勇者と魔王の秘密の宴
「ティル」
俺がそう言うと右手が不意に黒いモヤみたいなものに包まれる。俺はそこから硬い突起をつかみ引き抜く。引き抜いたそれは俺が愛する妹の一人。ティルの魔剣状態、ティルフィングだった。
『戦うの?』
「ソレーユがそれを望んでるからな」
俺はティルを構える。同じようにソレーユも構えている。
「その魔剣は、ティルね」
『お久しぶりね』
「そうね」
『会って早々、戦うことになるなんて思わなかったわ』
「文句はあなたの主に言って」
「なんでおれ!?」
『魔王、だからじゃないの?』
そんなに魔王と勇者って相容れない関係なの?ユグドラシルは共存を望んでるって言ったのにな。あれ、どういうことなんだ?
もしかして、俺が返答を間違ったからこういうことになったとか?
ありえる気がしてやばいな。考えんとこ。
「ソレーユ、もう一度考え直してくれないか?」
「これは、今はもう亡き勇者と魔王の戦い。引き継いだ私たちの務め。決して逃げることの出来ない宴」
「俺達にとっては強制参加の宴ね」
「そう、だから私たちには元々選択肢がない」
そうソレーユは言い切ったが、どこかその表情は切なげで悲しい目をしていた。やりたくないことを自らやる人のように。
選択肢がない、ね。ソレーユは変わったと思っていたが根は変わってないんだな。むしろ、虚勢が増した気がする。
「生憎さま、ここにはルナもいない。正真正銘、私たちだけの秘密の宴」
「二人っきりの宴ねぇ」
「不満?」
「響きだけ聞くと何ともないが、内容がありありだな」
「でも逃げたらダメ」
「逃げないって、俺は約束は守る方だ。なにより、やりたいことが出来た」
「やりたいこと?どちらかが死ぬかもしれないこの宴で?」
「そっ、だから手は抜かない」
「当たり前。私は本気でライを殺す」
「結構、俺は本気でソレーユを止める」
「とめる?」
「あぁ」
「それは無理、血筋がある限り私は止めない。例え、倒す相手が…あなただとしても」
「だからこそだ」
そんな俺の真剣な表情にソレーユは
「前座はもういい、やる」
その話を打ち切って。腰を低くして剣を前に出す構え。対して俺は構えをやめる。しかし、そんな無防備なライに気にすることなどなくソレーユは気を溜める。その気はソレーユから溢れ出し、ルナの時とは比べ物にならないほどの電気が辺りを散らす。肉眼で目視できるほどの雷がフェバルリング一帯に展開される。まさに、雷の檻だ。俺がその現象に驚いていると爆音が鳴った。その正体は
「弾かれた?」
いつの間にか俺の後ろに移動していたソレーユだった。
「弾いたな」
ライは振り返ってそうソレーユにこたえる。
説明としてはこうだ。
ソレーユは放っていた気を瞬間的にとはいえ解放させた。その衝動で雷が落ちた時の音に似た爆音がなった。既に光の速度さえも超えたソレーユの懇親の一撃をライは何事もなくティルで受け流したのだ。普通なら、というか両方とも体が耐えるような動きをしてない。光の速度さえも超えるスピードで体を動かせばその衝激に体が散るだろう。逆ににそれを受け止めたライはただじゃ済まない。それどころか魔剣とはいえどそれを受け止めたティルは折れるはずだ。なのに、折れるどころかヒビすらも入ってない。それは単にティルが強いだけなのか。あるいはライの技術がすごいのか、これが魔王と勇者の力なのか…。
『前よりは強くなったということかのぉ、小僧』
ユグドラシルがほんの少し身じろぎをして睨む。しかしまだ動く気は無いのか、一向にその場を動かない。
「ソレーユ、昔と変わらないな」
「変わったんじゃないの?」
「んや、根が変わってない」
「根?」
「あぁ」
「…そう、でも関係ない」
「俺にとっては関係大ありだ。だから…」
そこでライは一旦言葉を区切る。
「だから?」
その間にソレーユが問いかける。次に言葉を発したの時にはライはソレーユの真正面にいた。
「もう一度手を差し伸べる」
「っ!」
咄嗟な動きにソレーユ反応が一歩遅れる。その隙を逃すほどライに余裕などない。容赦なく峰でソレーユを吹き飛ばす。あまりの威力にソレーユの体は宙を浮く。そこまではよかった。ライの方が有利に思えた。しかしそうじゃなかった。吹き飛ばされたソレーユは蔦のクッションにぶつかりとまる。そのまま蔦がソレーユの足場になり上から俺を見下ろす。
「ユグドラシル、か」
「そう、ドラゴンは勇者の味方。レイアとヴリトラを除いてはね」
「なるほど、圧倒的に不利と言いたいわけだな」
「ドラゴンの力を私は完璧にコントロール出来ている」
「会ってない間にそんなことになってとはな」
「これも、ひとえにライのおかげ」
「そう思ってくれてるならやめないか?」
「それは無理」
「ですよね〜」
俺は後ろにいるユグドラシルを睨む。植物や自然のものを自由自在に操るドラゴン。このフェバルの森の中では既に俺はユグドラシルの手の中、いや口の中かもな。それに、ソレーユも姿形が変わってないとはいえあの時よりも格段に強くなってる。比べ物にならないぐらいに。
「あの時みたいに、魔力切れは起こさない」
「起こしてくれたら助かったんだけどなぁ〜」
「それは、ライの命がってこと?」
「お互いに、だ」
「でも残念、ユグドラシルから供給される魔力は底をつかない」
「つまり、無限大に撃てると」
「そういうこと」
ぶっちゃけ、やばくないすかね?それは。あの電撃を連続で放たれ続けられたら正直耐えられない。体の反応が追いつかない。しかし、ソレーユがそれをしないのはひとえにソレーユ自体の魔力のタンクがそこまで無いからだろう。供給されるとはいえ、本来自分の持つ魔力値を上回ることは出来ない。それが今のソレーユの欠点だ。だと思っていたのだが…。
周りの電気が唐突に激しく火花をあげ始める。
「絶対矛盾/雷鳴」
「っ!」
ソレーユがそう唱えると一瞬にして周りの全ての電気が弾けた。瞬間、白の世界に包まれた。爆音なんてものは無い、なぜなら耳で聞こえる音の限界点を超えたのだから。何も聞こえない無の世界。しかし、それもほんの数秒のこと。目を瞑っていたソレーユはゆっくりと目を開ける。その瞳に写っていたのは。
「今のはびっくりしたわ」
赤く禍々しい線が走る黒色のコートを身に纏った、装甲化したライの姿がそこにあった。
「完璧にできるようになったの」
「あぁ、これでもまだ五分の一ぐらいしか力は出せないけどな」
「なにか不調な所でも?」
「んや、完全に制御できるのが、な…」
「まだまだ、ってこと?」
「そゆこと」
「なら、いまのうちに殺しておかないと」
そんな、本気の目で言ってくるソレーユにライは
「殺せるものなら、な」
煽るように、そう返した。その返答にソレーユは少し眉を寄せてムッとした表情になる。
「全力でやる。ユグドラシル!」
『よいのか?』
「構わない」
『よかろう。なれば、我の力を其方にさずけよう。…今回の勇者はちと無謀じゃのぅ』
ユグドラシルは最後にそんな愚痴を吐きながら何かをする?いや、ユグドラシルは全くもって動いてない。それどころかやつが何かをしてる気配なんて、しまった!
急いでライはソレーユの方へと振り返る。そこにはソレーユはおらず、否、多くの蔦が彼女を取り囲むかのように球体となっていた。まるで…。
「触手プレイ?」
『アホかお主は!』
そんなちょっとしたボケとツッコミをしてる間にソレーユを囲う蔦が少なくなっていく。そうして、足場だけが残った。姿を現したソレーユの姿は…。
「なんだ、それ…」
「龍人化。勇者だけが使える龍の秘術」
「龍の秘術?」
「ライとティルのそれと同じ」
「なるほど、装甲化と同じってことか」
再度、ライはソレーユを見上げる。
俺とティルのように特に衣装が変わったわけではない。変わったのはソレーユ自身だった。
ユグドラシルと同じ、龍のように鋭い眼光。両頬に浮き出ている碧翠色の鱗。手の甲にも鱗が浮き出ている。そして本来、人には決して生えていない翼が、ある。龍の翼がソレーユの背から生えていた。気のせいか、シュレディンガーの色が黄色から緑色に変わっている。ソレーユは人と呼ぶにはかけ離れた姿になっていた。
『これが龍人化。初めて見たわ』
「ティルでも初めてなことはあるんだな」
『それぐらいあるわよ』
俺がそんな余裕げにティルと話しているとソレーユがその翼を広げ優雅に地面まで降りてきた。ちゃんと飛べるのか…。
「お話はおしまい」
「嫉妬か」
「うん」
「へ?」
俺がそんなふざけた答えにソレーユは予想外にも、しかも本気で回答してきた。いかん!これは俺の気をそらすつもりだ!
「んっ!」
とかなんとか考えてるうちにソレーユがその場で剣を振るう。俺は真横に飛んでそれをかわす。俺の後ろにあった木にそれが当たりドゴォーンと盛大に音を立てた後、その木は倒れた。巨木とも言えるでかい木が。
「一振りでこれか、こんな芸当出来るやつは流石に今までいなかったな」
「当たり前、そんな簡単に勇者の真似事をされては困る」
「いや、俺も困るんだけどな」
俺はソレーユに向け、改めて構え直す。そんな俺にソレーユは左手を突き出す。
「<ブレス>」
そこから、過去にも見たことある、ユグドラシルが放つものと同じ、その名の通りブレスを吐いた。流石にこれは危ない。しかし避けようがない。当たれば、いや下手したらカスっただけでも危険だ。
「魔絶技 歪曲折」
俺はティルを軽く振るい目の前の空間を捻じ曲げさせた。本来、当たるはずだったソレーユのブレスはその空間にぶつかり、捻じ曲げられ俺の顔の横をスレスレで通っていく。
ま、間に合った…。あぶねぇ!マジで当たったらヤバイやつだ!
通過していったブレスはそのまま後ろの木々をなぎ倒していくのだった。
「なっ!」
『なんじゃと…』
これにはソレーユだけでなくユグドラシルも驚いていた。それはそうだ、なにせ空間を捻じ曲げたのだ。魔法でもなんでもなく、ティルの一振りだけで。
「ユグドラシルとはいずれ戦うんじゃないかと思って完成させといてよかったよ」
「なに、それ…」
「残念だが、秘密だ」
「む…」
ソレーユは返答が気に入らなかったのか、今度は肉弾戦に持ってくる。その翼と瞬発力を使って一気に距離を縮めてきた。ぶつかりあいは不利と感じた俺はそれを受け流すように止める。そのままカウンターを入れれるかと思いきやソレーユはそのまま左手で殴ってきた。それを避けることが出来ずもろに喰らう。
「ぐっ!」
ただのパンチ、されどパンチ。その威力は龍の放つそれと同じ。ライは遠くまで吹き飛ばされ、さらには頑丈な木に背を打ち付ける。だけに留まらず何本か木を折ってようやくとまる。
「ゲホッ、これやばいだろ…」
たった一撃もらっただけで致命傷。装甲化してるのにも関わらず大ダメージ、恐るべし龍人化。とか言ってる場合じゃねぇな。
『ライ!』
「平気だ、ちょっと体が動かないだけだ」
『ダメじゃないその時点で!吸血するわよ!』
「待ってくれ」
『早くしないとくるわよ』
「あぁ、だから吸血するならついでだ」
ライはポケットに手を突っ込み何かを取り出す。
「持ってきといてよかったよ」
『それは…』
「そ、あの時、魔女騎士と戦う時にシェルさんがくれたものだ」
『そこまでしないと、勝てないのね』
「んや、これでもまだ無理だろう」
『なら、どうするのよ』
「力を借りる」
『誰によ』
「お前に」
『どうやって?』
「無制限吸血」
『なっ!』
それだけ言って俺はシェルさんにもらった、大切なブースターを飲み込む。体の中から力が湧き出る。あの頃の時とはまた感触が違うが、力が溢れるのに違いはない。
「やるぞ、ティル。何分持つ?」
『……三分よ』
「ありがとう、ティル」
『それまでに終わらしなさい』
「あぁ」
その応えで充分だった。俺は全身にチクッとした痛みを覚える。次の瞬間、一気に吸血される。黒のコートは次第に紅色に染まっていった。
ソレーユは遠く吹き飛んだ方向を見据える。この一撃で彼がくたばるほど、弱くないのはよく知ってる。普段は馬鹿みたいにはしゃいで弱い弱いと自分のことを言う。けど、いざという時、彼はその殻を破る。それも、とびきりの隠し玉をもって…。
「きた…」
飛ばされた方向、その方角から何かが来ていた。紛れもなくライだろう。けど、さっきと気が違う。さっきよりも何十倍も…。
その気の違いにソレーユはより一層警戒する。が、遅かった。
「っ!?」
「終わりにしようか、ソレーユ」
「いつのまに!?」
気は目の前の奥から感じたはずなのに、ライはすぐ自分の後ろにいた。反応すらさせてもらえなかった。慌てて対処しようとするが…。
「うくっ!」
躱すことも避けることままならず、その背中に一撃もらう。しかも、この一撃が予想以上に重く、まるで全身打たれたかのように体が鈍い痛みに襲われる。
『ソレーユ!』
あまりの変貌ぶりとソレーユの危機的状況にユグドラシルが焦る。あの少年に限って殺すことはないだろうと思っていたのだが…。今の一撃は打ちどころが悪ければもっていったであろう一撃だ。
「私も、まけられ、ないの!」
ソレーユがその拳で地面を叩く。それだけで地面が割れ、地響きが起こる。あくまでもこれは罠だ。地面が揺れれば足を取られる。なら行き着く先は空中。ソレーユはその龍眼で一瞬でライの位置を見つけ追撃する。ライは空中というソレーユにとってアドバンテージな場所でも構わず防御する。そこで初めてソレーユは気づいた。ライの髪が、瞳が真っ赤に染まっていたことに。ライは何も語ることなくソレーユの一撃を弾く、だけではなくその手からシュレディンガーを離させた。飛ばされたシュレディンガーはかつて、ネアがやられた時のように空中で粉々に砕けた。
「そん、な…」
神絶技 天羅。それをカウンターのようにしてソレーユのシュレディンガーを跳ね除けたのだ。そんな隙のできたソレーユにライは容赦なくティルを振るうのだった。
「っ!くぅ!」
しかし、ティルフィングはソレーユを傷つけることなくすりぬける。否、すりぬけたのではなく気を削いだのだ。それも、常人なら触れただけで気絶するほどの威力で。ティルの特性<幻滅>。
ソレーユはそのまま地に落ちる。龍人化は解除され、元のソレーユに戻った。ソレーユは蔦に優しく持ち上げられユグドラシルの所まで移動する。
「ま、まだ…」
ソレーユはなんとか立ち上がろうとするがそんな力もない。
『やってくれたのぅ、小僧』
その姿にユグドラシルが遂に動きはじめた。ブレスを放とうと一度大きく息を吸うが、その隙は今のライにとっては止まっているようにしか見えないほどのものだった。
「グルァァァァ」
そんな隙があったにも、ライは何もしなかった。ユグドラシルのブレスが真っ直ぐに、それもソレーユのとは比にならないほどのものがライに放たれる。
「神絶技 天地歪曲折」
ライがブレスを斬るようにティルを振るった瞬間。世界が曲がった、正確には天と地がひっくり返ったような、そんな感覚に陥った。さっきのソレーユに使ったものとは格が違う。そんな
不安定な空間にユグドラシルのブレスが荒れ狂う。その威力に耐えられなかった空間が辺り一面、フェバルリング全体に爆発が起こった。
「グルゥ…」
ユグドラシルは爆煙のなかその龍眼を光らせる。
「グルゥ!」
気配のする方向にその尻尾を振るう。その猛威はライに当たることなく周りの煙を晴らす。その動作だけで周りの煙が一気に吹き飛ぶ。当然、ソレーユは障壁に守られていて無傷だ。ただ、衝撃に耐えられなかったのか気絶している。
『どこに消えたかのぅ…』
その目を凝らして辺りを見回す。いる影どころか気配すらも感じない。
『む、そこか!』
自分の背中辺りに蔦を差し向ける。しかし、蔦は素通りしていく。ユグドラシルの勘は外れる。そんな隙を今度こそライは逃さなかった。
「神絶技 天変地異」
突如、ユグドラシルの頭上から降ってきたライは誰も見たことのない。ネアにでさえきっとできない。そんな神業をライは成した。
ライがティルフィング地に刺した時、全てが変わった。
大地が崩れ、空が吹き荒れる。まるで、全てが滅ぶような錯覚。
次の瞬間、フェバルの森一帯は壊滅した。
「ん、んっ…」
ソレーユはぼやける思考で何が起こったのか把握しようとする。
「なに、これ…」
しかし、そんな考えも目の前の光景によって吹き飛んだ。大地が裂け、曇天が覆う。木々や草がなくなりその地を剥き出しにした大地。何が起こったのか、到底想像出来なかった。
「っ!ユグ!」
ほんのちょっと目の前ではユグドラシルが倒れていた。ソレーユは急いでユグドラシルの元まで走る。ユグドラシルは何だかぐったりしていてとても弱々しかった。
「どうしたの?なにがあったの!?」
ソレーユは必死にユグドラシルに声をかける。ユグドラシルもソレーユの声を聞いてその弱った体を起こす。
『あの小僧、とっくの昔に目覚めておったわ…』
「めざめ…、うそよ!ライにそんな兆しは見えなかった!」
『言ったじゃろう、とっくの昔に目覚めておったんじゃ。あの小僧は』
その言葉にソレーユは崩れ落ちる。ユグドラシルのいう目覚めるの意味がはっきりと分かっているから。それはつまり…。
「ライは、魔王になったの?」
『間違いなかろう…』
「そんなっ」
ソレーユの瞳から自然と涙が零れる。この宴の意味がなかったと。本来、勇者と魔王は相容れない関係。そうお父様は言っていた。だからこそ、こうも言っていた。あくまでも仮説だが…。
もし、魔王が俺と同じように勇者として目覚めるようなものがあるのなら、目覚める前に封印すればいい。そうしたら、きっと平和に事が済む。
父はそう言った。現に私は勇者として目覚めた、ユグドラシルに乗れるのがその証。けど、あの頃のライは目覚めてなかった。そして今も。そう思っていた。なのに!
あの姿がそうだと言うなら、私は全力で彼を殺す。その肉体ごと魂さえも葬り去らなければならない。そんなことしたくなかったのに!
「ソレーユ」
「っ!」
後ろから声をかけられソレーユは反射的に振り返る。そこには瞳も髪も紅く染まったライの姿があった。今のソレーユにはそれが魔王の姿にしか見えなかった。
「ライ…」
「終わりだ」
「っ!私は、勇者。私にはライを倒す義務がある」
「ま、まてまて!」
「まてない!ユグがやられた!もうあなたはライじゃない!魔王なの!」
パパは言った。魔王に目覚めるとその人の人格が変わる、と。ライならユグをこんなに弱らせることまでしなかった!だけど、もう!
ソレーユは立ち上がり明確な殺意をライに向ける。その様子にライは少し慌てる。
「待てって!もう少しちゃんとユグドラシルをみてみろ!」
「見るも何も!」
そこで改めてユグドラシルをみる。忠告されて気づいた。外傷がない。傷一つないのだ。ティルの<幻滅>を使ったようにも思えない。なのに、なんでユグはこんなにも弱っているの?
「なにを、したの?」
「あぁ、えっとだな…」
ライは言いづらそうに頬をかく。その様子にソレーユは
「この風景と関係あるの?」
「大ありだな」
一体これだけのことをして、いや、こんなことをして、一体全体彼は何をしたのだろうか。ソレーユには到底想像出来なかった。ライもライで説明しないと納得しないだろうから口を割った。
「ソレーユのブレスの時にさ、歪曲折って技みせたよな?」
「あの、私のブレスをねじ曲げた?」
「そう、それの究極板。今のこの状態でないとできない裏技だよ」
「それで、こんな?」
「あぁ、えっとまぁ、調節の難しい技でさ。つい…」
そんな森を壊滅させたことをついで終わらすライをソレーユにはもう常人に見えなかった。それに、普通の人がこんなことを出来るわけがない。
「目覚めた、の?」
ソレーユは恐る恐るそう本人に聞くことにした。魔王の自覚が無かったライに。ライは少し間を置いて、答えた。
「随分前にな」
「っ!」
明確な答えにソレーユは絶句する。これで、もうどうしようもなくなった。
「なら、私は…」
ライを見据えるソレーユ。そんなソレーユに優しく微笑みかけるライ。ソレーユにはその笑顔がライのものにしか見えなかった。
だからこそ、本気で殺しに行けない。好きだと、昔にそう感じて、殺さないための戦いをしていたというのに。脚が動かない。手が震える。私は勇者だ。いくら、昔に命を助けてもらったからって、ここまで導いてきてくれた相手が敵でも。やらなくちゃならない。それが、勇者になった責務。だから!
「うっ、ひっく…」
彼女は泣いていた。俺がこの力に目覚めたのは随分前だ。これが魔王の力と知ったのはつい最近だけど。だからこそ、魔王である俺にさっきまでの彼女は救えなかった。今こうして、改めて現実を向けさせることでやっと彼女を救える。それがどういう意味を果たすのか、それはこれからの彼女の意思で決まる。
「ソレーユ、魔王に目覚めたら心が蝕まれる、それを知ってたから俺を封印しようとしたんだよな?」
「っ!」
急に脈絡もなくライがそんなことを言ってきてソレーユはびっくりした。あの宴にどういう意味があったのか、彼が知っていたから。
「けど!もう遅かった」
「遅くない」
「だって!」
「今度は俺を、よく見てみな」
俺はソレーユを宥めるように、そう優しく語りかけた。ソレーユは弱っているのか素直にいうことを聞いてくれた。ライもそんなソレーユに真実を語る。
「俺は俺だ、ソレーユが目覚めてもソレーユに変わりがないのと同じ。俺は俺だ。お前と昔に会った俺だよ。竜殺しのお嬢さん」
ライにはそう言いきれる自信があった。ソレーユがいかにその言葉を信用するかによってこの先、どう動くか変わる。
「っ!ほんとに、ほんとにライなの、ライなんだよね?」
ソレーユは確かめるようにそうライの元へいく。生まれたての小鹿のように震えてるソレーユをライは優しく抱きとめる。
「今まで黙っててわるかったな。こんな大事になるなんて正直思ってなかったよ」
「ライを、殺さなくていい?」
「それはお前が決めることだ」
魔王は、勇者にそう問いただす。勇者の答えは…。
「なら、殺さない」
その言葉にライはほっとする。その後、ソレーユが泣き止むまでライは抱きしめてやるのだった。
そんな二人の姿にユグドラシルはため息をつくのだった。
『わけがわからんのぅ』
しかし、ユグドラシルには疑問があった。確かに客観的に見ると訳が分からない。ユグドラシルにとっては、なぜ《魔王として力が目覚めているはずなのライがその心を侵食されていない》のか、だ。ユグドラシルは知っている。かつて、勇者と魔王が友達であったことを。彼らは五百年以上も戦ったことを。最後に勇者が友人を殺したことを…。その結果を生んだのが魔王の侵食。わかりやすい分かりにくいの問題じゃない。本人自体が本人でなくなるのだから。それはもう別の存在、まさしく魔王なのだ。なのに、力にだけ目覚めてハイ終わりなんて事があるのだろうか?いまのユグドラシルにはわからなかった。しかし、確実にわかることがひとつ。ソレーユがライを本物と見抜いたようにユグドラシルにもライは昔の少年と変わりがなかった。ということだけだ。
1月最後の投稿、思えばこの1ヶ月、サボり過ぎててやばい!だからって二月もいっぱいかけるわけじゃない!うがぁぁぁ!
と、頭を悩ませてる我だ!
ほんと、読者の皆様方すみません。
そして!いつも読んでくださってありがとうございます!
ちなみにこの前だせなかったのは単純にインフルエンザにかかって地獄を見てたからだな。皆も気をつけるのだぞ!病気は辛いからな!
ということで!今日はここら辺で、サラダバー!人間ども!
ライ「なんとか、終わった(ガクッ」
ソレーユ「ん、でもまだ終わりじゃない」
ライ「へ?なんで?」
ソレーユ「私は諦めない」
ライ「殺すの?」
ソレーユ「違う、ライの、お嫁さんになるの」
アリシア「うがぁぁ!」
ソレーユ「!?」
ティル「急な発言に女神様がおこね」
リーナ「わたし、も、おこ」
ネア「右に同じ、ね」
ソレーユ「だ、だれ?」
アリシア「最近でばん全然ないぃぃ!」
ネア「そう、ね」
リーナ「にぃ、うわ、き」
ライ「違うんだリーナぁぁ(ひしっ」
リーナ「にぃ、だいすき(ひしっ」
アリシア「抜けがけずるぃぃ!(ひしっ」
ネア「ぁ、ぁ…(やろうか迷ってる」
ソレーユ「なに、これ…」
ティル「そういえばソレーユは知らなかったわね」
ソレーユ「それで、だれなの?」
ティル「これ以上は次のお話でよ」
ソレーユ「次回」
ライ「滅茶苦茶な勇者の妹、ができました!」
ソレーユ・ライ「「次回も見てね!」」




