登場!滅茶苦茶なロリ女神
「何の用かは知らないが、俺の友達に傷をつけたんだ。ただで帰れると思うなよ」
俺はその言葉と同時に殺気を放つ。
その予想外の殺気に残りの七匹のグラッグバーは先ほどとは違って緊迫した空気が流れだす。
そんな先程とは違うライの雰囲気にルナやグラウは目を見張る。
「さてと、どいつからくる?」
俺はティルフィングを見せびらかすように構えをとる。
それを合図に、俺の近くにいた三匹のグラッグバーが襲い掛かってくる。
残りの四匹が後ろで呪文を唱え始める。
さすが知能型のモンスターだ。
人間と同じようにすぐに陣形を整えて襲ってきた。
俺は最初に襲ってきた三匹のグラッグバーを何事もなかったように斬り伏せる。
三匹とも綺麗に縦横真っ二つにされていた。
その光景にグラウもルナも圧倒されていた。
ライはそんなこと気にもせず後ろの四匹に向かって駆け出すが、接近するには遅くその途中で四匹とも呪文が完成する。
それぞれ赤色、青色、黄色、灰色の玉状にできた魔法を俺に飛ばしてくる。
「ティル、頼む」
俺は強くティルフィングを握ると手のひらにちくっとした感覚のあと、血が吸われていくのが分かる。
俺の血が吸われるのと同時にティルフィングがより一層と紅く輝きが増す。
「はっ!」
力を込めて横薙ぎに一閃ティルフィングを振るう。
その一振りだけで目の前まで迫っていた色鮮やかな魔法の球は塵と化した。
その出来事にグラッグバーやルナやグラウだけでなく女神近衛兵までもが目を見開いて驚愕する。
本来、魔法を物理的に打ち消すことは不可能だ。
それをいまライは軽々とやってのけたのだ。
その光景をどうとったのか一匹のグラッグバーが狂気じみた声を荒らげて襲い掛かってくる。
「グギャァア!」
グラッグバーはその鋭い爪を突き立てようとするが、一歩手前でその鉤爪が届くことは無かった。
なぜなら、体が半分に斬られていたから。
「グギャ?」
と、変な声をあげて目の前のグラッグバーが倒れた。残りの三匹も同様に体を半分に斬られていて亡骸と化していた。
「これにて試験終了だな」
「おーい、グラウ、ルナ大丈夫か?」
俺は残りのグラッグバーを倒してグラウとルナの元に駆け寄る。
二人とも何か言いたげにこちらを睨んでいた。
特にルナはなにから聞けばいいのかわからないって顔だ。
グラウはうん、驚きを隠すために冷静に振舞おうとしているが全然隠せてないな。
「ら、ライなの!?ほんとにあなたはライ?もしかしてそっくりな誰かとかそういうやつじゃなくて?」
「正真正銘俺だっての」
「うそうそうそ!ライはそんなに強くないもん!」
酷い言われようであるが、まぁ今回は敵が敵だったしそう言われてもおかしくはないだろう。
「おまえは、ほんとにライ・シュバルツか?」
グラウが警戒心を出して俺に聞いてくる。
え、まって。もしかして本気で疑ってます?
やだなぁグラウ、本気で傷ついた。
なので俺はグラウとルナから距離をとって、しゃがみこんでからの地面に八の字を書き出す。
子供がよく拗ねてる時にやるあれである。
そんなライの姿を見てグラウとルナは再度あれがライなのかどうか話し合う。
「ねぇ、グラウくん。あれほんとにライだと思う?」
「たぶんな。一つだけあいつを証明できる手があるけど試すか?」
グラウはルナにそう提案持ちかける。
ライはそんな相談話を聞くこともなくずっと地面に八の字を書き続ける。
正直、結構シュールである。
なにせ、まわりにはいろいろなグラッグバーの残骸が転がっているのだから。
その中で、それを倒したライは地面に八の字書き続けて、あげく、どよーんとしたものが伝わるほど落ち込んでいるのだから。
そこで、結論を出したルナとグラウが意を決して叫ぶ。
「あそこにリーナがいるよ!」
「あそこにリーナがいるぞ!」
いままで何も聞こうというか地面に八の字ばっか書いてたライが光の速さでおそらくリーナがいるであろう場所に目を向けた。
それはもう速かった。
リーナのリの字が聞こえた瞬間にグラウとルナの方に向いてナの部分でルナが指をさしてる方向に向いたのだから。
なんというか、彼はもうシスコンの究極体と言っても過言ではないだろう。
「あ、ライだ」
「だな」
そしてこれで彼がライだと確信した人が二人ここに。
「どこ!?どこにいるの!?」
そして一人必死に妹を探す兄。
「ごめんねライ、嘘だよ」
そして、次は違う意味で地面にまた八の字を書き始めた。
「あはは、疑って悪かったって。騙してごめんね?だから、そんなに拗ねないでよ」
「…とんだシスコンだな」
とかなんとかいいつつグラウもルナと一緒に俺のところにまで来てくれる。
ルナが俺の近くまできて肩をポンポン叩いてくる。
グラウは呆れた顔して隣で突っ立っている。
「というかさ、ライ。それって魔剣だよね?」
ルナが俺が抱えている黒い剣を指さして言った。
「まぁな」
「おまえ、いつの間にそんな隠し玉持ってたんだ?」
ここぞとばかりにグラウも会話に参加してくる。
グラウも気になってたようだ。
「ちょっとな」
「へぇ~、どこで手に入れたの?というか、さっきの剣術何?見たことないよ」
「そういえばお前、魔法を斬ったな?あれはどうやってやったんだ?」
「まぁまぁ、まちたまえ諸君」
グラウとルナに質問攻めされていた俺は一旦ルナとグラウを落ち着かせる。
そして、俺はゲートの方に目線を向ける。
それにつられてグラウとルナもゲートの方を見る。
そこには真っ白い鎧にマントをつけた騎士。
女神近衛兵が数十人とこちらに向かって歩いてくる。
怪我を治療してくれるような医療班的な者はおらず、皆それぞれ腰につけてある剣に手をかけている。
穏やかではないのは目に見えて明らかだろう。
ただ一つ、疑問に思ったことがある。
近衛兵がでかいのと、マントが大きいのが邪魔ではあるが先頭の三人の後ろでぴょこぴょこと綺麗な金髪が跳ねてる、何者かがいる中心にいる。
陣形的には真ん中の誰かを守るような形だし。
「どうやらこのまま帰してくれそうにはないな」
「あたりまえだよ!だってこんなことになっちゃったし!」
「それに、お前のそれもあるだろうが」
ルナは慌てて自分に戦意がないことを伝えようとしているのか腰に下げていた愛剣を地面に下ろし手を上げる。
グラウはそんな事はしないが原因であろう俺のティルを睨む。
そんなこんなで言い合いをしていると女神近衛兵が目の前まで来ていた。
「わ、私は知らないからね!何も知らないから!」
「あ、ずる!」
ルナはいかにも自分は何も知りませんでした!と全力でアピールして自分だけ逃れようとする。
そこに俺がすかさず反応。
グラウは見てられないのか手を額においてなにも見なかったことにする。
目の前の女神近衛兵は何も喋らない。
逆にそれが怖い。
数秒沈黙が続いた後、女神近衛兵がガシャガシャと音を立てながら目の前にいた三人が右に左に避ける。
すると中央には美少女がいた。
どこまでも輝く金髪が腰まで伸びていた、前髪は片方を三つ編みにして前にたらしていた。
そんな美貌の前では申し訳程度に美しいティアラがのっていた。
顔も精巧な人形のように綺麗に整っていて、それこそ神がかっているくらいに。
その大きな瞳はグリーンエメラルド色の綺麗な色をしていた。
まるで吸い込まれそうな程に。
というか、一瞬その瞳に吸い込まれました、はい。
それぐらい綺麗だった。
顔のバランスだって可愛らしく整っている。
まるで、その少女が立つ空間だけ別次元みたいだった。
一言で言うと次元が違う可愛らしさだ。
「は?」
「ふぇ?」
「?」
三者三様のリアクションである。グラウに関しては珍しく目が点になってるし。
目の前の美少女はそんなことお構い無しにこちらに近づいてくる。
というか、こっちにきてません?うそですよね?おれじゃないですよね?や、やめてぇ、こないでぇ!
そんな俺の心の声は届かず美少女は俺の目の前まで来た。
それはもうあと一歩で抱きしめられるくらいに。
あいにく、身長的には俺の顔一個分背が低いので必然と見下ろす形になる。
しかし、こちらを見上げる顔は可愛いらしくついつい目が合ってしまうがそれは致し方ないであろう。
というかこの子絶対に。
「な、何用でしょうか?女神様」
俺は敬語で目の前にいる少女に問いかける。
その言葉に隣のグラウとルナがびっくりする。
近衛兵は目の前の女神様に粗相働けば容赦なく斬りに来るだろう。
そのために彼らはずっと剣の柄に手を置いてる。
「うむ!」
と、目の前の少女もとい女神様は元気よく返事した。
その声でさえもほかとは何かが違うと思わせるほどのものだった。
そして、女神様は俺にビシッ!と指を向けるや否や爆弾発言を落とした。
「お前、私の執事になれ!嫌なら奴隷でもいいぞ?」
「…………………………は?」
長い長い沈黙の末に出た言葉である。
女神様は自分の言っていた言葉が伝わってないととったのかもう一度、しかも大声で言う。
「だーかーらー!お前を私の専属執事にする!嫌なら奴隷だ!」
俺は周りを見渡す。
まず、目に入ったのは近衛兵。
兜かぶってるから表情が全然わからないが剣の柄に手を置いたまま硬直している。
次にグラウとルナ。
二人ともなにが起こったのか、というよりいま女神様がなんて仰ったのか理解出来てないご様子。
また、周りを見渡すといつの間に戻ってきていたのだろう。先生や生徒に多少だが観客もちらほらといる。彼らも同じく、目の前の美少女が何を言ったのかを理解出来てないご様子で。
そして、最後に女神様だ。
彼女は自信満々に満ち溢れた表情でこちらを見ている。
と、そこで反対ゲートの方から大声で叫びながら誰かが走ってくる。
「女神様ぁぁぁぁあ!そんなどこの馬の骨とも知らんヤツを執事なぞにしてはなりませんぞぉぉお!」
必然的に皆の視線が声の方に向く。
そこには、いかにも偉そうな服を着て偉そうな帽子かぶって偉そうにしてそうなジジイがこっちに走ってくる。
その隣には女神近衛兵と同じ鎧、いや、ところどころ金の刺繍がはいった鎧を身につけていた。
渋い顔の、ダンディーなおっさんが兜を片手に偉そうなジジイと一緒にこちらに走ってくる。
ジジイ俺たちの元まで辿り着くと俺と女神様の間に割り込む。
「女神様!勝手なことをされては困ります!」
「むぅー」
女神様は目に見えてわかるほどに拗ねてらっしゃる。それも、頬に膨らませて可愛らしく。
ダンディーなおっさんはというと俺をずっと睨んでくる。
俺、何も悪いことしてないのになぁ。
「もっと、身近な方を執事に選び下さいませ!ほら、ここに女神近衛兵隊長であるグレイツバルがいるではございませんか!」
と、あのダンディーなおっさんを指さすジジイ。
へぇ、女神近衛兵の隊長か。
どうりで気迫が目の前の女神近衛兵とは違うわけだ。
その気迫にはルナもグラウも気づいてるらしい。
とりあえず、このおっさんはほかの奴らとは明らかに格が違うのを。
指さされたグレイツバルは女神様に向かって恭しく頭を下げる。
「グーデンは誰を選んでもいいと言ったではないか!」
あのジジイ、グーデンっていうのか。
ま、見た目からして大臣とかそこらへんの位だろうな。
「そ、そうは言いましたが…」
そこでグーデンは俺を睨む。
なんなの、誰にも恨まれるようなことしてないと思うんだけど。
ま、原因に心当たりはあるんだけど…。
俺は右手で抱えてるティルフィングをみる。
ティルフィングは相変わらず禍々しく紅い光を放っている。
「グーデンは誰でもいいって言ったもん!」
女神様は子供のようにそう駄々を捏ねて俺の後ろに隠れた。
というか子供なんじゃないだろうか?身長的に。
あと、言葉遣い的に。
「ですが女神様!そんなどこのものとも知らぬやつを急に!」
グーデンの言葉を途中でグレイツバルが手で制す。
「まぁ、落ち着いてください大臣」
「むむむ…」
やっぱ大臣だったか。
グーデンはグレイツバルに制されて少し落ち着く。と、そこにグレイツバルがこっちまできた。
「女神様、この者をお傍に置きたいのですか?」
「うん!」
俺の後ろに隠れていた女神様は俺の服を掴んで無邪気に元気よく返事する。
わぁ、とってもいいお返事。じゃねぇんだよ!
「そうでございますか。ですが、大臣の言葉にも一理あります。女神様」
「うぅー!誰でもいいって言ったぁ!」
必死にグレイツバルが説得を試みるがそれもあえなく失敗である。
そして、なにを思いついたのかこんな提案をしてきた。
「ではこういうのはどうでしょう?私と彼とで戦って、私が負けたら女神様の言うことを聞く。しかし、私が勝ったら大臣の言うことを聞くというのは?」
「むぅぅ、わかった」
おいまて!勝手に承諾するな!?
「だ、そうだ。もちろん、戦うよな?」
グレイツバルはにっこりとこちらを見る。
そんなヤクザ顔負けのダンディーフェイスでさらりとそんなこと言うから背筋がゾワッとしてくる。
この案には後ろで控えていたグーデンが調子に乗って賛同し始める。
「そうだ!それはいい案だ!グレイツバル。女神様、負けたら言うことはちゃんと聞いてもらいますぞ!」
「ふん!」
グーデンにたいして滅茶苦茶冷たい女神様だがグーデンはそんなことでは折れたりしないのである。
そうと決まればみんなの行動は早かった。
女神近衛兵はづかづかとこちらに歩いてくるやいなや、ルナとグラウを背負ってゲートの方まで引き返す。
当人達は「うお!?」「ひゃ!?」と驚き声をあげるだけでおとなしく連れていかれるのだった。
女神様やグーデンも女神近衛兵と共にゲートに向かう。
このフィールドに残ったのはグラッグバーの残骸とライとグレイツバルだけである。
「じゃおれも〜」
俺もそれに紛れてゲートに向かおうとするとその出口を塞ぐようにして女神近衛兵の重装兵が立っていた。
「諦めて、戦ったらどうだ?」
そんなダンディーボイスでグレイツバルが言ってくる。
「いやだぁぁぁ!」
俺は全力で逃げることにしたが観客席のとある場所を見て態度を変える。
「やってやろうじゃないの」
「どっちだよ」
ダンディーボイスで突っ込みされた。
ちなみにライが見た観客席にはリーナがいたからである。
ただれそれだけである。
妹の目の前でかっこ悪いところは見せられないという兄特有のあれがでてしまったのである。
もう、妹のためならライは何でもできるだろう。
俺が戦うのを決めたのをみてグレイツバルは腰につけてあった普通の剣とは明らかに違うそれを、聖剣を引き抜く。
「では始めようか、少年」
いつも読んでくださってるかありがとうございます、少し投稿日が遅れるかもしれませんがご了承下さい