滅茶苦茶!でもないお仕事
俺は控え室でウェイトレスの服に着替えた後、店というかこの宿の入口にかけてある裏と表に文字が書かれた木の板を裏返しopenに変える。
「ライガル~、オープンに変えておいたぞー」
「よし、じゃあお前ら一仕事やるぞ」
「うぃー」
「ふん」
「はーい!」
ライガルがそう仕切ると俺とグラウとルナは三者三様の返事をしてそれぞれの持ち場についた。
ライガルは当然厨房、グラウがそのサポートだ。グラウはああ見えて料理が得意だったりする。
そして、残りの俺とルナが接客だ。
あともう一人ここで働いているお姉さんがいるんだが今日はおやすみ。
計五人でこのお店をまわしている。
ここラッフ亭の内装はちょっとお洒落で隠れ喫茶的な感じを思い当たらせる。
床や壁はダーク色に近い木材を使っており周りには所々にリーナがかわいがっている花や観葉植物などがちらほらおいてある。
それが思った以上にお客受けしている。
ちなみにこういう内装になったのはこの宿のマスターであるライガルの趣味である。
まぁ、俺もこういう雰囲気は嫌いではないしグラウとルナもここの空気が好きだったりするのでなんともない。
俺たちはそれぞれ客がくるのを待っている間、細かいところの整理などをしていた。そんな中、グラウが話しかけてきた。
「おい、お前は大丈夫なのか?」
「んー?何が?」
「実技昇格試験のことだ」
そういうグラウはいかにもめんどくさそうに俺に問うてくるが言ってる内容は心配してくれているものだ。
このツンデレめ!
「大丈夫大丈夫、今まで通りにやるから」
「それ大丈夫じゃないだろ…。今回はこの国の女神様も見に来るといってただろうが、今まで通りにはいかねぇだろ」
「その時はその時でなんとかするさ」
「はぁ、そうかよ」
とグラウはあきれたように在庫のチェックをしに倉庫に去っていった。
「それはダメなんじゃないかなぁ〜」
そんな会話を見ていたのか横からルナが顔を覗き込んできた。俺はそれにちょっとドキッとする。
そりゃ目の前に急に美少女の顔がドアップで来たら誰だってドキッてくるだろう。
「うぉ、びっくりした」
「グラウ君が心配する気持ちわかる?」
「あぁ、わかるけどいままでのスタンスを変えるつもりはないよ」
「えぇ〜、でもさすがに今回はダメなんじゃない?女神様がくるんだよ?」
「だからどうした!」
「いやいや!結構重要なことだと思うけどな!?」
「俺にとっての女神はリーナだけだ!それ以外はみんな腐女子だ!」
「それはひどくない!?というか腐女子の使い方間違ってるよ!」
「構わん」
「構うよ!?」
「んで、結局なにがいいたいんだ?」
「だから、このままだと全校生徒どころか街の人たちの笑いの種になっちゃうよ!」
「構わん!」
「図太い!?」
「そんなことだとリーナちゃんに嫌われちゃうぞ!いいの?」
「その時はルナの飲み物を全部苦汁に変えておく」
「なんで!?てか地味にひどいよ!?」
「冗談だ、それより実技昇格試験のことについては心配しなくても平気だぞ、それなりに頑張るつもりだ」
俺のその返事にルナは両頬に空気をためてぷくーとしてきたので俺は遠慮なくルナの両頬を両手で叩く。
すると、面白い程にルナの口の中にたまっていた空気が一気に吐き出された。
「ぷはっ!?いたっ!?」
「あはははははははは!」
「ひどいよ!?」
「ごめん、あまりにも叩いてほしそうだったから」
「もぉ~、というより最初にそう言ってほしかったよ」
これは傍からみたらバカップルがいちゃついているようにしか見えないだろう。
そんな二人の間に在庫チェックが終わって一部始終を見ていたグラウがしびれをきらして注意する。
「おいお前ら、乳繰り合ってないで仕事しろ。そろそろ客が来るぞ」
「うぃー」
「はーい」
「なんかうぜーな。お前ら」
その時、チリンとドアにつけてある鈴がなり俺たちは仕事を再開するのであった。
★
「うぅーお兄ちゃん疲れたよー」
すりすり。
俺は今、妹に抱きついてその顔をまだ発展途上な胸に押し付けるのだった。
兄として最低というかシスコンを通り越しているような気がする。
そんな愚兄に対して妹のリーナはくすぐったそうにしてはいたがそれ以上拒みはしなかった。
「ん、おにぃちゃん、くすぐったい、でも、おつかれ、さま」
そういってリーナはライの頭を撫でる。
時刻は夜の十時半。
仕事が終わってグラウとルナも交えて遅い夕食をみんなで食べ、グラウとルナが家に帰ったそのあとである。
そんな兄妹だけであまったるい空気を醸し出している中、不意にライとリーナの部屋のドアが開いた。
「邪魔するぞ」
中に入ってきたのはライガルだ。
こんな夜だというのに外出用の服を着ていて背中にはおっきいバックも背負っている。
「?」
「おうすまないなリーナ。ちょっと用事で出かけることになったんだが…」
そして今更ながらライとリーナがどういう状況なのか気づく。
「リーナ、ライが嫌になったらいつでもいえ。俺がぶっ飛ばしてやる」
「だめ、おにぃちゃんに、ひどいこと、したら、ゆる、さない」
リーナはライをギューッと抱きしめて真剣な顔でライガルに怒る。
そんなリーナの姿にライガルは内心『あいかわらずだな』とぼそっと呟きひとつため息を吐くのだった。
「わりぃ、いまのは冗談だからなかったことにしてくれ」
意外にライガルもリーナに弱かったりする。
まぁ、だってこんな美少女にあーだこーだ言われたら女に弱いライガルなんか一発でノックアウトだ。
しかも、目の前にいる美少女は幼いにも関わらずルナとタメが張れるぐらいに可愛く綺麗だ。
「ん、でも、そんなこと、いったら、だめ」
「今度から気を付けるよ、だからな?」
「うん、許す」
「ありがとよ。それよりライはって、さっきから何も言ってこないと思ったら寝てるのか?」
ライはリーナの胸に顔を突っ込んだまま目を閉じていた。その様子に寝てるのかと思ったがリーナが首を横に振る。
「てことは」
ライガルはそれだけでライが寝てるのではないと気づく。
「そっか、ならしゃーねぇな。リーナ、少し出かけてくるから留守番頼めるか?」
「ん、だい、じょぶ」
「おう、すぐに帰ってくるからな」
ライガルはそういって部屋をあとにした。
「よしよし」
リーナはライの頭をずっと撫でる。
途中、きつくなったのかいまやライはリーナに膝枕されていた。それからゆるやかな時間が過ぎていった。
「ん、おぅ!?」
目が覚めるとそこにはまさしく神の寝顔があった。そりゃ誰でもびっくりするわ。
じゃなくて、そこには神にも負けないというより神に勝る俺の自慢の妹、リーナの寝顔がそこにはあった。
というか、俺はいつの間にかリーナに膝枕されていた。
それをリーナはベッドに腰掛けて座ったまましているので必然的に頭が下に俯く姿勢になる。
そしてなんということでしょう、顔が滅茶苦茶近い。
「すぅすぅ」
と、顔が近いことに内心ドキってしてたライはそのリーナの寝息を聞いて少し冷静になる。
ふぅーと息を整えて俺はまだちょっと名残惜しいリーナの膝枕から頭をどかして立ち上がる。
「ありがとな」
俺はそれだけ言ってリーナの頭を優しく撫でる。
そのままベッドに横になれるよう誘導する。
もちろん、起こさないようにそっと優しく。
無事に起こすことなくベッドに優しく寝かしたあと毛布を掛けて、優しく頭を撫でる。
「俺があいつと話している間、俺を見ててくれてありがとな」
そんなリーナの頭を撫でていると不意に後ろから気配がして振り返る。
「にゃー」
そこには猫がいた。
いつの間にかここで世話をすることになった三毛猫のチロだ。
うちの宿で飼っているというわけではないのだが、なぜかここが気に入ったみたいで俺やリーナ、ルナやグラウにまでもなついてきたのだ。
チロは俺をじっと見つめると勢いよく俺にとびかかった。そんなチロを傷つけないように優しくキャッチする。
「いつも俺がいない間、リーナと遊んでくれてありがとな」
チロを抱っこして撫でてやると気持ちよさそうに「にゃ~」と鳴いてくれる。
しばらく撫でているとチロは俺の腕から飛び降りてリーナの眠るベッドに上がり丸くなって寝始めた。
「さてと、俺も風呂入って寝るか」
俺はさっさと風呂に入ってパパーっと洗って最後に歯を磨いてたらライガルが帰ってきた。
「遅かったのな」
「ちょっといろいろあってな。それより、なにもなかったか?」
「別に、あいつはいつも通りだったよ」
「そうか、あいつも寂しがりやだからちゃんとかまってやれよ?」
「もちろん、あいつも俺の妹だからな」
「お前ほんとシスコンだな」
「それは最高の褒め言葉だ」
「はぁ、そうかい」
俺は話している間も歯を磨いて最後にぐちゅぐちゅぺーと水で口の中を洗い流す。
「それで、実技昇格試験はどうするつもりだ?」
「それは適当にやるさ」
「そうか、けど一応当日は気をつけろよ」
「あぁ、あいつにもそれ言われた。ま、何とかなるだろうよ」
「あいつも感ずいてやがったか、それもそうか。その時はお前の判断に任す」
「はい、任されました」
「おう、明日もあるんだしもうねろよ」
「あいよ、おやすー」
「おう、おやすー」
そうして俺は部屋に戻ってリーナの横の空いてるスペースに入る。
すぐには寝れず俺はいろいろなことを考えるが、途中で眠くなり「ま、いっか」と考えを放置して瞼を閉じるのだった。
毎週水曜日に投稿しようと思います!頑張ります!同じく俺にとっての天国だ!のほうもよろしくお願いします!