滅茶苦茶な試合
「始めようか」
そういってグレイツバルは腰にさしていたひときわ輝く黄金の剣を引き抜いた。
聖剣、正しくその言葉が似合う剣だろう。
無駄な装飾は一切無いのに、それでもどこか美しいと思わせる剣。
このクラッツセイント王国の秘宝の一つ。
『不敗の聖剣 エクスカリバー』
名前の通り決して敗北することのない聖剣。
その聖剣を扱えるグレイツバルは相当の使い手だ。
だてに聖剣に選ばれてない。
聖剣や魔剣を持つ者は少ない。
なぜなら、聖剣と魔剣は人を選ぶからだ。
聖剣と魔剣には意志があるのだ。
もちろん、俺が手に握っているこのティルフィングやグレイツバルのエクスカリバーにも。
聖剣と魔剣はどれもこれも一筋縄じゃいかないものばかりだ。
それはその剣が強ければ強いほど選ばれる者は絞られていく。
ただ一つだけ聖剣と魔剣は違うところがある。
聖剣は所持者の意志の力によってその強さを増す。
だが、魔剣はなにかを代償にすることで力を増すということ。
さっきの戦いでわかったとは思うが俺の持つティルフィングの場合は血だ。
俺の血か、斬った相手の血を浴びるか吸収すれば力は増す。
この場合、俺のティルフィングは長期戦に持たれたら負ける。
魔剣による代償は大きい。
意思によって力を持続出来る聖剣との大きな違いであり弱点なのだ。
「先手を譲ってやる、来い少年」
グレイツバルはエクスカリバーを手前に構えて動かない。
宣言通り先手を俺にくれるそうだ。
「なら、お言葉に甘えて!」
俺はティルフィングをもう一度力強く握り走り出す。グレイツバルとの距離が縮まってきたところで一気に踏み出す。
「はぁぁ!」
俺は踏み出した勢いを利用して下段から斬りあげる。グレイツバルはそれを真っ向から弾き返す。
俺は弾かれた反動で後ろに下がる。
「ふっ、この程度のものか?」
そんな戦いの中でもグレイツバルは余裕の表情で話しかけてくる。
「この程度のものなんで見逃してくれません?」
そしてこちらも余裕の表情で負け宣言を堂々とする馬鹿一人。
「仮にも女神様の前だぞ。もう少し粘ったらどうだ」
グレイツバルがその場で力強く聖剣を振り下ろす。
振り下ろした直線上に目には見えないが物凄い衝撃波が発生しライを襲う。
それを感覚だけでライは横に飛び避ける。
(ちっ、そう簡単には終わらせてくれそうにないな。)
俺は逃げの手段を捨てて珍しく、ほんとに珍しく戦うことを選んだ。
後ろの観客席を見てみるとリーナが不安そうにこちらを見ているのがわかった。
傍から見たらリーナの表情は無表情にしか見えないだろうが兄である俺にはわかる。
だからまぁ、いっちょやりますか。
「はいはい、わかりましたよ。本気でやってやりますよ」
「やっとその気になったか」
俺が再度構えるとグレイツバルも構え直す。
間を少しだけ置き睨み合ったあと、俺はグレイツバルとの距離を一瞬で縮め、さっきとは比にならない程のスピードで斬りかかる。
「ぐっ!」
その速さにグレイツバルはついてこれず弾き返すのが手一杯といったところだ。
反撃できずにいる。
むしろ、その鎧に着々と傷が刻まれていく。
この勝負にグレイツバルは不利かと思ったのか後ろにジャンプして俺との距離をとる。
「なかなかやるじゃないか、少年」
「そいつはどうも」
かく言うグレイツバルの鎧はボロボロだった。
いくら力を発揮してないからと言ってもそこは魔剣。さすがの切れ味である。
ライはというと無傷である。
グレイツバルは防御力が高いがライはそれを上回る速さを持っていた。
そのせいでグレイツバルはライに攻撃することができなかったのだ。
ただ、ライの方は体力面が厳しかった。
傷はないとはいえかなりの速さで走り回ったのだ、今は余裕な顔をしているが肩が上下していてきついのがまるわかりだ。
「だいぶ疲れてるようだが?」
「はは、なら見逃してくれたっていいじゃないですかぁ」
「ふ、獅子はウサギを狩るにも全力に、だ」
こいつ鬼だぁぁぁ!!容赦ないぞこの大人!
いくらなんでも体力の差は埋めようがない。
子供と大人とじゃ体力の絶対値が違うのだから。
更にライはグラッグバーとの戦闘で消耗もしている。
「では、そろそろ本気を出すとしようか」
「このおにぃ!」
俺は心の中だけでは抑えきれず直接本人に叫ぶ。
だってねぇ!?いくらなんでも鬼畜でしょ!?
「リカ、やるぞ」
「…!ま、まさか!」
グレイツバルが聖剣に語りかける。
なんかセリフだけ見ると俺が悪役っぽいんだが…。
そんなことよりグレイツバルの周りが光の粒子でいっぱいになっていく。
次第に眩しさが強くなっていって視界一面が真っ白に埋まる。
「うっ、くぅぅ」
思わぬ眩しさに目をやられて呻く。
しばらくして、周りが見え始めるようになってグレイツバルを確認する。
そこには、あの傷だらけの鎧をまとったダンディーなオッサンはどこにもいなかった。
否、そこにいたのは全身頭から足までガッチガチの黄金の鎧を装着した騎士が立っていた。
その手にはエクスカリバーが握られていた。
「おいおい、まじかよオッサン…」
「残念ながらマジだ、少年。お前も見た感じできるのだろう?」
全身を分厚い黄金の鎧を纏うそいつから聞き覚えのあるダンディーボイスが聞こえてくる。
グレイツバルは聖剣の究極魔法、装甲化を使ったのだろう。
いまのグレイツバルの姿が聖剣が引き出す本来の力なのだ。
ちなみに魔剣も同様のことが可能だ。
それはもちろん俺のティルフィングでもということ。だが、この究極魔法は聖剣と魔剣の意思を文字通りリンクさせる必要がある。
それはつまり、剣が持つ力と一体化するということ。そのためには聖剣と魔剣の好感度を最大に維持する必要がある。
そうでなければ装甲化はできない。
まぁ、それが聖剣と魔剣が所持者を選ぶ理由でもあるのだが…。
代償はあるものの、それとは引き換えに装甲化は莫大な力を得るのだ。
ほとんどは身体能力の底上げだがそれぞれに特殊な能力もある。
確か、エクスカリバーだと…。
「絶対防御か…」
「ほぉ、知っていたのか」
「いつかの授業で習ったのを覚えてただけ」
観客席ではポル先がホロリと涙を零したのは秘密である。
〈絶対防御〉その名の通りどんな刃も通させない鉄壁の守り。
それ故にエクスカリバーは『不敗の聖剣』という二つ名がついている。
甲冑の隙間からその鋭い眼光がこちらを見ているのが視線でわかる、相手の方が一枚上手だ。
経験も実力も。
女神様が座ってらっしゃる観客席ではグーデンが一人でギャーギャーと騒ぎ立てている。
正直目障りである。
「どうした?使わないのか?それとも使えないのか?」
グレイツバルはわかりやすく挑発してくる。
「つかえないというより使いたくないね」
「じゃあどこまで耐えれるか試してみるか?」
グレイツバルは十メートルもあった距離を一歩踏み出しただけで俺のところまで肉薄した。
予想外の速さに身体が反応出来ずティルフィングを盾にしてエクスカリバーを受け止める。
防ぐこともままならず物凄い勢いで後ろに吹き飛ばされた。
「ぐはっ!」
俺は勢いを殺しきれずに壁にぶつかる。
ぶつかった際に壁にヒビがはいってしまった。
それぐらい速かったし重い一撃だった。
あれは普通の人が出せる一撃じゃない。
これが装甲化、聖剣と魔剣の究極魔法。
「いまのをよく受け止めたな、少年」
「ほとんど本能だけどな」
それでもライは余裕の表情を崩さない。
なにしろ後ろにはリーナがいるからな!
「ほんとに容赦ないよな」
俺は肩についた小石を振り払い構え直す。
「女神様の前で敗北など飾るわけにはいかんだろ?」
「だからってこれはちょっとやりすぎでしょ!」
正直さっきの一撃で身体のあちこちが痛い。
立ってるのがちょっと精一杯な感じだ。
あはは!膝が笑ってりゃぁ!
『そろそろ力を使ったらどうなのよ』
そんな追い詰められたライの頭の中に美声が響く。
可憐でどこか拗ねてるようなその声の主は。
「ティル」
ティルフィングの本体とでも言うべきだろうか。
このティルフィングの意思そのものである。
『正直、今の一撃で身体がまともに動かないでしょ』
「仰る通りです」
『さっさとしないと次が来るわよ?』
ティルの言う通りグレイツバルは次の攻撃に構えていた。
このままだと一瞬でお陀仏である。
「くそ!ティル、血を吸え」
『ふふ、さっさとそうすればよかったのよ』
ティルの微笑み声が頭に響くのと同時に掌から血が吸われていくのがわかる。
さっき受けた痛みが嘘のように消えてく。と、同時に体の奥底から力が湧き上がってくる。
ただし、この力を使った以上長期戦は不利。
なにせここからは常に血を吸わせていくのだから。
「やっと本気になってくれたか」
「おかげさまでね」
グレイツバルは俺の纏うオーラが変わったのがわかったのかエクスカリバーを先程よりも低く重く構える。
俺のティルは禍々しい程の紅い輝きがもっと強くなっていく。
「装甲化はしないのか?」
「お生憎様、さっきの一撃でその余裕はないんでね」
「ふ、残念だな」
装甲化しないとわかりきったらグレイツバルも話は別なのだろう。
次はさっきよりも本気で斬りに来るはず。
場には緊張した雰囲気が流れ出す。
観客側もそれを感じ取ったのか自然と静かになる。
俺は目の前のグレイツバル、ではなくエクスカリバーを見据える。
エクスカリバーさえ弾けばこちらにも勝機はある。
俺は狙いをエクスカリバーに定めてティルフィングを構える。
「いくぞ、少年」
「かかってこいやぁ!」
ティルの全力を出してグレイツバルに斬りかかる。
グレイツバルも全力で斬りかかってくる。
そして一瞬だけ、金属と金属がぶつかった時に出す特有の轟音があたりに鳴り響く。
グレイツバルとはそのまま鍔迫り合いになる。
「うぉぉぉ!」
「らぁぁぁ!」
地面に亀裂が入る。
聖剣と魔剣が全力でぶつかっている。
風が荒れ狂い、空間が軋む。
お互いの力は同等、先に力尽きた方が負けだ。
「くっ!」
「終わりだな、少年」
あまりの力に俺は一瞬、ほんの一瞬だけ体制を崩してしまった。
だが、この場ではそれが命取りだ。
その一瞬をグレイツバルは逃さなかった。
俺はティルフィングを弾かれてしまう。
「なっ!?」
「チェックメイトだ、少年」
俺は地面に尻もちをつきグレイツバルを見上げる。
そんな俺をグレイツバルは悠々と見下ろす。
だが次の瞬間、グレイツバルの目の前にいたライが消え、ガンっという音が響く。
悠々とライを見下ろしていたグレイツバルが顔面から地面に倒れたのだ。
その後ろにはライがティルフィングを携えて立っていた。
「さすがに鎧の隙間までは防御しようがないよな?」
ところどころに傷はあったがライは立っていた。
観客は一瞬の沈黙の後、一気に湧き上がった。
まわりにいたギャラリーはわぁぁー!!と盛り上がってる。
女神様も目をキラキラさせながらこっちに走ってくる。
グーデンはというと目の前の光景に唖然としている。
そんなこんなでみんなそれぞれのリアクションをとっているのを見てる中、いつの間にか女神様が目の前までやってきていた。
そして、目を光らせながらいった。
「今日から私の専属執事だな!」
すみません、勝負にはまってそのことすっかり忘れてました…。
どうしよう、おれ、これって負けるべきだったんじゃないだろうか…。
リーナが見てる前だからついつい張り切っちゃったよ。
目の前の女神様は俺を執事にするの確定させてるし。さて、どうしたものか。
いっそのこと今からやられたフリしたらなんとか逃してくれるだろうか、やってみるか!
「ぐぁぁ、やられたぁぁ!」
そう大げさに俺は下手くそな演技をして地面に倒れる。
チラッと女神様の様子を見てみると物凄い不安な顔で俺を見ていた。
「どうしたんだ!?どこがいたむのだ?はやくおしえろ!治すから!」
まぁ、なんて優しい子なのかしらこの子は。
じゃねぇんだよ!気づいて!お願いだから気づいて!俺が必死に心から気づいて欲しいと懇願していた。
というか実際、ちょっとだけだけどフルでティルフィング使ったあとだから疲労感が半端なく倒れたまま立ち上がる気力がない。
身体のあちこちが痛いし。
と、俺がこのまま倒れたフリを続行していると女神様がなにやら唱え始めた。
「我、女神の力を持ってこの者に神聖なる癒しを与える。リセーション!」
女神様が恐らく魔法であろう、ライの頭に自分の額をコツンと当てて詠唱をする。
その詠唱が終わり綺麗な緑色の粒子が俺に纏う。
すると、不思議なことに痛みが引いていく。
回復系の魔法かと思ったけどそうじゃない気がする。傷だけじゃなくて疲労感までもが消えてく。
傷を癒す魔法ならいくつか知ってる。
けど、疲労感といった精神的な傷を癒す魔法は聞いたことはない。
「なんだ、これは?」
俺は思わず女神様に聞いた。
女神様は俺が無事だったのがのがよかったのかニッコリ顔で俺に抱きついてくる。
「どうだ?どこか痛いとこはないか?」
「いえ、全くないです」
思わず敬語で答えてしまう俺。
本能的に目の前の女神様が上だと脳が理解してるのだろう。
なんだろうな、この子には抗えないような気がする。俺がいろいろと体の調子を調べていると、いつの間にか我に返った大臣もといグーデンがこちらに走ってきていた。
「女神様ぁぁぁぁあ!!」
やべぇよ、あの大臣相当足速いぞ。
だって、後ろの砂煙すんごいことになってんだもん。俺達のとこまでたどり着くとグーデンは一度息を整える。
「ぜー、はー。女神様!そんなやすやすと神魔法を使われてはなりませぬ!」
神魔法って、まさかさっきの魔法が神魔法なのか?
女神と魔女だけが使える特別な魔法。
人では到底たどり着くことすら許されない魔法。
それが神魔法だ。
その中での回復系の魔法となるとだいぶ凄いぞ。
回復系の魔法はただでさえ使えるものがそんなにいない。
その数は聖剣魔剣所持者と同じぐらいに。
それぐらい回復系の魔法は貴重だ。
しかも、それの神魔法となると…。
それをいま目の前の美少女はやってのけたのだ、やすやすと。
「だってぇ」
そんな凄いことをやってのけたお嬢さんは絶賛大臣のお説教タイムに入っていた。
俺はということ今のうち逃げる!と、思ったけど速攻で諦めました。
なぜなら、女神重装兵に囲まれて逃げれるような状況では無かったのだ。
ここで怪しい行動とればこいつら全員を敵に回すことになるかもしれないし、それはさけたい。
でもたぶん、今の俺なら軽くここにいるやつら全員屠れる自信はあるが…。
説教タイムが終わったのかグーデンがこちらにやって来た。
「おいお前、名前はなんという?」
「グラウ・ディオスです!」
「ふむ、グラウというのか」
あっれぇ?これ騙せるんじゃね?そしたら俺は晴れてここから開放されるんじゃね?よっしゃやりぃ!
「グラウ、今からついて参れ。お前にはいろいろと聞かねばならんことがある」
「はい!」
俺はグーデンにびしっと敬礼をする。
その行動をグーデンは不思議そうにしながらも馬車へと案内するのだった。
その間ずっと女神様は俺につきっきりだったが。
途中で離れるよう言おうかと思ったけど女神様の笑顔が見事にそれを打ち破ってくれたね。
うん、まぁ、その場所につくまでの移動は終始グーデンに睨まれっぱなしだったが…。
馬車に揺られること数十分ぐらいかな?
一時間も経ってないうちにグーデンの目的地に到着した。
俺はグーデンに続いて馬車から降りるとそこはなんとも立派なお城だったとさ。
「おおぉ!?」
「黙ってついて込んか!」
キチガイリアクションしたらグーデンに無茶苦茶怒られた。
隣の女神様はそんな俺のリアクションにびっくりしててた、ちょっと可愛い。
というか誰だって城に連れてこられたらビビるよね?
俺は大人しくグーデンについていく。
城中をそのまま歩いていき執務室みたいなところについた。
そこでグーデンは女神様に向き直る。
「女神様、申し訳ありませんが少し私と彼で二人きりにさせてくれませんかな?」
「むぅ」
女神様のふくれっ面。
そこをなんとかなだめる大臣。
なんというか、親子みたいだな。
必死の大臣の説得により女神様は諦めてくれたみたいだ。
しかし、俺の袖から離れるのに数十分もかかったのはまた別のこと。
「はぁ、これでやっとまともに話せるのぅ」
恐らくここは大臣の執務室なのだろう。
グーデンは執務机の椅子にその重い腰を下ろした。
「さてと、貴様にはいろいろと聞かねばならんことがあるが答えてくれるよな?」
「え?なんのことぼくわかんない」
「こんどはこいつかぁぁぁぁあ!!!」
次はグーデンが別の意味で発狂した。
無茶苦茶頭掻きむしってる。
やばいよ、ただでさえ毛が少ないのにそれ以上やると禿げますよ!
「おまえ、いい年こいてそんなことして恥ずかしいとは思わんのか!」
「プライドだけで飯が食えると思うなよ!」
「しらんわぁぁあああ!!!」
そんなコントが数分続くのであった。
そんなことして数分後、グーデンはライのあまりのボケの量にツッコミ疲れていた。
肩で息してるぐらいに。
「お疲れ様でーす」
俺はそこにびしっと敬礼をするのであった。
いやぁ、ここまでつっこんでくれる人はなかなかいないよ。
「誰のせいだと思っとるんじゃ、全く…」
ほんとの意味でやっと一息ついた大臣は椅子にさらに重くなった腰をおろすのだった。
「全くもって話しが逸れてしまったわ。いいからお前はわしの質問に答えろ!」
「うーい」
俺はさすがにここが潮時だろうと思い観念してグーデンの質問に答えるのだった。
「どこの学院に通っている?」
「アレーザ学院」
「歳は?」
「十七」
「組はどこじゃ?」
「二年生騎士組」
グーデンはある程度の個人情報を聞き出すと一息入れる。
「ふむ、じゃあここからが本題だからちゃんと答えること、よいな?」
「うぃー」
「腹立つ小僧だな」
大臣は俺の態度が気に入らないがさっきのツッコミとボケの時に何言っても無駄だと気づいたんだろう。
大臣は諦めてさっさと次の質問をする。
「今どこにあるのかは知らんが、あの時使っていた魔剣。あれはなんじゃ?」
なんかだんだん歳を感じさせる喋り方になってきたな。
まぁ、実際見た感じ六十は超えてそうだからおかしくはないんだが。
「あー、それはちょっと…」
「なんじゃ?言えん事情でもあるのか?」
「いや」
大臣は無言で横に置いてあった本をぶん投げた。それは綺麗に放物線を描いて俺の頭に。
「ぐはぁ!」
ちょくげきぃぃぃい!!
「いったぁぁ!?」
「すまんのう、つい衝動にかれらたわ」
このクソジジィ!やりやがった!つか無茶苦茶痛かった!なんか辞典なみに大きかったぞ!?
「それじゃあ改めて答えてもらおうかのう」
ここで逆らったらまたあの辞典みたいな本が投げれそうだから観念して素直に答えることにした。
打ちどころが悪かったのか頭がめっちゃぐわんぐわんする。
「ティルは元々は帝国の秘宝だったんだよ」
「帝国?まさかお前、帝国から奪ったのか?」
「んや、ティルからこっちに来てくれたんだよ」
「ほう、魔剣に好かれたと言うか」
「まぁ、そうなんですよねぇ」
「ふーむ、今まで生きてきて魔剣や聖剣に好かれたなどと。ましてや、魔剣の方から所持者を見つけるなど聞いたことがないわ。でたらめではなかろうな?」
「それがびっくりなことに事実なんですよねぇ」
「ふむ、嘘を言っとるようにも見えるがまぁよかろう。とりあえずは信じよう」
「うぃ〜」
「それで、お前はどうやってグレイツバルを倒したのじゃ?」
「さすがに鎧の隙間までは防御魔法でもかけない限りは防ぎようがないでしょ?」
「そんなわけがあるものか、あの鎧はわしも一度近くでじっくり見させてもらったがそんな隙はどこにもなかったはずじゃ」
そう、グーデンの言う通りあの黄金のガチガチの鎧には隙という隙が全くなかった。
全てが覆われていて刃を通す部分なんてどこにもなかったのだ。
それをライは何事も無かったようにティルフィングの刃をとおしたのだ。
「それはまぁ、ティルのおかげだな」
「全く、お前の魔剣はいったいどれほどのつよさなんじゃ…。こうもこの国の秘宝をあっさりと返り討ちされるとはおもわんかったわい」
「ティルは俺の最高の相棒だからな!」
「うるさいわい。いいからわしの質問に答えろ」
「うぃ」
それから俺はグーデンに質問攻めされるのであった。
☆
「やっと開放された…」
俺は長い長いグーデンの質問攻めからやっと開放され時刻は既に夜。
城を出た時にはもうすでに辺りは真っ暗だった。
そんな中、俺は夜の居酒屋へと足を伸ばそうとして真っ直ぐ家に帰ることにした。
「ただいま〜」
「おう、おかえり」
俺を最初に迎えてくれたのはライガルだった。
「そんでどうだったんだ?見た感じ無事そうだが」
「もう質問攻めばっかで疲れた〜」
「ははは、よかったじゃないか女神様に気に入られて」
「俺の女神はリーナだけだっての」
そんなことを言っていると宿側の廊下からドタドタと誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
その方向を見てみると俺の女神様がこっちに向かって走って来ていた。
リーナは俺を視認すると同時にこっちに涙を浮かべて走ってきた。
俺はリーナを優しく抱きしめる。
「お、兄ちゃん、ぐすっ」
「おう、お兄ちゃんだぞ」
リーナは俺が無事なのを確認するように体のあちこちを確認する。
「けが、は?」
「ないよ」
俺はリーナを安心させるように頭を撫でる。すごく不安だったんだろう一生懸命傷がないか探してくれてる。
ここまでしてくれる妹なんてリーナだけだろう。
やっぱりリーナが一番だ!
「ん、ほんと?」
「ほんとだ、兄ちゃんが嘘ついたことあったか?」
「ない」
「だろ?」
「ん」
リーナは改めてハグしてきたので俺もハグし返す。
それで安心したのだろう俺の腕の中でリーナは眠ってしまった。
「滅茶苦茶心配してたぞ」
「それは、ほんとすまなかったな」
「泣き出した時はどうしようかと思ったけどな」
「泣いた?」
「ちょっと泣いたな」
そっかぁ、お兄ちゃん思いで滅茶苦茶嬉しいんだけど泣かしちゃったか…。
今度ちゃんとなにかしてあげないとな。
俺は天使の寝顔を見ながらそう考えるのであった。
「それで結局どうだったんだ?」
俺がリーナをずっと撫でていると痺れを切らしたライガルが何があったのか聞いてくる。
「ティルのことは聞かれたな、あと他にいろいろ詳細なこととか」
「ティルは?」
「ああいう大臣系の人間は苦手だと出てこなかったよ」
「はは、そうか。それでこれからどうすんだ?」
「ん?大丈夫大丈夫、ちゃんと策は施したから」
「策?そうか」
ライガルはライの策と聞いた瞬間嫌な予感がよぎった。
絶対に何かしたなこいつ、と。
「まぁ、それならいいんだが…」
「そういえばさ」
「ん?」
俺はちょうどいい機会なので元この国の女神近衛兵隊長だったというライガルに女神様について聞くことにした。
「女神様ってみんなあんなに幼いのか?」
「いや、アリシア様はまだこの国に来たばかりだ。そうだな、お前たちがこの国に来るちょうど一週間ほど前にここの女神様になったばかりだからな、10年も経っていない。年もリーナと変わりがないだろう」
「そうだったのか。んじゃ、ライガルの代の時の女神様はどんなんだったの?」
ライガルは俺の質問に昔を思い出すように目を瞑った。
相変わらずお気に入りのマグカップはバーのマスターみたく拭き拭きしてるけどな。
「そうだな、アリシア様もまた別の可愛らしさがあるが俺の時の女神様はまた別の可愛さがあったな。可愛いというより綺麗と言った方が正しいかもしれんがな」
「へぇー」
「まぁ、いまのアリシア様とは真逆の性格だがな」
「真逆ねぇ」
「あぁ」
一体どんな人だったのかちょっと気になるな。
と、そんなことよりそろそろ。
「それじゃあ俺はリーナをベッドに連れてくよ」
「お前もそのまま寝てもいいぞ。あとの仕事は俺がやっとくから。お前も今日はいろいろと疲れたろ?」
俺が仕事を手伝おうとおもってたら先にそれを察してくれたライガルが今日はオフにしてくれた。
俺はお言葉に甘えさせてもらってリーナをベッドに寝かした後、体を軽く洗う。
ささっと布団に入ってリーナをまた最後に撫でて眠りにつくのだった。
少しと言いつつ無茶苦茶遅れてほんとすみませんでしたぁ!なにかとゴタゴタがありまして…。そんなことより一段落ついたのでこれから水曜の午後6時にがんばって投稿していこうと思います!読んでくださってる方、ありがとうございます、これからもよろしくです!