マイシスターの滅茶苦茶なお願い ネア編 前編
朝、チュンチュンと雀が鳴く声と共に目が覚めると隣に寝ていたはずのティルはいつの間にか消えており、代わりに俺の女神様が可愛すぎる寝顔と共に寝息を立てていた。
今日は平日のため学院がある。
そのため、軽くリーナの体を揺さぶり起こしてあげる。
「リーナ朝だぞー」
なんだか懐かしいな。
最近は起こされる側だったが昔はこうして俺の方がリーナを起こしている方が多かったのだ。
「ん、んぅ〜、にぃ〜」
リーナも朝は弱い方でまだ眠たそうに目を擦り両手をこちらに広げる。
俺はそんなリーナのもとに身を寄せて抱きしめてやる。
「んぅ、おは、よう」
「あぁおはよう、ゆっくり眠れたか?」
「ん、スッキリ」
「それいつはよかった」
俺はそんなリーナを抱きしめたまま抱っこする。
そのまま部屋を出ていいにおいがする方へと歩き出す。
階段を降りて一階にたどり着くとそこには既に朝食の準備を終えたライガルがいた。
「おはようさんって、懐かしいな。お前らがそうして降りてくるのは」
「だよなー」
「ん、ライガル、おはよう」
「あぁおはようさん、夜はしっかり眠れたか?」
「ん、ぐっすり」
「朝飯できてるぞ」
「おう、ありがとう」
「んみゃ」
俺はまだまだお眠なリーナを椅子に座らせて自分もその横に座る。
ライガルも椅子に座り三人で手を合わせる。
「「「いただきます」」」
こうして三人で朝食を囲むのは俺が専属執事に選ばれて以来だな。
「そういえば今日は学院があるだろ?荷物は?」
ライガルはしっかりと俺たちの生活を把握しているのかそう聞いてくる。
「俺は今日は休みにしてある。リーナは事前に荷物は学院に置いてあるって」
「ん、おきべん、べんり」
「リーナも悪い子の道がわかってるじゃねぇか」
「ぶい」
「かはは、なら前みたいに学院まで送ってやろうか?」
「して、くれるの?」
「構わないぞ、今日はそんな気分だからな」
相変わらずというか、ライガルはこうして気分屋なところがある。
お店も気分で開店したりしなかったりだしな。
「いいのか?お客さん」
「今日は朝からあいつが来てくれるから平気だ」
「あーなるほど、カナエさん元気にしてる?」
「お前らがいなくなってからしょっちゅう来るようになったな」
「それぐらいライガルのことが心配なんだな」
「そうか?別に俺はお荷物がいなくなってむしろ楽になったんだがな」
「そういうとこじゃね?カナエさんがしょっちゅう来るの」
俺も接客業をやっていた経験とライガルと暮らしていたから分かるし、昨日もそうだったが妙に強がったり見栄張ったりするのがこのおっさんだ。
なので、素直じゃないその言葉の裏を俺はよく知ってる。
そのことを気づかれたのが恥ずかしいのかライガルは頬をポリポリとかく。
「うっせ」
「カナエさんも物好きだな〜、こんなオッサンのどこがいいんだか」
「うるせぇばか、てめぇには大人の魅力ってもんがわかんねぇだろ」
「カナエさんあれだけ美人なんだからもっとマシな人いそうなのに」
「話聞けや」
そんな話でライガルと盛り上がっていると扉が開くと知らせてくれる鐘の音が響く。
音が止むとパタパタとこちらに真っ直ぐに足音が近づいてくる。
するとひょこっと木枠から物凄い美人が顔をのぞかせた。
「おはようございます」
「カナエ!?いくなんでも早すぎねぇか?」
「だってマスター放っておいたら朝ごはん食べないじゃないですか」
「ば、ばか!んな事ァねぇよ!」
「焦ってるのが証拠ですよ」
そう言ってとんでもない美人、カナエさんが部屋の中に入ってくる。
カナエさんはとんでもない美人だ。スタイルも女性の理想そのものだし出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいる。まつ毛も長くて鼻筋もスッとしていて全体的にバランスが整っている。腰まである長い髪も後ろで三つ編みに縛って垂らしている。大人の魅力を全開にしたような人で私服で着ている今回の縦セーターもなかなか、うん。
そんなカナエさんだがイメージとしてはゆるっとふわっとした感じの人だ。シェルさんに近いオーラを感じる。
ただシェルさんと違うのはメリハリがしっかりしているという事だ。
「お久しぶりだね、ライくんリーナちゃん。元気にしてた?」
「全然元気ですよ、カナエさんこそ元気そうでなによりです」
「かなえ、おはよう」
「私もピンピンしてるよ、最近はやることが多いからね。おはようリーナちゃん」
そう俺たちに返事を返しながら手荷物をカウンターに置いてリーナの頭を撫でるとライガルの隣に空いてる椅子に自然と座る。
「く、来んのが早くねぇか?」
「いつもと一緒ですよ、あなたがいつも遅いだけです」
へぇ、あのライガルが責められてるのはなかなか珍しいな。
それに遅いって…。俺たちより先に起きて色々準備していたあのライガルがねぇ。
「聞いてくださいよライくん、この人ったらライくん達が居なくなってから…」
「だぁぁぁ!!んなことはどうでもいいだろ!それよりリーナ、そろそろ学院に行かないと遅刻するんじゃねぇのか?急いでいくぞ!」
ライガルはカナエさんの話を遮り嵐のようにリーナを攫う。
その際にリーナはパンを口にくわえたままライガルに片手で持ち上げられていた。
バタバタと準備を終わらせてライガルはそのままリーナを抱えたままラッフ亭をでていった。
出ていく際に
「とりあえず俺がないない間は任せたからな!」
「ぉ〜、にぃ、いって、きます」
と、嵐のように去って行ったのだった。
「ほんと、忙しなくて滅茶苦茶な人なんだから」
「少なくとも俺達にはそんなところ見せてはくれませんでしたがね」
残された俺とカナエさんはお茶を嗜みながらゆっくりとするのだった。
まぁ、かくゆう俺もこんなにゆったりとはしていられないのだが…。
「それで、ライくんは行かなくていいの?学院」
「野暮用があるので」
「あら、ならなおさらここでゆっくりしてる暇はないんじゃないの?」
「まぁそうですけど、一応俺らがいなかった間のことは聞いとこうかなと」
「ふふ、ライくんも結構心配症よね」
「べ、別にそんなんじゃないし」
「男のツンデレは需要が少ないからオススメしないよ?」
「べ、別にそんなんじゃないし」
「相変わらずで安心した」
「俺もですよ」
カナエさんはそんな俺にホッと息を吐いて背もたれに体を預ける。
「そうね、あなた達が居なくなってからあの人はなんというか、ダラダラしてる」
「最低ですね」
「ほんとね、でもそれが本来の彼なの」
「もっと最低ですね」
「でしょ?でもね、ライくん達がここに居た時はすごく活き活きしてた。さっきだって最近の中じゃ一番忙しなく動いてたし」
「俺らが急に帰ってきたっていうのもあると思いますけどね」
「ふふ、かもね。でもそれ以上に嬉しかったんだと思う」
「そうっすかねぇ〜」
「それはライくんもわかってるでしょ?」
カナエさんに見透かされて少し照れてしまう。
まぁ、実際あのおっさんが俺らの前じゃそんな素振りさえ見せなかったのは本当だ。
俺たちと一緒に住んでるその数年間、一度たりともそんな姿を晒したことはない。
それがどうしてなのかなんて感の鋭いガキである俺には分かりきったことだった。
というか、ライガルは不器用だがそれを上回る程の愛情というのだろうか。そういうのが伝わってくるぐらい。
きっとそれはリーナも一緒だ。
だからリーナは一度この家に帰ってきたかったんだ、みんなで。
「だから、これ以上は私の口からは言わない。聞きたいなら本人に直接聞くこと」
「そいつは無理ですぜ姉御」
「私そんな厳つい感じに見える?」
「俺の目にはとんでもない美人しか写っておりません」
「ありがとう、でも女遊びは程々にね?あら違った、妹遊び…?」
「心より反省しておりますのでそれ以上はおやめくださいませ」
「大人をからかった罰だよ」
机で頭を下げる俺にカナエさんちろっと可愛らしく舌を出してべーってする。
なにそれ、大人がやっても可愛いとかちょっと反則じゃない?今度リーナたちにやってもらおう。
「それで、ライくんの野暮用だっけ?来てるみたいだけど?」
「へ?」
カナエさんが俺の後ろをちょいちょいと指を向ける。
俺はなんのこと?と指される方へと顔を向けるとそこには木枠に体を隠して顔を半分こちらに覗かせてる可愛い妹が一人。
俺に気づいたのかひょこっと隠れる。
顔は隠れているがその特徴的な魔女ハットが大いにはみ出ている。
「ネア」
名前を呼ばれて魔女ハットがぴくっと動いた。
そのままネアは観念して姿を現す。
「ライくんの噂の新しい妹さん?」
「そうですよ〜、うちの可愛くて優秀な妹ですよ。おいでネア」
「ごめんなさい」
ネアは俺の隣に来ると謝った。
むしろ謝るのは俺の方だ、約束の時間はとうに過ぎているのだから。
「いや、俺の方こそごめんな。もっと早く行くつもりだったんだがな」
俺はそう言ってネアを抱っこして自分の膝に乗せてやる。
すごいナチュラルにされた行動にネアは気づくのが遅れたが途端にそれを意識してしまい魔女ハットのつばで自分の顔を隠した。
「あらあら、恥ずかしがり屋さんなのかな?」
「ちょっとシャイなだけだよ」
俺はそんなネアを魔女ハットの上から優しく頭を撫でてやる。
「ふふ、妹さんがいっぱいいるとお兄ちゃんは大変ね?」
「さっきのせいで皮肉にしか聞こえないのは、きのせい?」
「気のせい気のせい、それよりいいの?ネアちゃんが来たのにここでまだゆっくりしていて?」
「あぁ、ネアから来てくれたからな」
「どゆこと?」
「今日はネアの言うことを一日聞く日なんだ」
「え?妹の言うことを聞くってこと?いつもの事じゃないの?」
ライガルにも同じことを言われた気がする。
「まぁ、いろいろありまして」
「ふぅーん、っと私もゆっくりしてる場合じゃないね。お店の準備しなきゃ」
「今日は朝から開店ですか?」
「えぇ、昨日唐突にお休みにしたからお得意様が怒っちゃって…、てこの話したらダメんなんだった」
「もう遅いですよ」
「えぇ〜せめて聞かなかったことにしよう?ね?」
「まぁ、急に訪ねてきた俺達にも非はありますし」
「そうだねぇ〜、でも悪いことじゃないと思うけど」
「?」
「ライガル、滅茶苦茶嬉しそうだったから」
「見れば分かりますよ」
「ううん、ライくんが思ってる以上にね」
「そうっすかね」
「そうなの。さて、私は準備するからライくん達はテキトーにしてていいよ。あ、でもなにかするなら私を呼んでね」
そう言ってカナエさんは腕まくりをして机の食器をテキパキと片付けていく。
「大丈夫っす、お邪魔にならないようもう出ますので」
「いてくれても、いいんだよ?」
「それはお手伝いしろという遠回しな伝え方?」
「そんな事ないよ!それに今日はネアちゃんに一日付き合う日なんでしょ?」
カナエさんはチラッとネアを見てウィンクするとそのまま台所の方へと去っていった。
そのあと水の音と食器が擦れ合うようなガチャガチャという音だけが聞こえてきた。
「相変わらずだなあの人も」
まぁなんだろ、昔と変わらないカナエさんを見てホッとしてる。
というか、昔よりも今の方がなんだろうやる気に満ち溢れてるのは気のせいかな?
「よし、遅れた分はちゃんと付き合うよ。行こうかネア」
「いい、の?」
「もちろん、ネアが何をしたところでもう俺の妹であるのに変わりはない。それに、もう悪い事はしない。だろ?」
「…うん」
「仮にしようとしても必ず兄である俺が止める。妹が道を間違えそうになったら正してやるのがお兄ちゃんだからな」
「うん」
確かに最初にネアを妹にするって決めた時はどうしても複雑な心境で居心地が悪かった。
でも、暮らしていくうちにこの子は本当は悪い子じゃないんだということがよくわかった。
だから、今では普通に接することができる。
この子はただ、何もかもを教えてくれる人がいなかっただけなんだ。
常識という基礎的なことさえも自分で調べる他なかったんだ。
その結果が暴走したのが昔のネアだ。
でも今は違う。
ちゃんと俺がネアの悪い所を正してやれる。
周りに支えてくれる人がいる。
ネアが取り返しのつかないことをしたのは確かだが、彼女は今それを一生懸命に償おうとしている。
なら俺は兄になったものとしてそれを支えてやることにした。
それになによりリーナがネアを認めたんだ。
なら俺にそれ拒否する道理はない。
「あの、ね?行きたいところがある、の」
ネアはそう遠慮がちに言う。ネアだってまだ色々と整理できてないことはいっぱいあるんだと思う。
それでもこうして俺のそばから離れないのはネアの持つ気持ちが純粋で真っ直ぐだからだろう。
「どこでもいいぞ、今日はお兄ちゃんがどこにだってついて行ってやる」
「うん!」
ネアは歳相応の満面の笑顔でライの手を取る。
俺も取られた手をしっかりと握りネアについて行く。
そのまま俺とネアはラッフ亭を後にした。
あれ?そういえばネアっていくつだっけ?ま、いっか!
「ちょっと心配してたけど杞憂だったかな」
食器を洗剤で洗い濯いでいると足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
ライくんとネアちゃんのものだろう。行く場所が決まったのかな?
「まぁ、ライくんも成長したってことだよね。昔はあんなにお転婆だったのに。今ではもうしっかりしたお兄ちゃんだもんね〜」
濯いだ食器を乾いたタオルで水滴を拭き取り元のあった場所に次々直していく。
「私もそろそろいいのかな、次に進んでも。だってもうずっと待ってたんだし。あの時からずっと…」
最後の一枚を直すと後ろの机に飾ってある額縁を見る。
「私、あなたがこの国を去ってからもずっと信じて待ってんたんだからね。ねぇ、ライガル」
愛おしそうに額縁を撫でるその手は、とても優しかった。
お久しぶりだな皆の者!
これで1月最後の投稿になるなー!
うむ、もうなんか最初っからグダグダして本当に申し訳ない!
基本的には日曜の18時に投稿できるように頑張ってはいるのだが投稿日を変えた方がいいのか検討中だ!
既に2回も遅刻しておるからな…。いやほんとすみませんでした。
最近世間は色々と大変みたいだが負けずに我も毎週投稿頑張るぞー!
ということで今回はここら辺でサラダバー!
リーナ「ネア、うらやま、しい」
アリシア「前編ってことは後編もあるのなんてずるいぞ!」
ティル「まぁ、ちょっと重要な部分にはいる訳だし大目に見てあげなさい」
アリシア「むすー!」
ネア「ごめんなさい」
アリシア「謝るんじゃなーい!その代わり絶対に楽しんでくるのだぞ!」
リーナ「ネア、いつも、どこか、ひいてる、から、いまは、いけいけ、ごーごー」
ティル「みんなこう言ってるんだし遠慮せずに行きなさい」
ネア「みんなありがとう、ね」
アリシア「今度は私の出番を多くするように作者に殴り込みに行ってくるぞ!」
ティル「やめなさい」
ティル「次回」
アリシア「マイシスターの滅茶苦茶なお願いネア編 後編」
ネア「次も見て、ね」




