!」

「とても素直な剣筋ね」

そんなアリシアの剣撃を涼しい顔でティルはその手に持つティルフィングで受け流す。

「くっ、ティルはお兄ちゃんを連れて行ってどうするつもりなんだ」

「言ったでしょ、独り占めするためよ」

「ティルは私たちがいることが不満なのか?」

「…不満、と言われればそうなのかもね。結果として私と彼の時間は少なくなったわけだから」

「でもティルはずっと剣の姿のまま出てきてくれないじゃないか!ティルは私達のことが嫌いなのか?」

「…話しはここまでよ、アリシア」

ティルはアリシアの持つ黒い剣を二つとも粉砕し衝撃波でアリシアを飛ばす。

そこにすかさずネアが魔法を打ち込むがどれもティルの魔法によって打ち消されてしまう。

「お得意の騎士サーヴァント達は呼ばないのかしら?」

「私一人で充分、ね」

ティルの挑発にネアは反応することはなく魔法を展開する。

それもネアにできる最大限に、同時に六の魔法を展開して。

それはティルにも真似出来ない芸当だ。

それでもティルはそんなネアの魔法の量に圧されることなく適切に処理する。

「どうして…、これだけの量を捌ききれる、の」

「物量で言うのならネアの方が上ね、でもそれだけ多重展開すれば一個一個の魔法の詰めが甘くなるわ。私は多重展開なんて器用なことは出来ないけれど一つの魔法を使うことに関してなら右に出る者はいなかったわ」

「うぐっ!」

ティルの魔法がネアの嵐のような魔法を潜り抜けて肩を貫く。

貫かれた場所に傷はないが代わりに強烈な脱力感が身体を襲う。

あまりの辛さにネアは片膝をつき、多重に展開されていた魔法の嵐が止む。

「魔法の技術に関してはあの魔王よりも私の方が上だったわね」

ネアの肩を貫いたレーザービームを使ったティルの瞳の魔法陣がまた紅く光り始める。

その光が最高潮になると同時に紅い閃光が瞬く。

その狙いは確実にネアの心臓目掛けて放たれた。

「神なる聖盾、全てを守れ!アイギス!」

すんでのところでアリシアが割り込み防御魔法を唱える。

ティルのレーザービームはアリシアの展開した光の盾に弾かれ霧散する。

「残念」

「かはっ!?」

「っ!」

完璧に防いだ、そのはずだった。

なのにアリシアの心臓には撃ち抜かれたかのような感覚に陥り倒れた。

その後ろにいたネアも同じように心臓貫かれ既に意識を失っていた。

「どう、して…」

「私の魔法は全てを貫く。だから防御魔法を使っても、どれだけ分厚い鎧や壁を盾にしても射程範囲内であれば貫くわ」

「そんな、魔法、きいたこと、ないぞ…」

「そうでしょうね、ずっと昔の魔法だもの」

「くっ、まだ…」

アリシアは身体にかかる脱力感を振り払い立ち上がろうとする。

しかしその足は産まれたての子鹿のようにプルプルと震えていた。

「今のあなた達では止められない。アリシアに関してはなおさらね、パートナーのいない女神は本来の力を発揮できないもの」

「そんなの、もうとっくの昔にいるぞ」

それでもアリシアは足を叩いて力を入れる。

「ここに!」

アリシアはそう言ってライの方に振り返る。

ニコッと笑う彼女の姿はとても可愛く、とても強く見えた。

「だから、ここでティルを止めるぞ!ネア!」

「っ!」

気絶していたはずのネアはまだアリシアの後ろにいるはずなのにティルの背後にもう一人のネアが迫っていた。

「幻惑魔法ね、流石に騙されたわ」

「ケイオスインパクト!」

至近距離にまで迫ったネアは自分の得意とする神闇魔法の中で最大級の魔法を放つ。

凝縮された黒いオーラが一気に放出される。

それは衝撃波となってティルを襲う。

「はぁ、はぁ」

渾身の一撃、それも回避不可能な至近距離での発動。

どう考えても必中の魔法だった。

「中々いい一撃だったわ」

「そんな…」

本来ならその威力で動けないはずなのに、ティルは涼しげに何事もなかったのように立っている。

それも魔法の放ったネアの手に自分の手を重ねて。

「まさか、ね」

「そのまさか、よ」

ティルはネアに隙を与えることなくその綺麗で色白な首筋にカプっと噛み付く。

「あぐっ!」

「妹を寝かしつけるのも姉の役目ね」

そのままネアは糸の切れた人形のようにパタリと動かなくなった。

そんなネアをティルは片手で受け止める。

「ネア!!」

その間を割って入るようにアリシアが拳を振るう。

空気を裂くような威力をティルは空いている片方の手で受け止める。

パァァァン!と乾いた音が辺りに響く。

「いい強化魔法ね、昔の私ならやられていたわ」

「なっ!」

「いただきます」

「うくっ!」

そのままアリシアの首筋に噛み付く。

噛み付かれたアリシアはネアと同じようにパタリと倒れた。

それをティルは優しく抱き留める。

「ふふ、おやすみなさい。目が覚めた頃には全て終わっているわ」

「うぅ、てぃ、る…」

そのまま眠るようにアリシアは気を失った。



「さて、それで貴方はどうするの?リーナ」

ネアとアリシアを寝かせてティルはリーナに問う。

先程から一歩も動かなかったリーナ。

けれどティルは感じていた、リーナの放つ気が普通とは違うということ。

「ティル」

「なにかしら?」

「わたし、てぃるの、お姉ちゃん」

「そうね、あなたは私のお姉ちゃんね」

「いもうとを、寝かしつけるのも、お姉ちゃんの、役目」

「ふふ、それができるかしら?お姉ちゃん」

「手のかかる、いもうと」

「言うじゃない」

ティルの紅い瞳が鋭く光る。

それと同じようにリーナも閉じていた瞼を開ける。

その瞳はティルとは真反対の綺麗な蒼色をしていた。

リーナはそのまま自分で顕現させた淡く光る剣を構える。

ティルも相反するようにティルフィングを構えた。

「いつも思っていたわ、羨ましいって」

「ん、でもティルもわるい」

「そう、かもね」

ティルが構えていたティルフィングを少し下げる。

それがはじまりの合図だった。

ティルはリーナとの距離を一瞬で詰めティルフィングを振るう。

剣を下げたのはフェイクでこの一瞬の先制とるため。

もちろん人間離れしたティルの行動にリーナは追いつけず棒立ちのままだ。

「とったわ」

ティルの剣が確実にリーナを捉えた。

ティルの一突き、その構えはライがよく使っていた技。

魔絶技 魔尖。

最速の刺突技がリーナの心臓に放たれる。

「ん」

そんな最速の一突きはリーナには当たらなかった。

「やるじゃない」

ティルの剣はリーナの光の剣に弾かれあらぬ方向を突いていたからだ。

そしてもう一つ、リーナの光の剣が徐々にその像を形に変えていく。

剣に変わっていくそれをティルは知っている。

「そう、そういうこと」

ティルは一度リーナから距離をとる。

「なって、しまったのね」

リーナから放つ蒼白いオーラをティルは知っている。

リーナの瞳をティルは知っている。

なにもかも過去の記憶にあることだから。

「んっ」

リーナが剣を振るうと風が荒れ狂う。

その風が突風となってティルを襲う。

ただそれだけだった。

「今のあなたなら今ので私に無数の切り傷を負わせることが出来たでしょ?勇者」

「ん、でもティルは私の大事な妹だから」

「馬鹿なお姉ちゃんね」

ティルの瞳が紅い閃光を放つ。

その瞳から放たれたレーザービームは一直線にリーナを穿つ。

そんな目で追うことさえ不可能で不可視な攻撃をリーナは剣で弾き斬った。

「さすが、やることが常人離れしてるわね」

「ティルも一緒」

「ふふ、だって今の私は魔女だもの」

「そんなティルのお姉ちゃんだから、一緒」

「もうこうなったら止められないわね」

「ティルが諦めるまで」

「諦められないって、そう言ったでしょ」

「ん、納得するまで相手してあげるだけ」

お互いが剣を構える。

そこから言葉は不要だった。



「魔絶技 緋ノ型 絶華朱影乱舞」

「聖絶技 蒼ノ型 絶花蒼輝乱舞」

荒れ狂う剣戟の嵐。

紅い夜空に舞う二つの軌跡。

暗闇に描く紅と蒼のコントラスト。

「はぁ、はぁ」

先に息を上げたのはリーナだった。

「なったばかりの貴方とでは歴が違うのよ、甘かったわねお姉ちゃん」

「まだ、まだ」

肩で息をするその姿は辛そうに見える。

「お姉ちゃんは、まけ、ない」

「既に覚醒も終わりつつあるじゃない、どう考えたって勝ち目はないわ」

リーナの纏っていた淡白いオーラが徐々に消えつつある。

それに加えてリーナの持っていた剣も像を捉えられなくなってきている。

「それ、でも」

リーナは再度その剣を構える。

まるで最後の力を振り絞るかのように。

「ならせめての慈悲ね、すぐに楽にしてあげる。その役割に囚われないように」

対するティルも剣を構える。

構えたティルフィングからは紅い禍々しい光を放っていた。

二人の間に流れる静寂はまるで息をするのも許さないような、そんな圧力さえ感じられる。

静寂を破るのも一瞬であれば決着がつくのも一瞬だった。



そよ風が二人の間を吹き抜けた時、二人の姿が消えた。

風を斬る音だけが静かに響いた。

「なっ!」

「っ!?」

リーナとティルは自分達の目の前の光景に驚かざるを得なかった。

「どう、して」

ティルはその様子にあり得ない、とそう思っていた。

ティルの使う魔女としての呪縛は最強であり絶対だ。

それをただの人が解くことなどできないはずだ。

ましてやティルの力の源は血であり、血とは生物において無くてはならないものである。

その絶対を覆す存在などティルは一人しか知らない。

「そうよね。勇者が現れたんだもの、魔王が現れなきゃ世の理は成り立たない」

「にぃ…」

リーナとティルが抜き放った剣は交わることなくライの手によって止められる。

両手でティルとリーナの剣をがっちりと掴んでいるライの姿は黒いオーラに包まれていた。

ティルとリンクする時に包まれるオーラににいているがそれとは根本的に違う何か。

その正体をリーナは肌で感じていた。

「可愛い妹達が喧嘩しているところをお兄ちゃんは見たくないな」

そんなライの表情はいつもと変わりなかった。

普段と同じ、何も変わってなんてない。

「にぃ、わたし…」

「リーナ、大丈夫」

ライは剣から手を離すとリーナを優しく抱きしめる。

「たとえ俺たちが何になろうと兄妹に変わりはない。これからもみんなと一緒に過ごせるから」

「んっ…」

抱きしめられたリーナからはもう淡白いオーラは消えて手に握られていた剣もいつの間にかなくなっていた。



「こんなの、こんなことって…」

「てぃる」

「私はどうすればいいのよ…」

「ティルはティルのままでいいんだよ」

膝から崩れ落ちるティルにライは優しく抱き留める。

不意に触れた温もりにティルはビクリと体を震わす。

その温もりはいつもの彼と変わらないもので、ティル自身もそれを確かめるようにライを強く抱きしめる。

その先に視線を向けるとそこにはリーナが立っていた。

「ん、てぃるの、日は、まだおわって、ない、から」

本当のお姉ちゃんのようなそんな優しい表情でリーナはティルにそう伝えた。



今までの気持ちを吐露するように、まるで栓をしていた蓋が弾け飛んだように。

「あなたを救いたかった…」

「もう数え切れないぐらいティルには助けられたよ」

「ずっとあなたのそばにいたいの」

「ずっと隣にいる、この手を離したりなんかしない」

ライは優しくティルの手を取り強く握る。

ティルもライの手をぎゅっと離さないように強く握り返す。


「あなたを助けたくて

あなたに愛されたくて

ずっと私を見て欲しくて

ずっと隣を歩いていたいの」


「あぁ」

ティルの言葉をゆっくりと噛み締めように頷き、ティルの頭を優しく撫でる。

「あの時から、あの日契約した時からずっと、あなたの事が好き」

「あぁ」

「私を一人にしないで」

「あぁ」

「私にもっと構ってよ…」

「悪かった」

ライは苦笑してティルの頭をクシャッと撫でる。

「ばか…」

ティルはライの胸板に顔を埋める。

そんな二人をいつの間にか顔を出してきた太陽が照らし始める。

お久しぶりだな皆の者!

ということで、早めに出すとか何とか言って1ヶ月以上も更新が止まってしまい申し訳ございませんでした!!

思った以上に戦闘シーンってこんなにも言葉が出てこないものなのかと絶望したぞ。

ちぐはぐではありますが何とか書けました。

暖かい目で見ていただけると幸いです!

それでは我はここらへんで!サラダバー!人間ども!



アリシア「ティルってあんなに強かったのか…」

ネア「魔女の中でも私も強い方だと思ってたのに、ね」

ティル「二人とも強いわよ、ただ私が強すぎたってだけの話よ」

リーナ「じまんの、いもうと」

ティル「はいはい、立派なお姉ちゃん」

リーナ「ん」

嬉しそうにリーナはティルの頭を撫でる。

ティル「まったく、これから大変だってことわかってるのかしら」


リーナ「じかい」

ティル「滅茶苦茶な仲直り」

アリシア・ネア「次回も見てね!!」

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