滅茶苦茶な試験会場
次はいよいよライをひきたてます!
楽しい学園生活は時間が過ぎるのは早く、気づけば昇格試験当日になってしまった。
「あーあ、かったるいなぁ〜、やすみたいなぁ〜」
「ライもっとシャキッとしないと!今日は試験当日なんだよ!それにいつもとは違って女神様もこられるんだよ!」
俺はルナに背中をバシバシ叩かれながらこの後から始まる実技昇格試験を億劫に思うのだった。
現在俺たちはこの国の中心にある大闘技場に来ている。
いつもなら学園の闘技場であるのだが、今回は女神さまが見に来られるということで、特別にこの国の剣士たちの聖地である大闘技場にて行われることになった。
先生たちを先頭に俺たちは会場の中へと入っていく。周りを見てみると、女神さまを一目見ようと一般市民の方々で席が埋まっていた。
これじゃあ本物の闘技試合じゃあないですか。
そんな観客の騒ぎ声に横にいたグラウが悪態をつく。
「うるせー」
「それには賛同するよ」
「ふん、それにしても試験相手がお前だとはな」
「まぁまぁ、そうカリカリしなさんな」
そういって俺はグラウの肩を叩く。
「はぁ、せいぜい頑張るんだな」
「手加減オナシャス」
「アホか」
グラウにうまいことやってくれないかなーと頼んでみるもののやっぱり駄目だった、くそぉ。
「.......ま、それなりにやってやるから本気出してかかってこい」
ツンデレグラウ先輩あざーす!
俺はどうやらグラウのおかげで今回の試験は恥をかかずにすみそうだ。
これはもう、グラウに感謝感謝であります。
「今度なんかおごるぜアニキ」
「急にウザさが増したな、…それなら市場で最近流行りのチョコシフョンでも買ってもらおうか」
「じゃ、ついでにリーナのも買っておこう」
「あいかわらずのシスコンだな」
「最高の褒め言葉だ」
「うぜー」
グラウはそれはもうめんどくさそうにするのだった。
そんな会話を聞いていたのか聞いていなかったのか前を歩いてたルナが二人の手を引っ張る。
「ほらほら!早く行こうよ!」
「おう」
「わかったから手を離せ」
お構いなしにルナは俺たちの手を引いてどんどん闘技場の中に連れていくのだった。
「おぉー」
思わず感嘆の声が漏れた。
前に一度見に来た事はあったが、改めて中に入ってみるとやっぱり大きいな。それに観客の数も多い。
普段は観客なんて同じ生徒たちしかいないからな。
でも、今回は特別で一般の人達もいるし女神さまも見に来られてる。
ちなみに女神さまはというと闘技場を全部見まわせる特等席のでっぱりのある場所にいるのだろう。
なぜ、予想なのかというと白いカーテンみたいなものが閉じられていてこちらからはそのお姿は見られなくなっていた。
「最初は他の人たちだからその間にちょっとだけでも練習でもしておく?ライくんよ」
ルナは俺たちを控室まで案内した後、今日の試験予定の紙を出して俺たちの予定を確認する。
俺たちの出番は最後だ。
なので、相当時間に空きがある。それをすこしでも活用しようとルナが俺に提案するが俺はそれをやんわりと断った。
「断る!」
「ぜんぜんやんわりじゃないよ!」
「アホくさ」
「むぅ、グラウ君はどう?」
「いや、遠慮しておく」
「もぅ、二人ともつれないなぁ」
結局俺たちはおとなしく他の生徒たちの試合を見ながら順番を待つのだった。
特にトラブルもなく順調に試験は進み、俺たちの出番が来た。
というか、最後に最下位の俺を戦わせるとか鬼畜だな、この試合予定考えた先生は…。
最下位の俺と学年三位のグラウと戦わせるのもはたから見たらただの公開処刑である。
まぁグラウなのが俺にとっての唯一の救いだが。
俺とグラウはそれぞれ入場ゲートでスタンバイ中だ。
俺はじっと待っていると若い男の声が盛大に聞こえた。
今回の司会進行役のお兄さんだ。
「さぁ、みなさんおまたせしましたー!いよいよ今回最後の試験試合です!」
これじゃあ試験じゃなくてみせものだな。
たぶん、グラウもむこうで苦い顔してんだろうなぁ。
「さて、それでは出てきてもらいましょう。剣士、入場してください!」
そういわれて俺は闘技場に入っていく。向こうでもグラウが入ってきている。
それぞれ歩を進める。
そうして、お互い五メートルほど離れた所で足を止めた。
審査官がその二人の真ん中に割って入ってくる。
「それでは、今から試験を始める。それぞれ義祝を唱えてください」
義祝とは一種の魔法である。
この魔法は身体能力を上げる呪文で試験や剣術の練習で大けがをしないようにかけるための魔法だ。
これは義祝とは別に女神様の加護とも言われている。
「「我が剣に賭けて祝福の導きを、我を守る力と化せ!!」」
義祝を言い終えると俺とグラウの体がほんのりと光り輝く。
それと同時に少し体が軽くなった感じがする。
「それではこれより、グラウ・ディオスとライ・シュバルツとの試験試合を始める。抜剣!」
審査員の抜剣の合図で俺とグラウは同時に剣を抜いた。
グラウは背中から、俺は腰から。
審査員は抜剣と言い終えると同時に巻き込まれないように全力で後ろに下がる。
「はぁぁぁ!」
最初に仕掛けたのは俺だ、腰から抜き放つ勢いで剣を下段から斬り上げる。
ほとんど不意打ちに似た攻撃をグラウはバックステップで躱す。
俺は構わず追撃し、振り上げた剣を次は振り下ろす。
これをグラウはいとも簡単に弾き返す。
「ふん!」
「くっ!」
俺は弾き返された反動でよろめくグラウはその一瞬を逃さず斬り込みを入れてくる。
が、突然何かが空から落ちてきた。
それも、ものすごい勢いで。
砂煙が立ちこめるの中、俺とグラウはそれを感だけを頼りに後ろに飛びのいて避けた。
「うぉ!?」
「なっ!?」
落ちてきたのはなんとモンスターだった。
しかも、ガーゴイルという一番厄介な知能型のモンスター。
モンスターにはいろいろな種類がいるがおおまかにわけて二種類にわかれる。
一つは人間と暮らす平穏なタイプ、もう一つは人間を襲うタイプもいる。
ガーゴイルはその中でも知能が高く人を襲うものもいれば襲わないものもいる。
ただ、目の前にいるガーゴイルは普通のとは違う。
亜種だ。ガーゴイルの亜種グラッグバー。
亜種は普通のよりも数が少なくそれでいて何倍も強い。
それが目の前に、敵意剥き出しで落ちてきたのだ。
急な出来事に観客も周りの試験官も唖然としている。そんな、皆が何も行動できない中で悪魔の行進は始まっていた。
空から異常なほどの羽ばたく音が聞こえた。
見上げてみるとそこには大量のガーゴイルの亜種がいた。
その数はおよそ一三匹。
亜種は普段は群れて行動はしないはずだ。
たとえ知能型のガーゴイルだったとしても…。
しかも、今回は後者側のモンスターだろう。
「なんでこんなにもモンスターがここに!しかも、亜種だなんて」
俺はそのあり得ない光景に思わず本音が漏れる。
俺のその一言が聞こえたのか聞こえてないのかわからないが観客が暴れだした。
「うぁぁぁぁぁぁ!!」
「モンスターだぁぁ!」
「逃げろ!早く逃げろぉぉぉぉ!!」
「警備隊はどうしたんだ!?まさか!」
一瞬にして観客が嵐の中にいるように混乱し、みんな我先にと出口に向かう。
「くそっ!」
グラウが目の前に落ちてきたグラッグバーと睨みあいになり悪態をつく。
空からは十三匹のグラッグバーがゆっくりと降りてくる。
俺はそれをよく観察する。
グラッグバーは観客には目もむけず俺たちを囲むように降りてくる。
俺はそこで観客に目を向ける。
観客の中にはリーナやライガルもいるとさっきルナに聞いたんだが、まぁ、ライガルがいるなら大丈夫だろう。
それに、ルナやほかの生徒や先生たちも観客の避難を手伝っている。
しかし、全員を避難させるにはまだ時間がかかるだろう。
そして俺はもう一つある場所を見た。
俺の目線の先には女神さまの特等席、その付近にいる女神近衛兵だ。
彼らは最初こそ動揺するもののすぐに女神さまを守れる立ち位置にいる。
やはり、そこら辺の対応はプロだ。
だが、きになっているのはそこじゃない。
普通なら、数人が女神さまのもとで護衛し、残りが観客の避難を優先し、また別の騎士が魔物を討伐しに来るはずなのだが…。
誰一人としてこちらの援護に回ってきてくれる騎士がいない。
「おい!お前もさっさと逃げろ!」
グラッグバーと対峙しながらグラウが俺に逃げるように促してくる。
俺はここで友達を置いて逃げれるほど卑怯な奴なんで逃げます!
俺は全速力で入場ゲートに向かうがタイミング悪く、そこを二匹のグラッグバーが塞ぐ。
そして俺は全速力でグラウの元に戻る。
「はぁ、はぁ」
「このバカが!」
手詰まりだ。
俺たちは逃げ場を失いグラッグバー囲まれた。
逃げ道はどこにもない。
そんな窮地で絶体絶命なところに救世主が。
なんと、ルナが二本の剣を手に持って観客席から俺たちのもとへ飛んできた。
「ライ!グラウ!」
俺たちの名前を叫ぶと同時にルナはもっていた二本の剣をグラウに投げた。
グラウはそれをキャッチする。
その剣にはそれぞれ鍔の中心に青い宝石と赤い宝石が埋め込まれていた。
グラウがその二剣を鞘から抜くと刀身が青と赤の剣が抜き放たれた。
この特殊な二つの剣がグラウの愛剣だ。
「くそが、なんでお前までこっちに来てんだ!」
「さすがにこの数をグラウ君だけじゃ荷が重いでしょ?」
「ちっ、後ろは俺がやる」
「了解」
そういってルナも腰に差していたレイピアよりの細身の剣を抜く。
ルナの愛剣はパッと見、何の変哲もない剣だった。
ただ違うのはその刀身が電気を帯びているということだ。
ルナとグラウは自然と背中合わせになる。その中心に俺が立っている。
完全にお荷物である。
俺は観客席と女神近衛兵を見やる。
観客の避難はあともう少しで終わりそうだ。
それと女神近衛兵はいまだに動かず、か。
そんなことをゆうちょにみていると痺れを切らしたグラッグバーたちが一斉に襲い掛かってきた。
それを、グラウとルナがそれぞれ捌く。
その攻防はまさに死と隣り合わせな戦いだ。
一体だけでも本来なら上級者の剣士が三人は必要なのに、それをたった二人だけでこの数を凌げるルナとグラウはもはや天才の域を越している。
ただ、どんどんルナやグラウに切り傷が目立ってき始めた。
「くそっ!」
「うっ!こ、これはちょっと厳しいかな、あはは…」
間一髪でグラッグバーの攻撃を防いだルナがよろめく。
グラウはすでに満身創痍だ。
戦闘が始まってから経過した時間は五分。
よくその数を二人だけでここまで凌げたのはさすがだと思う。
しかし、まだ観客は会場から完全には避難できておらず、グラウもルナもまだ戦う気だ。
そこでグラウがなにかしらぶつぶつとつぶやき始めた。
その呟きが終わるとグラウの片方の剣が熱気を、もう片方が冷気をおびはじめた。
「こうなったら全部吹き飛ばす」
これがグラウの本気。
グラウは次々にグラッグバーを斬りふせる。
斬られたグラッグバーは凍ったり燃やされる。
これが、グラウの魔法と剣舞を組み合わせた剣術だ。
剣に魔法を付加させて爆発的に威力を跳ね上げさせ斬った相手を凍らせるか燃やす。
その剣舞は描く軌跡はまるで幻想的だ。
「それじゃあ私も!」
今度はルナが呪文を唱え始める。
唱え終わると急激にルナの剣が帯びる雷が大きくなり次の瞬間、轟音が鳴り響き数体のグラッグバーが爆ぜた。
グラッグバーに向かってルナの持てる最大出力の雷が落ちたのだ。
雷をまともに喰らったグラッグバーは跡形もなく消し炭に変わった。
だがそれで限界だったのだろうルナが倒れた。
俺はそれをとっさに支える。
「ごめん、もう限界かも…」
ルナは笑っていたが服のあちこちはボロボロに引き裂かれ、その綺麗な肌には痛々しい傷がついている。
気のせいか体が震えている。
俺はぎゅっとルナを抱きしめる。
ルナは急に抱きしめられて困惑していた。
「え、え!?ライ!?」
「大丈夫だ」
俺はただその一言だけルナに伝えて体を離す。
ルナはいまだに何が起こったのかわからずにいた。
「ぐはっ!?」
グラッグバーの猛撃にグラウがこちらに吹き飛ばされてきた。
「グラウ君!?」
「はぁ、はぁ」
グラウももう戦えそうにない。
すでにグラウの握っていた二剣は熱気も冷気も帯びていない。
残った七匹のグラッグバーが追い詰めた獲物をゆっくりと捕まえるかのように徐々に近づいてくる。
俺は再度観客席に目を向けた。
そこには誰もいなかった、みんな無事避難できたようだ。
女神近衛兵のほうにも目を向けるが俺たちがこんな状況にも関わらず全く動く気配がない。
「ルナとグラウはここで休んでいてくれ」
俺はそういって立ち上がる。
「ばか!てめぇじゃ、ゴホッ!」
グラウが俺を止めようとするが体の負傷が激しくもう立つことさえできていない。
「ライ…」
ルナは心配そうな顔をこちらに向けるが俺はそれに笑顔で答える。
「大丈夫だ、二人とも俺を守ってくれてありがとな。おかげで俺も戦える。次は俺がお前らを助ける番だ」
覚悟を決めて目の前のグラッグバーと向かいあう。
そうして俺はもう一人の妹の名を、その真名を呼ぶ。
「来い、ティルフィング!」
俺の呼び声に答えてくれるように、目の前に漆黒の剣が黒色の粒子とともに虚空から現れた。
その剣の中心には紅く禍々しい光を放つ宝石が埋められていた。
その刀身にはところどころ紅い線がはしっている。
俺はそれを手に取り構えた。
ルナとグラウはその異様な剣に見惚れていた。
だがグラウは剣もそうだが、それ以前にライの構えに注目していた。
その構え方はさっきのライとは違っていて様になっていたからだ。
「さぁ、始めようか。本日最後の試験を」
読んでくれてありがとうございます!おかしなとこがあれば、またはこうしたほうがいいよといゆう案があればぜひぜひコメントいただければ幸いです