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滅茶苦茶なシスコン剣士の妹件  作者: 魔王
メインヒロインだったはずの勇者の末裔
52/83

滅茶苦茶な勇者の妹ができました!

「ライ」

「なんだ?」

「なんでユグはあんなにも弱っているの?」

あれからちょっと休憩したあと、ソレーユはいまだによくならないユグドラシルの元に行き様子を見ている。相変わらずぐったりしていて辛そうだ。

「簡単に言えば酔っているんだ」

「酔ってる?ユグはお酒なんて飲まない」

「そっちじゃなくて、馬車とかに乗ってるとたまに気分悪くする人がいるだろう?」

「うん、いた」

「その酔うだ」

「ん?ユグは馬車に乗れない」

「これは、まぁ俺のせいなんだが。ユグドラシルの平衡感覚を激しく揺さぶったんだよ。全てを揺らして。だから、ユグドラシルは馬車に乗ったような気分になって酔ったんだ」

イマイチ説明としては雑だがソレーユにはこういった方がわかりやすいだろう。ほんと、それだけのためにあんな大技を使うことになるなんて思わなかった。しかも、調節できずに森一つ吹き飛ばしたし。アリシアに怒られるかな?とか、不安がるライだった。

「ライ、もう一つ聞いていい?」

「いいぞ」

ソレーユはさっきと違い、固唾を飲む。その気を感じたのかライも少し身構える。

「さっきの、あの姿は魔王の姿?」

「へ?」

「?」

「いや、あれはティルの、というか目覚めたってその事じゃないのか?」

「え?」

「へ?」

二度目のへ?を言う頃には俺とソレーユの思惑がどこかで入れ違いがあったのを思った。確かに俺は魔王については伝承でしか知らない。それに、魔剣や聖剣の究極魔法である装甲化リンクを超える魔法なんて俺はないと思っていた。当時、俺がティルで危機的状況になった時にあの状態に一度だけなったことがあった。その時、ティルはこんなことはありえないと言っていた。まぁ

そのぶん俺も多大なダメージを負うが。それにしても、だ。装甲化リンクを超えた無制限吸血インフィニティブラッドの状態。俺とティルは吸血化ブラッドリンクと呼んでいるが、本来なら普通の人じゃできないとティルは断言した。だから、これが魔王の力なんじゃないかと思っていた。

「あれは、魔王の姿じゃ、ない?」

ソレーユはリーナみたいに区切ってそう確認してくる。

「いや、そもそも魔王ってその力に目覚めたらあんなふうに変わるのか?」

「…わからない」

どうやらソレーユでも分からないことはあるようだ。

「そっか」

「うん」

それだけいって少しの間沈黙が訪れる。しかしお互い何もわからないことには変わりがないのでライは話を変える。

「戻るか」

「うん」

なんだかソレーユがやけに素直だ。ソレーユは戻る前にユグドラシルの元へ向かう。

「ユグ、治ったら湖で待機してて」

『龍使いの荒い勇者じゃのぅ』

ユグドラシルはそう言ってまた翼を休める。どうやら天変地異の揺れが相当響いてるらしい。ユグドラシルには悪いことをしたと思わなくもなく。ま、すまん程度のことぐらいは思ってやってもいいと、後で全力で謝るのだった。



『魔王が儂に謝罪とは、世の中わからんのぅ』

そう、去り行く勇者と魔王の背を見てユグドラシルは呟いた。

確かに魔王は目覚めている。ライが引き起こした現象が正しく魔王の力そのものだったからだ。空間をねじ曲げる。魔王にしかできない芸当だ。なれば、やつの本体はどこに消えた?力が目覚めているのならやつの心が目覚めていてもおかしくはない。むしろ、今のこの状況は謎だらけだ。ソレーユはライの中に眠る魔王を封印しようとした。そのための儀式を儂も手伝った。しかし、その儀式は意味をなさなかった。弾かれていたのではない、ましてや目覚めていたから効かなかった?そうでもないとユグドラシルは思う。なにせ、封印するための下準備であるこのフェバルリングに張り巡らせた魔法陣が故意的に一部を掻き消されていたのだから。一体誰が?人の気配は愚か、魔物の気配もなかった。例え、気配を悟られないようにしていたとしても森はユグドラシル、ユグドラシルは森と言っても過言ではない。自然の中でユグドラシルに見えない部分などないのだ。だというのに、人為的に行われた魔法陣の消去、ライの既に覚醒していた魔王の力。そして、消えた魔王の心。

『はぁ、長年生きてきた儂でもこの難問は解けそうにないわい。ジーク、主ならばこの現象が分かったのかのぅ』

その名はかつて、フェデルマの住人を救おうとして生命を賭した勇者の名。たった一人の友人を倒し、数十年の安寧を保ってきた。やつは何も言わず、儂らドラゴンの前から消えた。残された儂らは行く宛もなく、自分たちの住処へと帰っていった。年月が立ち、まさかこうして主らの子らが巡り会うとは、不思議なものじゃのぅ。

『まぁ、これはあやつらの問題じゃ。どんな道を辿ろうとも儂は儂の認めた二人目の勇者と共に歩むとしようかのぅ。あとすまんの、儂でも酒は飲むんじゃよ』

そうユグドラシルは呟くのだった。そんなユグドラシルの足元には一輪の花が咲いていた。




「ほへ?」

目覚めれば俺は白い、いつも見慣れた天井を見ていた。ここはいつも俺とリーナ達が寝ている寝室だ。

あれ?なんでこんなところで寝てるんだ?確かソレーユと一緒に帰ってたはずなのに。

「にぃ、おは、よう」

声のした方を向いてみるとリーナがいた。

「あぁ、おはようリーナ」

俺は上体を起こし世界で一番愛してる妹の頭を撫でる。リーナいつものように、嬉しそうに目を細めるのだった。猫みたいだな。

「起きたわね」

割り込むタイミングを見計らったかのようにティルがリーナの後ろからやってきた。

「ティル、説明オナシャス」

「はぁ、いつも通り変わらなくて安心したわ」

そう前置きにため息をつくティル。

「俺はあれからどうした?」

「簡潔に言うと倒れたのよ」

「倒れたのか」

「えぇ、それはもう見事に」

「どんな風に?」

「前のめりにズコーって倒れたわよ」

「あははは!」

「笑い事じゃないわよ!」

俺がそんなことを愉快に笑うとティルは涙目で怒ってきた。あまりの事にライは驚く。

「本当に心配したんだから…」

そううつ伏せ気味にティルは本音を零した。俺はそんなティルのところまで歩み寄り優しく抱きしめてやる。

「すまんな、でもお前のおかげでなんとかなった」

「もう、使わせないから」

「でもいざと言う時は頼むよ」

「いやよ…」

珍しくティルが意固地になって反対する。それぐらい心配だったのだろう、一向に許してくれそうにない。

「ティル」

「何を言っても嫌よ。あの時だって、無事じゃ済まなかったじゃない!今回はたまたま秘薬があったから堪えれたものの、あれが無ければすぐに…」

「ティル」

「絶対に嫌よ!私は…!」

俺は未だ否定しようと声を荒らげ始めたティルの口を自分の口で塞ぐ。ティルがこの先、なんて言おうとしたのか分かっているから。その言葉はあの時にも聞いたから。ティルがそこまで俺のことを思っていることを知っているから。だから、その必要は無いとキスで言葉を飲み込んだ。

「ぷはっ!」

長いキスが終わりティルの頬が少し紅潮する。

「ティル、言いたいことはわかってる。それは俺がもっと強くなればいいことだ。大丈夫、俺はお前達の前からいなくなったりなんかしない」

「約束を破ったら…」

「魔剣で心臓を刺す、だろ?」

俺がそう笑顔で返事をすると、ティルは小さく「ばか…」とだけ言って剣の姿にもどった。

「にぃ」

後ろで一部始終見ていたリーナが歩み寄ってきて

「やっ」

俺に優しくチョップをかましてきた。

「リーナ?」

「むり、したら、めっ!」

弱々しくてたどたどしいがリーナはそれでもはっきりとそう言った。今回はティルだけじゃなくリーナにも心配をかけてしまった。

「あぁ、もうこんな無茶はしないよ」

リーナを優しく抱きしめて安心させるように頭を撫でてやる。俺がこの子を守らなければ誰が守るんだ?そんなやつはいない!それは兄である俺の役目だ!これからは少し無茶ぶりは控えよう。そう心に誓うライだった。



「あ!お兄ちゃん!」

「目を覚ましたの、ね」

俺はしばらくリーナを慰めたあとアリシアたちが待ってるといういつもの庭に行く。そこにはアリシアとネア、それにルナとソレーユがいた。俺が入るなりアリシアとネアが気づいて近寄ってくる。

「体は大丈夫?」

「無理はしたらダメだよ?」

続いてソレーユとルナがやってくる。

「あぁ、もう平気だ。アリシアが治療してくれたおかげでな」

「なんでわかったのだ!?」

単なる消去法で、だ。

「お、お兄ちゃんは完全に意識を失ってたはずなのに…」

あら、かわいい。純粋でちょっとおバカさんすぎてお兄ちゃん対応にこまっちゃう。

「ライ」

「ソレーユ」

二人が向き合う。そういえばソレーユとはこれからについて話し合うところだったんだよな。その途中で俺が倒れてしまったから一時中座した感じになって。

「この国の女神様やそこにいる魔女にも聞いた」

ソレーユはそうため息を吐きそうな顔でいった。その言葉にアリシアたちが反応する。

「たとえお兄ちゃんが魔王だとしても、私はお兄ちゃんの妹でいるぞ!」

「私は元より魔女、それ以前にライの妹。兄がどういう正体であろうと私の心に変わりはない」

もうすんごい妹になりきっちゃってるね。この二人。それはそれで嬉しいけど!

「だ、そうよ?」

「お兄ちゃんうれし」

「いつものシスコン出してる場合じゃないよ!」

そんな俺のコメントに軽くルナが突っ込む。ソレーユが一歩近づいてきた。

「これからどうするの?」

「どうするもなにも、俺はいつも通りだ。リーナ達と一緒にいて、学校に行って、今までと何も変わらない普段通りの生活をこの子達とおくるさ」

そんな俺の答えにソレーユは押し黙る。何かを考えるように…。

「ライ、覚えてる?」

「なにを?」

「昔、私があなたに告白したこと」

「「「「!?」」」」

そんなソレーユの発言にみんなが驚く。珍しくリーナも驚いてる。

「あぁ、覚えてるよ。私も妹にしてほしいって。ぶっちゃけ、シスコンの俺だからよかったけど、周りから見たら頭をおかしい告白だよな?」

「ふふ」

俺の言葉にソレーユが笑った。すごく、久しぶりに見た。ソレーユの純粋な笑顔。

「そうね、確かにおかしかった。けど、ライだったからそう告白した」

「まぁ、正直俺もびっくりしたけどな」

「ティルもビックリしてた」

「当たり前じゃない」

唐突に返事をする声が聞こえてきた。ここにいないと思っていたがどうやらついてきてたようだ。

「あんな急に妹にしてだなんて、みんな驚くわよ」

「それもそうね」

そうして少し笑いあったあと、ソレーユは真剣な表情でもう1度俺と向き合う。

「ねぇ、ライ」

「なんだ?」

俺がそう聞き返すとソレーユは少しだけ間を置いて、大きく息を吸いこんだ。


「私をあなたの妹にしてほしい」


改めて、そうソレーユは俺に告白した。そんな突然の告白にアリシアとネアが固まる。リーナはじっとソレーユを睨んでいた。ティルはどうする?みたいな顔でこっちを見ている。そんな妹たちを見てライは応える。

「俺はもう既にたくさん妹がいる。リーナにティル、アリシアやネア」

「やっぱり、だめ?」

そう、今にも泣きそうな顔をするソレーユ。俺はそんなソレーユに優しく微笑む。

「どの子も一筋縄じゃいかないこばかりだ。そんな俺の妹たちと仲良くやっていけるか?」

ソレーユがハッと顔を上げる。それは、遠まわしに言いはしたが、ライはソレーユを受け入れたからだ。そんな俺の答えにリーナ達はそれぞれ反応する。

「おにい、ちゃん、あとで、おはなし」

「うぅ、どんどん敵ばかりがふえていくぅ…」

「うまくやれるかしら、ね」

「バカね、本当に」

なんだかんだ受け入れてくれてるみたいだ。

「よかったな」

俺はそうソレーユの頭を撫でる。いまだ、実感がないのかソレーユは棒立ちのままだ。さて、これで平和に解決。とはいかないな。ソレーユとはまだ話し合うこともあるだろうし、なにより…。

「ライ」

俺達の周りから一歩引いた所にルナはいた。ソレーユもルナの声を聞いて慌てて振り向く。そこには暗い顔をしたルナがいた。

気がつけば3月が過ぎていた。

ということでいつも読んでくださってる皆様方、ありがとうございます!

なんやかんややっていたら3月がすぎてしまっていた、すまぬー皆のもの!しかし!これから頑張ってアップしていくから!頑張るから!

ということで皆のもの!サラダバー!


ライ「やっとだぁー」

ソレーユ「先に進める?」

アリシア「やっとだな!」

ティル「変なタイミングで止めるからあやふやになってるかもね」

ライ「まぁまぁ」

アリシア「とりあえず!」

ネア「次へ、ね」



アリシア「次回!」

ソレーユ「滅茶苦茶な勇者の妹ができました!!(泣)」

ネア「次もみて、ね」

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