滅茶苦茶な魔剣
そこは不思議な場所だった。
住んでる場所からは遠く離れた森の中にその場所はあった。
国の外れにあるこの森には誰一人として近づかない。
人だけじゃない。動物も虫さえもこの場所に近づくことはない。
そんな生物全てを否定するような森に一人の少年がいた。
周りの木々は枯れ果てているにも関わらず辺りは薄暗く気味が悪い。
何故そんな場所に訪れようと思ったのか。
それは少年にとっては極簡単な事で当たり前のことだと思ったから。
「どこだろう、確かにこっちから女の子の泣く声が聞こえたのに…」
聞こえた声の方向を頼りに少年はこの森をさまよっていた。
ただ、不思議なのはこの森に入った途端に泣き声が聞こえなくなったのだ。
幽霊?と最初は少し怯えていたがそれでも誰かが泣いているのを放っては置けず、結局探すことにするのだった。
そうして森を迷いながらも進んでいくと一つの泉にたどり着いたのだ。
その泉は透き通るような青、ではなくどこまでも深い紅色に染っていた。
まるで血のように深く濃い色をしていた。
その泉の中心には石の台座が立ててあり、その台座に一本の剣が刺さっていた。
その刀身は泉と同じように紅く染っていた。
ぱっと見ればとても異様な光景なのに、何故かその時の少年はそれに強く惹かれていた。
現実とはかけ離れた存在感を示すそれを少年はただじっと見つめていた。
『死にたいのかしら?』
突如として響いた声に驚き周りをぐるぐると見るがどこかに人のいる気配はおろか他の生物の姿さえ見えない。
『殺されたくなければその場から立ち去りない』
二度目でそれがどこから発されているのかがようやく分かった。
泉の中心であるその台座から、正確にはあの剣から聞こえてきている。
『私の声が聞こえないとは言わせないわよ』
しばらく少年が黙っていたのが気に食わなかったかのかその魔剣からは気圧されるような覇気を纏わせはじめた。
「いや、聞こえてないわけじゃない。すごくびっくりして」
『なら早く消えなさい、目障りよ』
「でも誰かがここで泣いているんだ、それを放っておくことは出来ない」
『誰か?ここには私以外に誰もいないわ、人も動物もこの場所を嫌って入ってくることなんてないの。それは貴方の空耳よ』
「いや、僕は確かに聞いたよ」
『しつこい』
「うぁぁ!?」
そんな魔剣の一言ともに少年の足元に電撃が落とされる。
あまりの大きな音と威力に少年はその場から吹き飛ばされる。
「いてて…」
『これが最後よ、去りなさい。次は私自身で貴方を殺すわ』
そう忠告した剣は自ら台座からその刀身を抜き放ち空中に留まる。
その切先は真っ直ぐに少年へと狙いをつける。
「せ、せめて話ぐらいしようよ!」
『話すことなんて何も無い。だって私は貴方達、人間が大っ嫌いなんだから』
両手で静止を求めるもそれは虚しく拒絶され、その剣は少年を刺し貫いた。
「うぁぁぁぁぁ!!」
目が覚めるとそこは見知った場所だった。
どこか殺風景とも思わせるほどほとんど何も無い部屋。
あるのは机といくつかの本棚。
本棚にはどこか豪華さを感じさせる。細かくあしらわれている彫刻の品が飾ってありどれも高そうだ。
それと今自分が寝ているふかふかのベッドしかこの部屋には備えられていない。
見間違えるはずもない、ここは自分の部屋だ。
その事に安堵するが少年は思い出したかのように自分の心臓部分を触る。
そこはついさっき、喋る剣に貫かれた場所だ。
だが、痛みもなければ触った感じ穴も空いていない。
着ている服をめくって確認するも特に目立った外傷もなかった。
その事にホッと安心すると自分が寝ているベッドの傍で上半身を預けて寝ていた少女がモゾモゾと動き始めた。
「おにい、ちゃん?」
上半身を起こして少女は眠たげな瞼を片手でぐしぐしと擦りながら少年を見る。
「おはよう、リーナ」
少年はリーナと呼んだ少女の頭を優しく撫でる。
「んー、えへへ〜」
撫でられたのが嬉しくてリーナは顔を綻ばせる。
そんな妹の顔を見て少年、ライも微笑む。
「リーナ、少し聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
「僕はなんでベッドで寝てたんだ?」
「それはね、セバスがお兄ちゃんをここまで運んできたからだよ!」
セバス、というのはこの家でライとリーナのお世話を担当している執事のことだ。
「お坊ちゃま、お目覚めになられましたか」
「セバス」
そこでタイミングよく部屋のドアを開けてセバスが入ってくる。
キッチリと着こなした執事服にはシワのひとつもなく、整えた髪型に髭は清潔でしっかりとしたイメージを与える。
一つ一つの動きも丁寧で完璧、それがセバスの印象だった。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。すまないが聞きたいことがある」
「なんなりと」
そう言ってセバスは浅く頭を下げる。
「僕はどうしてここにいるんだ?」
「坊っちゃまはサガの森の前で倒れておりました。それを見つけた私がここまで」
「そうか、僕の他になにか無かったか?」
「いえ、ですがいきなりの事でしたので慌てました」
「…すまなかったな、手間をかけた」
「とんでもございません、坊っちゃまが無事ならそれだけで」
「ときにセバス」
「なんでございましょうか?」
「サガの森、あの奥に何があるか知っているか?」
「いいえ、あの森は生き物全てを否定します。動物どころか人間も、魔女様でさえあの森には入りません。…まさか!」
「セバス、お前の考えていることはただの杞憂だよ。僕はあの森には入っていない。入る前に足が震えてしまったからね」
「それならよいのですが…」
セバスはそれ以上の詮索はせず、ライの体調や体の具合をある程度確かめると部屋を出ていった。
「お兄ちゃんどこか悪いの?」
「どこも悪くないよ、元気元気」
セバスの行動に少し不安に思っていたのだろうリーナが心配そうにこちらを見る。
ライはそんなことないよ、と教えるためにめいいっぱいリーナを抱きしめてやる。
『せっかく見逃した命を捨てに来たのかしら?』
月が空に登る時、僕はまたあの泉に戻ってきた。
月の光を浴びて輝く剣はその頃のライにはとても神秘的に見えた。
相変わらず憎悪を隠さない声音の剣にライは冷静に答える。
「そうじゃないよ、また僕はまだあの子の涙を拭えてない」
『何度言わせれば気が済むの?ここには私以外いないの。人も虫も動物もこの森には入らない。この森は命を奪う森だから』
「知ってるよ、それに泣いてるのは人でもましてや動物でもないことだって分かってる」
『じゃあなぜ…』
「君だからだよ」
『…なにが?』
少し歯切れの悪い剣にライは優しく微笑む。
「君の涙を拭いに来たんだよ」
1週間ぶりだな!みなのもの!
今回は幼少期のライとティルのお話だぞ!
ティルがどうしてライの妹になる過程の話だな。
もっと可愛く表現できるようにわれも頑張って書いてくぞ!
ということで今回はここら辺で!サラダバー!人間ども!
ティル「今思えばあの頃は貴方はタフだったわね」
ライ「んー?」
ティル「なんであの時に私が泣いてるってライは分かったのかしら?」
ライ「それは愛する妹だから?」
ティル「ばか、まだ私があなたの妹になる前よ」
ライ「ははは、どうしてだろうな」
ティル「そういうところ嫌いよ」
ライ「それよりリーナが呼んでるぞ」
リーナ「てぃる」
ティル「どうしたのよ」
リーナ「ぎゅー」
ティル「急にどうしたのよ」
リーナ「てぃる、もかぞく」
ティル「分かってるわよ、ばか」
ライ「次回」
リーナ「めちゃくちゃな、かぞく」
ティル「次回も…、別に見なくていいわよ」
リーナ「みてね」
ティル「リーナのばかぁ」




