滅茶苦茶な魔王の妹!?
「まずは従僕に慈悲を与えてくれたことに礼を言わないとな、ありがとうお兄様」
そう言って目の前のツインテロリは律儀にお辞儀する。
…お兄様?
「俺をそう呼ぶのは勝手だが君は何者なんだ?」
「ククッ、こうもはっきりと拒絶されると心にくるものがあるな…」
そうツインテロリはその不思議な瞳でライをみつめる。
「これもまた、私に対する嫌がらせということか…」
ツインテロリはボソッと何かを呟いたようだが距離が離れすぎていてライには聞き取れなかった。
「よい、我は魔王の妹。名はリリナだ、そして今は魔王そのものだ」
「ま、おう?いも、うと?」
リーナはそうリリナと名乗った同い年に見える女の子に首を傾げる。
続いて俺の顔を見る。
「そ、それで、リリナは何故リーナを狙ったんだ?その理由聞かせてもらえるかな」
「ふむ…、あまり驚かないのだな」
「急にそんな事言われても現実味がないからな。それにこの前その手のゴタゴタに巻き込まれたからばっかだし…。そんなことよりなんでリーナを狙うんだ?」
「ただの私怨じゃ」
そう堂々と言ってのけるリリナにライとリーナは少しばかり困惑する。
「…リーナ、あの子を知っているか?」
「しら、ない」
なにせリリナとはこれが初対面だからだ。
だからこそなぜリリナがリーナに怨みを持っているのかが理解できなかった。
「わかった、それじゃあもう一つ聞く。なぜ君は俺の事をお兄様とそう呼ぶんだ?」
もうひとつの最大の謎がある。
なぜライをお兄様と慕ってそう呼んでいるのか、だ。
ただ単にライがシスコンだからという理由でそう呼べば何となる、そう目論んでるのか。
それを利用しようとしてるなら話は別だった。
ライは生粋のシスコンだ。
真に妹と決めた子達からそう呼ばれないとなんの意味もないのだ。
そんな俺の質問にリリナは少し俯き黙る。
「………して、…か」
なにか呟いてるようだが声が小さいせいでよく聞こえない。
心無しかリリナの体が小刻みに震えてるいるように見える。
リリナはやがてその顔を上げて今度は真っ直ぐにライを見つめる。
その時にポツリとリリナの瞳から雫が落ちたのはライの気の所為だったのだろうか…。
「悪かったな、初対面で馴れ馴れしくそう呼んでしまって。ライ・シュバルツ」
今度はそう、リリナはライの名前をフルネームで呼ぶ。
その時にライの中で少しだけ、ほんの少しだが違和感を感じた。
「興ざめじゃ、帰る」
そう言ってリリナはそのブカブカのコートを翻してライ達に背を向ける。
「待て」
立ち去ろうしているリリナにライは制止の声を上げた。
「…なんじゃ?」
「もうリーナの事は狙わないでもらえないかな?」
「…それは無理な話じゃな、我はそいつが大っ嫌いだからな」
「なんでそこまでリーナを嫌うんだ?」
「そんなの決まっている…」
「?」
「そやつと我は決して相容れない存在だからな」
リリナはそう答えると現れた時と同じように歪めた時空に消えていってしまった。
この場にはライとリーナ、それと眠っているエレナだけが残された。
「にぃ?」
心配そうにリーナがライの袖をギュッと掴む。
自分の頭を優しく撫でてくれる兄の姿、しかしリーナにはその表情がどこか悲しげに見えたのだった。
ライもリリナとは初対面のはずなのだ。
そのはずなのに最後にリリナが見せた切なげな表情を見て心がチクリと痛んだ。
自分でも分からない感情にライは戸惑っていた。
「だい、じょう、ぶ?」
「あぁ、大丈夫だよ」
さすがに愛する妹にここまで心配されて元気出さないわけにもいかない。
俺はリーナをその場から勢いよく抱き上げる。
「んっ」
「大丈夫、リーナは絶対に俺が守るよ」
リリナはまた、きっとリーナを襲いにレベン達を仕掛けてくるかもしれない。
あの時のリリナの顔は本気だった。
きっと何度でも彼女はリーナを襲いに来るだろう。
だがまぁ、レベン以外は致命傷に近い傷をおわせたはずだからアイツらが来ることは暫くないだろうが。
それでも他にまだ違うやつらがいるかもしれない。
そう考えていつもよりまわりを警戒しておくべきだろう。
そんな険しい顔をしているライにリーナは自分の額をコツンとライの額にあわせる。
「にぃ、おうち、かえろ?」
「ん、そうだな」
「アシリア、も、ネア、も、まってる」
「あぁ、帰ろうか。俺達のおうちに」
俺はリーナの額にグリグリと自分の額を優しく擦り付ける。
「お兄さーーん!!」
「リーナちゃん!!」
転移門を抜けて地上に戻ると帰りを待っていたサラちゃんとレナちゃんがこちらに走ってくるのが見えた。
続いてポル先にラーザル老師もこちらに歩いて来ている。
サラちゃん達はそのままリーナに抱きつき安否を確認している。
俺はエレナを背負っているため何も出来ないがリーナにアイコンタクトだけしてポル先たちの所へ俺も歩き出す。
「何があった?」
サラちゃん達からある程度の話は聞いているだろうが詳しい事までは俺に聞いた方が早いと判断したな。
「特には、魔王と名乗るツインテ少女と変態仮面共に絡まれたこと以外は何もないよ」
「すまんが言ってる意味がわからん」
「ごめん、俺も色々ありすぎて何言ってるのかわからん」
「そ、そうか」
珍しいこともあるんだな、とポル先はボソリと呟いてサラちゃんたちの元へ向かう。
「まずは無事に戻ってきてくれたことに感謝を」
俺がポル先の後を目で追っていると突然後ろから声をかけれる。
「んや、俺こそ余裕振っていたのに結果危険な目に合わせちゃってすまないな」
「ふむ、思っているより君はまだまだ若いみたいじゃのぅ」
「何言ってんだ?俺はピチピチの現役だぞ?」
「ほほっ、そうであったのぅ。だからこそ時には大人を頼ることも一つの手だということを忘れてはならぬぞ」
ラーザル老師はそうライの肩を優しくポンポンと叩いてポル先の後を追う。
俺はラーザル老師の言葉の意味がわからず首を傾げる。
「やっと戻ってきたよ、この遅刻魔さん」
「あなたがラストよ、ライ」
そこにルナとソレーユがやってきた。
「おう、ちょっちトラブっててな」
「ライっていつもトラブってるよね」
「そういう星の元にいるのかも」
「それはやだな〜」
そんな軽口叩きながらソレーユたちと喋っているといつの間にやらゾロゾロとクラスのみんなが集まってきていた。
「ライおそーい、パーティー遅くなっちゃったじゃん!」
「そうだぞ!せっかくみんなで作った飯が冷めちまうじゃねぇか!」
「全く、あなたはいつも最後にきますよね」
アリシアクラスの三人衆もといエルド達が文句を言いながらこっちに歩いてくる。
「いやいや、最後に入ったんだから最後にゴールでもおかしくはないでしょ!」
「それにしても時間かかりすぎだろ!」
「そうだそうだー!」
「そうですね、既に皆さん1時間前にはゴールしてますよ」
そんなエルドにリミアとラルフも相まってブーイングの嵐だ。
「ふっ、お前らとは違って傷つけちゃならない子がいたからな」
と、キメ顔でそうドヤる俺をスルーしてエルドたちもリーナの所にいく。
「へー、ライが滅茶苦茶なシスコン癖だからどんな子か気になっていたけど可愛いな」
「まるで人形さんみたい〜」
「ですね」
等と勝手にリーナを弄くり回すリミアに俺は正義の鉄槌を。
「まぁまちな、ああ見えてあいつら心配してたんだぞ。俺らの前であれだけの力量差があるお前が一向に帰ってくる気配すらなくってな」
俺が拳を掲げていざ参らんとしてる所をアグナスに止められた。
「ふむ」
「おまけにエレナまで戻ってきてないって聞いた時には救援部隊を編成して俺らだけでもダンジョンに行くつもりだったんだぞ」
確かにみんなとは時間差が空いてしまったのは事実だ。
そのせいでみんなには相当心配をかけてしまったみたいだ。
ダンジョンではいつ何が起こるかわからない。
いくら安全がとれた階層にだっていつ何時予想外のことが起こるのかはダクトの人達でさえ把握出来ないという。
そんな中、みんなが順調にクリアしているのに優等生二人組が帰ってこなかったら、そりゃあみんな心配しますな。
「なにかあったのか?」
「なんもなかった、ほんとよほんと」
「てめぇさんの言葉は信用がないからな」
「聞いておいてそれは酷くない?」
「はは、それはお互い様だろ。ま、俺らでも手伝えることがあれば言えよ。みんなで助け合うのが俺らだからな」
「もちろん、その時は全力で頼らせてもらう」
「おう、ドンと来い」
アグナスや一部の勘のいいクラスメイトには何かがあった程度のことぐらいは見抜かれてるみたいだし。
「あと暇だったから料理上手い女子たちがカレー作ってくれてるぞ」
「その行動力は流石だな」
「時間は有限、上手く活用してやんないとな」
アグナスはそう笑ってみんなの輪の中に戻っていく。
三人からようやく解放されたリーナも俺の元に来る。
「にぃ、おなか、すいた」
リーナは上目遣いにそう言うもんだから…。
「よし、お兄ちゃんがいまから美味しいカレーをいっぱい持って来てやるからな!」
俺はカレー配っている輪の中に突っ込んでいくのだった。
ふむぅ、仕事と両立させながら書くと中々時間がかかってしまうものだな。
ということでお久しぶりの投稿だ!
月一投稿でも見てくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます!
おおよそ、3年ほどのブランクがありますがそれでもやはりこのライ達のストーリーを綴りたくてほぼ自己満ではありますがこれからもちょっとずつでも書いていこうと思います。
それでも読者の皆様にちょっとでも楽しめて貰えたらなと思っております。
では、我はここら辺で!さらばだ!人間ども!
ライ「リリナ…」
リリナ「呼んだか?」
ライ「うおぃ!?」
リリナ「ククッ、びっくりしたか?」
ライ「なんでここに?」
レベン「日頃の鬱憤だったりぃ〜、3年程待たせれたりぃ?まぁ、色々溜まってたの爆発するのにここを教えて差し上げましたぁ〜」
ライ「ここはもうなんでもありなんだな〜」
リーナ「…」
リリナ「…む」
レベン「おやおやぁ?」
リーナ「ここで、たたかうの、だめ」
リリナ「ふむ、我とて場は弁える。心配せずともそのような事はせぬ」
リーナ「ん、なら、だい、じょぶ」
リリナ「ふん、だが本編では容赦はせぬからな!」
リーナ「よし、よし」
リリナ「撫でるなぁ!?」
ライ「左の文字だけ見てるとゲシュタルト崩壊しそうだな」
レベン「そっちにも突っ込み始めたらぁ、キリないですよぉ〜」
リーナ「なか、よし?」
リリナ「我は別に仲良くなどしておらんわ!」
リーナ「じ、かい」
リリナ「滅茶苦茶なおかえり」
アリシア「次は私たちの出番だからな!」




