ソレーユとライの昔の滅茶苦茶なお話 前編
これは、勇者である彼女と魔王であった彼の八年前のお話。
「じー」
「えっと、なにか?」
俺が庭で稽古をしていると不意に誰かの視線を感じて振り向く。そこには、ベンチに座ってこちらを凝視しているソレーユの姿があった。顔色変えることなく彼女はこちらを見つめる。正直、やりづらい。
「気になる、のか?」
そんな視線に耐えきれず、俺は稽古を中断してソレーユに質問する。
「なにしてるの?」
質問に質問で返しますか。せめて一言欲しかったよ。昨日の夜から思ったけど、この子は結構ド直球に聞いてくる子だな。
「なにって、稽古?かな」
「稽古?」
「そう、剣の鍛錬」
「鍛錬?」
この子は何も知らないのだろうか?教育課程とか大丈夫かな?
そんな不安な目でソレーユを見ているとグレイスおじさんがやってきた。
「ふぉっふぉっふぉっ。剣の稽古かい?ライ」
「まぁ、そんなところなんですけど」
「ソレーユちゃんも剣に興味があるのかい?」
「……」
ソレーユは考え込むように虚空を見つめる。そんな姿にグレイスおじさんは微笑む。
昨日、ソレーユを無事に救出し。翌日の朝を迎えた今なんだが。なんとか、ソレーユとは和解できたと思っていたのだが未だに敵対心があるように見える。とりあえず何もしてくることはないし、突然斬りかかってくるようなこともないけど。
しばらく、ソレーユが悩んでいるとグレイスおじさんが喋りかけてきた。
「どうじゃ?ライ。儂と1戦交えんか?」
「へ?」
そんな急な提案にライはビックリするというか恐れ多いというか、なにせ昨日のグレイスおじさんの無双ぶりを見てしまったからな。
おかしいもんな、一人でおそらく100匹以上は相手にしてるよな。それもいろんな魔物に対して。なにも、あの森にいたのはトゥーチだけじゃない。コウモリ型の魔物、キースバット。これがまた厄介な魔物だ。すばしっこくて群れをなしてやってくる。そこだけを抽象的に言うならトゥーチと変わりはないだろう。ただ、さっき言ったようにキースバットはコウモリ型。空を飛ぶのだ。しかも、キースバットには固有のスキルがある。超音波。コウモリ自身がそもそも持つ特殊能力みたいなものだがキースバットも例外なくそれが備わっている。しかし、普通のコウモリとは違いに人の子供ぐらいにある大きさに一つ目の魔物だ。その上、超音波のせいですばしっこいだけではなく攻撃が当たらない。コウモリは目でモノを視認して飛ぶのではなく耳から周りの周波を聞き取り飛ぶ。そのため、攻撃がすべて先読みされて躱されてしまうのだ。そんな、相手にすらグレイスおじさんは一撃で屠っていたが…。逆に魔物が可哀想だったな。
「ソレーユちゃんにいいところみせてやれるぞ?」
そうグレイスおじさんさ俺に耳打ちする。いや、いいとこ見せようとして稽古してたわけじゃないんだけど。まぁいいか。
「わかったよ、やればいいんだろう?」
「ふぉっふぉっ、その意気じゃ」
グレイスおじさんはおもむろに上着を脱ぎ捨て、持ってきていた剣を構える。
「準備はよいかのぅ?」
上着が脱ぎ捨てられて露わになったグレイスおじさんの筋骨隆々な体。どういう鍛え方をしたら一体そんなになるのかねぇ。ライには全くわからなかった。
「いつでもいいぞ」
俺はティルを構えてグレイスおじさんと相対する。そんな俺とグレイスおじさんの勝負にソレーユは黙った見守るのだった。
「では、ゆくぞ?」
一瞬の沈黙。ちょっと強い風が吹いたあと、先に動いたのはグレイスおじさんだった。その巨体にあう走り方で俺との距離を詰めてくる。その気迫はすごい。しかし、そんな気迫で腰を抜かすほど俺もひ弱ではない。俺はそんなにグレイスおじさんから逃げるように右に向かって走る。その際、詰めてきたグレイスおじさんの袈裟斬りをティルを自分の頭上にやり右から左に受け流す。そのままグレイスおじさんとの距離を取るように走る。
「ほほう。逃げてどうするつもりじゃ?」
グレイスおじさんは基本パワー型だ。その戦闘スタイルは森で魔物から逃げる時におじさんの戦い方をみてわかった。なら、俺はそれを翻弄するスピードで戦えばいい。そう思っていたのだが…。
「くっ!」
俺の剣戟はすべて弾かれる上に俺が逃げようとした場所にグレイスおじさんの剣が振るわれる。つまり、逃げ道を塞がれるのだ。
こうなるともう、交戦するしかない。しかし、力では圧倒的に不利。グレイスおじさんの剣を受け止めるも押されてしまう。
「まだまだじゃろ?ライの力はそんなもんじゃなかろう!」
「くっ!これぐらいでぇ!」
俺はこんなところで弱音を吐けるほどの強さはない。だから、たとえ格上の相手であるグレイスおじさんにも手加減なしで挑んだ。しかし、目の前力量差は目に見えている。だけど、それでも抗おう。やるべきこと。守るべきものがあるから。そのために、俺は強さを望む。
「ほぅ」
ジリジリと押し返されてグレイスおじさんは感心する。別に手加減をしているわけじゃない。だからこそ、少しづつだが押して返してきたライに感心した。ライはその勢いに乗ったままティルで斬り込む。しかしそれは容易く弾かれてしまう。
「なっ!?」
「まだまだ爪が甘かったようじゃな」
そんなグレイスおじさんの言葉と共に俺は喉元に剣を突きつけられる。この勝負は俺の負けで終わった。
「しかしまぁ、鍛えれば儂なぞ容易く倒せるようになるじゃろう。ライはそういう太刀筋をしておる」
「そうか、ありがとうグレイスおじさん。おかげでいい鍛錬になったよ」
負けたことをさして気にすることもなくライはそうケロッと答えるのだった。
「ふぉっふぉっふぉっ。ライはまだまだヒヨッコじゃ。それゆえに若い。慌てる必要なぞどこにもあるまい?」
まるで、グレイスおじさんは何かを見抜いてるように片目を閉じてそう尋ねてきた。
「そんなふうに見える?」
俺は俺で、その意味がわかったからそう答えた。実際、焦っているのに違いはない。そのせいで俺はここまで来てしまったのだから。まぁ、おかげでいろんなハプニングはあったけど。
俺は振り返ってソレーユを見る。
「ふむ、きになるのかい?」
そんな俺の姿にグレイスおじさんはにやにやしながら聞いてくる。
「まぁ、なんというか…不思議っ子だなって」
「それを言うならライも充分不思議っ子じゃよ」
グレイスおじさんはそれだけ言って踵を返し家に戻るのだった。戻る際に一言だけ、振り返って俺に言った。
「休むことも強さの秘訣じゃよ」
☆
あれから結局、ソレーユに凝視されながらも稽古を続けた。途中、森に行くことも考えていたのだが…。どうも、ソレーユが離れる気がなくずっとそばにいたせいでいけなかった。そのせいもあってか、グレイスおじさんが言ったことを考えていた。休むことのどこに強さがあるのか。そんなことをずっと考えながら帰り道をソレーユと歩くのだった。一緒に帰るというよりもついてきてるといったほうが正しいかもな。あいにく、彼女から声をかけてくることはないので俺は考え事に集中できる。と思っていたのだが。
「ねぇ」
「…」
あえて無視してみることにした。何かを考えてるような仕草で俺は歩くのだった、
「ねぇ」
「…」
「…」
二度目のねぇも無視したあと、ソレーユは黙り込んでしまった。その代わりに痛いほど俺のことを睨んでいるが。流石にここまでかな?と思った時、唐突に頭の中にティルの声が聞こえてびっくりした。
『呼んでるわよ』
「うぉ!?」
「!?」
俺が急に驚いたことに驚いたソレーユはその身を軽く後ろに飛びどこからともなく剣を出して構えるのだった。そんなソレーユに再び俺が驚いたのは言うまでもない。
「ま!まてまて!なにもしないから!」
「わか、わかってる。ただちょっと、驚いただけ」
ソレーユは剣をしまって、というか消した?とりあえず、剣はおさめてくれたようだ。しかし、再び睨むように俺を見る。
「それで、えっと何か用か?」
「うん、なんであんなに強いの?」
「強い?」
「あのおじさんと互角にやりあってた」
「ちゃんと見てた?俺負けたんだけど、完膚なきまでに」
「嘘、全部軽く受け流してたしカウンターもできた。私にはあんなのできない」
この子はどうやらちゃんた俺とグレイスおじさんの試合を注視してたみたいだ。
「確かにカウンターはできたかもしれない。その練習もしてたつもりだ。けど、結局はできなかった。俺の技量じゃカウンター技に持っていくまでが限度なんだ。そこからカウンター技を出すことも切り替えることもまだできない。あの時に何度もやろうとしたけど結局、全部戦局に追いつけず断念した」
「…なら、なんで最後何もしなかったの?最後はカウンター出来たはず」
最後、とはきっとグレイスおじさんにティルを弾かれた時のことを言ってるのだろう。ソレーユの言った通りあの瞬間なら完璧にカウンターを決めることが出来たろう。それぐらいの隙がありそれができる唯一の瞬間でもあった。でも俺はしなかった。
「あれを手加減してカウンターで寸止め、できればいいんだけど俺にはそこまで余裕が無いし、そもそもそれができるかどうかもわからない。だから、できなかった」
「…そう」
納得したのかソレーユは俺の前を歩く。
「私と勝負して」
唐突に彼女は、ソレーユは俺に剣を突きつけた。
そんなソレーユに俺は
「無理、疲れたから」
「なっ!」
俺はそうソレーユを一蹴して先に進むのだった。ソレーユはあっけからんとその場に立ち尽くすのだった。
「ちょっとまって!」
ソレーユはすぐに正気に戻りライのあとを追いかけるのだった。
☆
そんなこんなで一週間が経った。俺は相変わらず休むことの強さがわからず庭で稽古をする。それをいつものように眺めるソレーユ。さすがに一週間もすれば視線にも慣れる。そんな、いつもと変わらずティルを振るっていると唐突にソレーユが喋り出した。
「それは魔剣?」
「そうだけど、気になるのか?」
俺は素振りするのをやめずに答える。ソレーユもそんなライの態度に慣れてるので構わず話を続ける。
「うん」
純粋な部分は変わっていないが。
「魔剣についてはどれぐらい知ってるんだ?」
「魔剣の反対は聖剣。それだけ」
「それだけって、特性とかそれが与える影響力とかは?」
「知らない」
「まじか」
一つだけ言おう。魔剣と聖剣については誰しもが知っている事だ。なにせ、国宝級の存在でありその数は稀少。更にその中で聖剣魔剣に選ばれる人に絞られる。そしてそれが与える絶大な力は国一個さえも左右しかねないものだってある。こんな一般常識すら知らないこの子は一体どんなところで生まれ育ったんだ?いや、あらかたユグドラシルに聞いたけど…。そういえば、それだけでずっとソレーユのこと知らないんだよなぁ、おれ。ここは一つ聞いてみるのも手だな。
俺はティルを腰にかけて稽古をやめる。そんな俺にソレーユは頭にハテナを浮かべてる。
「どうしたの?」
「今日は気乗りがしないみたいだ」
「うそ」
すげー、鋭いんところもあるんだったなこいつ。
「まぁ、たまには休むのもいいかなってな思っただけだよ」
「…おじさんの言ったこと?」
「まぁ、そんなところ。いまいち俺には休む強さの意味がわからないからな。とりあえず実践してみようかと」
「そう」
俺はそういうことでソレーユの隣に座る。ソレーユはそれを別段嫌がることなく姿勢を変えない。
「とりあえず、そういうことだからちょっと付き合ってくれないか?」
「休むのに?」
「そっ」
「何に付き合うの?」
まぁ、ごく一般的に考えて休むのに付き合うってどうゆうことやねん!って思うだろうけど至って普通に答える。
「ソレーユのこと教えてくれないか?」
「私の、こと?」
「うん、前から気になってたんだよ」
未だに謎の多いこの少女。一体どこから来たのだろうか?ユグドラシルに聞いた勇者一族が住んでいたフェデルマってところはこの子が産まれる前になくなってるはずなんだ。なにせ何十年前の話だっていってたから。もし、この子がフェデルマから来たって言ったら確実に合法ロリ確定だな。何歳だよ!ってなるし。この見た目で五十とか言われたらさすがに反応にこまるけどな。
「何が知りたいの?」
こうして、俺は彼女の過去について詳しく聞くのだった。
ふははは!まだまだちょっとだけ三章は続くぞ!
ということで、いつもん読んでくださっている皆様方、ありがとうございます!
いつにないハイペースでかいておるのわぁぁ!!
そのせいか後書きで書くことがだんだんなくなってきたがな!
ということで、次も早めに出すため我はここらで!サラダバー!にんげんども!
ライ「懐かしいな、そういえばグレイスおじさんマジで強かったな」
ソレーユ「正直、怖かった時があった」
ライ「まぁ、見た目あれだけど無茶苦茶優しい人なんだよなパリベナおばさんもだけど」
ソレーユ「うん、それに対してライは私に酷かった」
ライ「ふぁっ!?」
ソレーユ「勝負申し込んだのに疲れたって言って相手してくれなかった」
ライ「いやいや!ほんとに疲れてたからね!?」
ソレーユ「…(ぷくぅ〜」
ライ「いやそんなわかりやすく拗ねられてもね?」
ソレーユ「あっ…」
ライ「今度はなんですか?もういじるのはやめてくれよ?」
ソレーユ「私今、合法ロリ?」
ライ「そこかーい!!」
ソレーユ「次回」
ライ「ソレーユとライの昔の滅茶苦茶なお話 後編」
ライ&ソレーユ「次もみてね」




