混沌の宴
過去最多レベルで長い!
「五分で、いいんだな?」
そうライに聞き、グラウは唾を飲み込む。
(偶然なんかじゃねぇ、やっぱりあの時にアイツが…)
グラウは目の前の龍と対峙する。それは、今やっと必ず守ると誓った大切な存在を傷つけた脅威。グラウはちらりと後ろを見やる。そこには、フィナが眠っていた。無論、ネアはフィナの解呪を行っている。その一帯だけ、見たこともない魔法陣で埋め尽くされていた。更に、障壁がはられていた。その中からライは答える。
「あぁ、そしたら俺もできる限りサポートに入る。アリシアの魔法もそんなに持たないだろうからな」
「助かる」
グラウは確認が取れたことで改めて目の前の龍を睨む。五分、果たしてそれはグラウにとって長いのか短いのか、よくわからなかった。けどやるしかない。心に決めたから。自分が今まで何のために剣を振るってきたのかがようやくわかったから。混沌龍もグラウを睨む。そして、宴の幕は上がった。
「はぁぁぁ!」
「グルァァァア!!」
最初にグラウが踏み込む。それを合図にして混沌龍も雄叫びをあげる。そうして戦闘の火蓋を切って落とされた。グラウは最初の踏み込みを生かしたままデュアリスエンブレーで混沌龍を斬る。しかし、それは黒鱗にあっさりと弾かれる。
「ぐっ!」
あまりの硬さに手が痺れる。なにせ、混沌龍の黒鱗はダイヤモンドの数十倍の硬さだ。その宝剣ですら刃を通させないほどに混沌龍の龍鱗は硬い。つまり、今のグラウの攻撃ではまともにダメージを与えることすらできないのだ。
「グルァァ!」
混沌龍が羽ばたく。たったそれだけで、その場に嵐よりも強い強風が生まれる。グラウは吹き飛ばされないようにエターナルを地面に刺しそのままその場だけ凍らせる。後ろは大丈夫かどうか確認してみるがアリシアの魔法で耐えきっているみたいだ。グラウはプロミネンスに魔力を注ぎ振るう。が、炎は混沌龍に当たることなくその場で消される。
(ちっ、なら!)
グラウはプロミネンスもその場の地面に刺した。それは強風から身を守る為ではなく…。
「グルゥ」
混沌龍がその場から後ろに飛んだ。次の瞬間、さっきまで混沌龍がいた場所に炎の円柱が吹き荒れる。
「くそっ!」
その正体はグラウの魔法だった。地面に刺したプロミネンスから炎を噴出させて地面を掘り、混沌龍の足元まで通したのだ。しかし、それは混沌龍に察知されて躱される。次は混沌龍の番だった。グラウは背筋が凍るほどの感覚が全身に行き渡る。混沌龍を見てみるとその口から灰色の炎が噴き出していた。それには見覚えがあった。混沌龍の死のブレス、そのブレスは当たればすべてを死滅させる死の炎。
「グァァァァ!!」
混沌龍が一気にその口に溜めていた死の炎を吐き出す。それの狙いは…。
(くそ!なんでフィナ達を狙う!?)
そう、そのブレスの玉はアリシア達の方に迷うことなく飛んでいった。グラウは急いで魔法を発動させる。
「アイスウォール!!」
いくつもの氷の壁が何重にもなって出現する。ブレスはそれぞれ氷の壁に当たり消滅していく。しかし、三発だけ受け止めきれず流れ弾がフィナ達の方へ向かう。一発目がアリシアのクラッツセイントに当たる。
「!?」
それは当然のごとく『死んだ』のだ。つまり、さっきまでアリシアの張っていた魔法は混沌龍のブレスによって殺されたのだ。その衝撃によりアリシアが吹き飛ばされる。
「きゃ!?」
「ちっ!」
それをライが速攻でカバーしてアリシアを抱き抱えるも勢いのまま吹き飛ばされる。そして、守りの加護をなくしたネアとフィナの元に二発のブレスが迫る。
「っ!」
ネアがなんとか反応して二発の火球魔法を放つ。しかし、一発は無効化できたもののもう一発の方を外してしまう。このままでは二人とも確実に『死ぬ』。
「フィナぁぁ!」
「ネアぁぁ!」
ここで二人の男が覚醒する。それは、憎いとはいえ妹になったものを守るために。それは、もう失わせないと、必ず守りきってみせると誓ったもののために。
それはまるで時が止まったかのように。
ライは弱い。それ故に妹を失った。大切な、最後である肉親を。だからこそ、もう妹を失わないために決めた。そのために強くなった。しかし、そのこころは弱い。妹にしたのなら必ず守る。それが、肉親であろうとなかろうと。それに見合うほどの力を手に入れようと。しかし、それには限界が近かった。人間には限界がある。底の知れた限界地点というものが。けれど、ライはそれを乗り越えようとしてできなかった。ライには守るべきものがあるから。守るべきものから力を貰っているからなのだ。しかしいま、それはない。力をくれる妹はいない。ティルもリーナもいない。アリシアは多大なダメージを負いネアは死地に立たされている。きっと、ここでネアを失ったらライは立ち直れない。たとえ憎んでいた相手とはいえ。それほどまでに彼にとっての『妹』とは大切な存在なのだ。いま、この状況を打開する方法を彼は持ち合わせていなかった。けれど、諦めるわけにはいかなかった。だからこそ、ライは覚醒した。
グラウは今まで不安だった。それはあの日からずっと。あの日から自分の力がわからなくなってきた。果たして自分にはフィナの傍にいる資格があったのか。フィナと話す資格があったのか。ずっとずっと不安だった。だけど、それをがむしゃらに乗り越えようとひたすらに走った。ただただ荒い茨の道を。そうして進んでいくうちにわからなくなった。なんで自分はこの道を通っているのだろうと。果たしてこの先に答えはあるのだろうかと。答えはわからなかった。何をしようにも見えるのは鋭い刺ばかり生えた茨だけ。その茨は徐々に体に傷をつける。わからない、と何度思案したことか。もう数え切れなかった。あいつの傍にいられないなら俺はこの道を通る必要がないんじゃないのか?もっと、楽な道を歩けるんじゃないのか?ずっとそう考えていた。そうこう考えるうちに時は進んでいた。今が楽しくないわけじゃない、友達と呼べるやつが二人もできた。こんな俺に。それに、この国は暖かい。その暖かさにずっと浸かっていた。だからこそ忘れかけていた。しかし、あともうちょっとで諦めがついたんじゃないかというところでそれは掘り返された。それは唐突に見えたのだ。それは紛れもなく、あの日、自分が必死に探した痕跡のあと。彼女のたどった跡。魔法を使っていないのにそれが自然と見えたのだ。フィナの通り道が。忘れるはずもない。そこで迷った。俺のやるべき事とはなんなのか。フィナを守ることか、あいつの真相を暴き出すことか。しかし、どちらも俺には有り余るものだと勝手に心の中で決めつけて、きっと十二彗のレグナスか誰かがやってくれるんじゃないかとずっと思っていた。けど、今この場に立たされてようやくわかったんだ、決めたんだ。俺が守ると。そのためにきっと俺は、強くなりたいと願ったのだから。そうして、グラウも覚醒した。
二人とも守ると決めた強い意志があるから。
二人とも相当の距離があったのにも関わらず一瞬でその距離を縮めた。つまり、ブレスのスピードを超えたのだ。ライは妹たちの恩恵が無かったのに、グラウでさえもフィナの加護がつけられていなかったのに。二人共がそれぞれライがネアの前に、グラウがフィナの前に立つ。と、同時にブレスが目の前まで来ていた。それを
「「うぉぉ!」」
ライは手に握っていたネアが生成してくれた剣を振るう。グラウもデュアリスエンブレーを振るう。少しの間、三つの力がぶつかり合う。
「「らぁあ!」」
しかし、その拮抗はライとグラウの全力を持って切り裂かれた。二人の剣は重なり、壮絶な力が合わさりブレスを切り裂いたのだ。切り裂かれたブレスはそれぞれ左右に吹き飛び当たった場所を死滅させた。
「おやおやぁ、ドラゴンのブレスを斬るとはぁ。一体何者なんですかねぇあなた達は」
後ろで控えているレベンがそれを見て感嘆する。ドラゴンのブレスとは通常、物理干渉でどうにかなるような代物じゃない。しかし、二人はそれを剣で切り裂いたのだ。しかし
「くぅ」
「くそっ!」
あのブレスは当たったものを死滅させる。それはもちろん、二人の剣も『死ぬ』のだ。ライの握っていた剣は粒子になって消え、グラウのデュアリスエンブレーは刃先からどんどん風化して、最終的にはボロボロに崩れ消えた。これで二人の武器と言える武器はなくなった。覚醒したのもほんの一瞬でそれを持続させることは出来なかった。手持ちがなくなり混沌龍に追い込まれる。フィナの解呪はまだ終わっておらずネアもまともな魔法が撃てない。アリシアもさっきのブレスで魔力の大半を死なされた。さっきのような防御魔法を展開するのも無理だろう。完全に詰んだ。混沌龍は勝ちを誇ったのかゆっくりと近づいてくる。ライはなにかないかと必死に思案する。グラウはというとさっきので魔力を大幅に削れたせいでなかなか集中出来ないが剣を精製しようとしていた。しかし、それが間に合うかはギリギリの線だった。ついに、混沌龍がライたちの目の前まで来る。混沌龍はライ達を見下ろしその瞳をフィナに向ける。殺す気の目だというのは本能的にわかった。 グラウが必死に魔法を編む。しかし、その一瞬の混沌龍の目に恐怖を感じてしまった。そのせいで手元が狂い出来上がりつつあった氷の剣は霧散した。
「ぁ…」
グラウがそう悲鳴とも覚つかない声を漏らした。それは、終わったと思ってしまったがため。それは、この大事な場面で失敗してしまったがために。混沌龍はその大きなかぎ爪を振りかぶる。せめてもと思いグラウがフィナを庇うようにして立つ。あの時のようにはもういかないと知っていても。その時、ライが冷や汗はかいているもののニヤリと笑った。その表情をレベンは逃すことなく見ていた。次の瞬間、ドゴォン!とでかい音がしたと同時に混沌龍が呻く。
「グァァァア!?」
混沌龍の背中の方からなにか黒い煙が出ていた。グラウは何が起きたのかびっくりするが答えはすぐにわかった。
「私を忘れてもらっちゃ困るよ!」
その正体は空からライ達の目の前に舞い降りてきた。
「ナイスだ!ルナ!」
そう、ルナが空から雷とともに降ってきたのだ。その手にはいつものルナの愛剣であるあの雷を帯びた細身の剣、シュレディンガーが握られていた。
「もうびっくりしたよ。なにかすごい大きな声?みたいなものが聞こえたから来てみれば二人ともドラゴンと戦ってるし、ってドラゴン!?」
改めてフィナは何に雷撃を落としたのかを再認識したところだった。
「あわわわ、どうしよどうしよ、ドラゴンに雷撃落としちゃったよぉ」
落とした張本人は無茶苦茶焦っていた。混沌龍の背中あたりから出ている煙はルナが撃った雷撃の跡に出来たものだろう。混沌龍は思った以上にダメージがでかかったのか少し硬直している。その隙だけで充分だった。
「うぉらぁぁぁ!!」
「はぁぁぁ!!」
ルナの次は二人分の雄叫びが聞こえてきた。すると、グラウとライの横を誰かが通り抜けて混沌龍に突進していった。そいつらは
「くたばりやがれぇ!」
「フィナ様に傷をつけた報い!ここでつける!」
アルガとレオだった。二人共、療養中のはずだ。
「なっ!?」
グラウが驚いて二人を見上げる。特にレオはアルガよりも傷が酷かったはずだ。それなのに…
「くっ!」
勝てるはずがない、それは一目瞭然だろう。それでも彼らは諦めずに混沌龍の周りをうまく立ち回り戦っている。しかし、それを混沌龍は気にすることなくフィナ達のほうへ眼を向ける。グラウは再度、造形魔法を編もうとするがどうも上手くできない。それを見たルナがグラウにニコッと微笑む。
「大丈夫!私が時間を稼ぐからグラウは安心してそこにいて」
そうグラウに言ってルナはレオとアルガのサポートに入るため混沌龍の元へ距離を詰めた。ルナ達が上手く連携して混沌龍にダメージを与えていくが、だめだった。ルナの攻撃しか効いた様子がない。アルガとレオは実質、何の加工もされていない、特殊な力のないただただ鋭いだけの刃物でしかない。そんなのは当然、混沌龍の鱗に傷一つすらつけることはできない。しかし、それがダメだった。流石に鬱陶しかったのか混沌龍がまるで邪魔と言わんばかりにその猛威を奮う。その鋭い爪は無造作に振り回される。それをアルガとレオは紙一重で避けていくが。
「あっ!」
「なっ!?」
そこにルナがいればそんなギリギリな動きも出来ないのは時間の問題だった。連携の取れた二人だけなら、傷ついているとはいえ躱すこと容易かったろう。しかし、たったいま合わせたばかりのルナにそれは難しかった。そのせいでルナとアルガがぶつかり体勢崩す。そこに容赦なく混沌龍がブレスを放つ。ルナは体を捻りその威力を生かしたままアルガを蹴り飛ばし自分も蹴った反動でそこから遠のく。ブレスがさっきまでいた場所に着弾しその部分だけ全てが死滅する。
「解除できた」
「いい子だネア」
そんな間一髪の戦いをしてる間にもネアはずっとフィナの解呪に専念していた。おかげで、少し時間はかかったとはいえ解呪に成功した。さっきまでうなり声を上げていたフィナは今では穏やかな寝息を立てている。これでフィナのことに関してはひとまず大丈夫だろう。それよりも今大変なのは
「アリシア、無理言って悪いが防御魔法をもう一度使うことは出来そうか?」
「だい、じょうぶだぞ!」
アリシアはそう言うがその額には汗が伝っていた。アリシアにこれ以上の無理はさせられない。
「ライ」
その時、グラウに初めて名前で呼ばれた。
「なんだ?」
「フィナを任せていいか?」
「死ぬ気じゃないだろうな?」
「死なねぇよ、お前のおかげで守るべきものがようやくわかったからな」
「なら行ってこい、こっちは任せとけ親友!」
「あぁ、任せた。親友」
グラウの中にあった恐れは消えていた。代わりに強い絆が彼の中に芽生えた。グラウは造形魔法で創り出した氷の剣を手に取り地を駆けた。
「アリシア、この子がいる周りだけでいい防御魔法を張れるか?」
「ん、それなら大丈夫だと思うぞ」
そう言ってアリシアはフィナと自分が入れるくらいの防御魔法をかける。しかし、俺はその中には入らずアリシアたちを背にして立っている。
「お兄ちゃん?」
「ま、万が一があったらいけないからな。そのまま張ってていいぞ。ありがとな、アリシア」
「ん!」
アリシアは何故かは知らないが絶対的に俺のことを信頼してくれている。それ故に、今回もアリシアは大人しく俺のいうことを聞いてフィナのそばで防御魔法を張り続けている。しかし、隣にはもう一人の妹がいた。
「ネアもあの中に入ってていいんだぞ?」
いくら妹がいないからっていってもライもそこまでひ弱というわけではない。多少の魔法もネアの烙印のおかげで使えるし、身体能力もアリシアの刻印のおかげでカバーはできる。そんなことはネアも知ってるだろうが一向に俺の横から動こうとしなかった。防御魔法の中ではアリシアがその光景をみてむむむっと表情を曇らせているのは言うまでもないだろう。ネアはネアでずっと魔女ハットで顔を隠したまま俯いている。その時、ボソッとネアが呟いた。
「……れた」
そんなネアの掠れたつぶやきにライは優しく言葉を返す。
「当たり前だろ?お前はもう俺の妹なんだから。」
周りに絶対に聞こえないような声量でネアが呟いたにも関わらずライがそれを聞き逃すことなかった。さすがはシスコンである。ちなみに「守ってくれた」とネアは呟いたのだ。ネアはそれが本当に嬉しかったのだ。なにせ、ネアはライに酷いことをしたのだから。それは決して許させるようなことではない。その罪が一生消えるわけでもない。彼を愛しすぎたゆえの罰。だからこそ、自分の魔法がブレスを外した時にこれで死んだとネアは思ったのだ。けれど違った。大好きな人は、ちゃんと守ってくれた。酷いことをしたのにも関わらず。それを全部、妹になったからという理由だけで。その時、ネアは初めてわかったのだ。ライにとって彼女がどれだけ大切な存在であったか。それを奪った自分がどれだけ許されないことをしたのかを知った。その溢れ出す感情に、自然とネアの瞳から涙が零れていた。ほんの少しでも知ってしまったから、大好きな人の憎しみの感情と愛される感情を。魔女の時のネアにはきっとわからなかった感情だ。しかし、それを知ってしまった今のネアには愛する彼に顔向けできなかった。しかし
「ネア、俺は今のお前ならアリシアと同じくらいには愛せそうだぜ」
ライはそう微笑んで魔女ハットの上からネアを撫でる。ネアは嬉しくて悲しくてずっとどこかに溜め込んでいた涙を全てが流すように、とめどなくその綺麗な雫はネアの瞳から溢れ出していた。
「はぁぁぁ!!」
「らぁぁ!」
「やぁぁ!!」
「うぉらぁぁ!」
四人とも上手く連携して立ち回り混沌龍を翻弄させる。さすがにちょくちょくダメージを受けてるようで混沌龍も抵抗してくる。が、それをアルガとレオのパーティーとグラウとルナのパーティーに分かれることにしてそれぞれを避ける。意外とそれぞれ連携が取れるようになったのだ。しかし、これではただの無駄骨だ。ダメージは愚か、傷さえまともにつけることができていない。かろうじてダメージを与えられてるのはルナの高威力の雷魔法のライトニングブラストぐらいだ。グラウもスフィアブラストなど、高威力の爆裂魔法を使うがなかなかダメージが貫通しない。そんなことをいつまでやっていれば先にどっちが体力が切れるのかなんて目に見えていた。遂に混沌龍が本気で鬱陶しく思いその巨体を回転させる。そんなありえない行動にグラウは翻弄されリズムを崩す。
「くっ!」
その隙を混沌龍は逃すことなくその鋭い爪を突き立てる。グラウは急いで魔法で防御しようとするが、その前にレオがグラウの元まで飛び庇ったのだ。
「なっ!?」
「ぐぅ!」
当然、庇ったレオは背中に混沌龍の鋭爪をもらいそのまま吹き飛ばされる。グラウはなんとかしてレオを受け止める。背中には大きな傷ができそこから血が溢れていた。
「な、なぜだ…」
グラウには今のレオの行動がわからなかった。なにせ、レオはこれまでずっとグラウに対して敵対していたのだから。否、それは違った。それは、グラウを思うレオなりの心配だっということに。
「リフレーション!」
そんなレオを淡い緑色の光が包む。それはアリシアの魔法だった。アリシアの神魔法の最上位の治癒魔法、リセーションとまではいかないがレオの傷口をちょっとずつだが塞いでいく。ちなみにアリシアはこれをクラッツセイントを張りながら行使したのだ。つまり、二重魔法をつかったのだ。二つの魔法を同時に展開する。なかなか出来ることではないのだ。しかしそれをアリシアはやってのける。治癒されたレオにはもう意識がなかった。下手したら殺られていたかもしれないほどの一撃だったのだから無理もない。それに傷だって完全に完治してるわけじゃない。
「きゃぁ!」
「ぐっ!」
そして、出来てしまった隙はドミノ倒しみたいに倒れていく。続けざまにルナとアルガがそれぞれ混沌龍の一撃をもらう。アルガは吹き飛ばされ、そのまま壁に激突して動かなくなった。ルナはブレスを躱すも滞空している間を狙われ掴み、投げ飛ばされる。それはすさまじいほどの威力で普通の人間であればそれだけで死んでいてもおかしくなかった。つかまれた瞬間、ルナはギリギリ雷剣、シュレディンガーを縦にして隙間を作り握りつぶされないようにしたのだ。しかし、そのまま投げ飛ばされアトラクションの残骸にぶつかる。
「グルァァアア!!」
そして不意に混沌龍は雄叫び、その巨体からは考えられない速さで、いや違う。魔法を使ってグラウの目の前に現れたのだ。瞬間移動したみたいに。
「っ!?」
ドラゴンが魔法を使うという情報がなかったため油断した。しかも、その魔法の展開時間はおよそ一秒。人間ができる領域ではない。そして反応できないほどの速さだ。そんなイレギュラーにイレギュラーの状況が重なりグラウは不覚をとった。しかし、その体は何処からか吹いた風により飛ばされる。グラウは何が起こったのかわからなかった。次の瞬間、グラウがいた場所に鉤爪が振るわれ床を抉る。奇跡的にグラウは助かったのだ。風のおかげで。そこからグラウは体勢を立て直すも決定打になる一撃を与えられるような手がなく、正直詰んでいた。するとまた、混沌龍がグラウから視線を外しフィナたちの方を向く。
(くそ!だからなんで!)
それだけは絶対にさせないとグラウは混沌龍に魔法を連発するが、既にブレスの準備に入っていた混沌龍は気にすることなく死の炎を放った。アリシアはそれに気づきより一層クラッツセイントに魔力を注ぐ。ライはネアから剣を生成してもらいそれを構えるもその表情は不安。ネアもネアで先程の失敗がある限り絶対にとはいえない。つまり、このままではみんな『死ぬ』気がしたのだ。それはダメだ。友人を、たったいま親友と呼べた大事なヤツやそいつの妹たちも殺されるなんて耐えられない。それに、そこには俺が一生を持って守ると決めた少女がいるのだから。
(あいつみたいに、何人もの人を守れるわけじゃない。けど、俺をあの時救ってくれた少女だけでも俺は守ると誓ったんだ!)
もう忘れやしない、そうグラウは心の奥底にしまっていた過去を開いた。その時、声が聞こえた。
《大丈夫》
その声が聞こえた時、グラウの中にあった鎖が解けた。
《今の家族ならきっと扱える》
グラウは感覚的に地を駆けていた。それは、レグナスにでさえ追いつけないほどの速さで。まるで時が止まったかのようにブレスがその場で爆散した。ライは一体何が起こったのか把握できず戸惑う。そこには、グラウと思しき人とはいえない何かがたっていた。しかし、それは間違いなくグラウだった。完全覚醒と化したグラウの姿だった。その背には荒れ狂うほどの焔の翼が生えており瞳が蒼と朱に淡くだが輝いている。そして、驚くことにその手にはデュアリスエンブレーが握られていた。否、それはデュアリスエンブレーではなかった。
「まさか、模倣魔法と精霊魔法まで使えるなんてな。驚き通り越して唖然だよ全く」
古来魔法の名前の由来はそのままの意味でよくつけられる。例えば、造形魔法。そのまま魔法で何かを創作する魔法。融合魔法ならばそのまま魔法と何かを混ぜ合わせたものと言ったふうに。簡単で曖昧なのが古来魔法なのだ。そして今回のグラウが手に持っている破壊されたはずのデュアリスエンブレー。それはグラウが模倣魔法で復元したものだ。魔法の中に修復魔法というものがあるがそれは模倣魔法とはわけがちがうのだ。修復魔法はその名の通り壊れた物を修復する魔法だ。つまり、物質しか修復できない。けれど、グラウの模倣魔法は全てを復元するのだ。それも一から。材質、性質、色、形において全ての物を完璧にコピーするのだ。しかし、グラウの模倣したデュアリスエンブレーはオリジナルをゆうに超えていた。パッと見、変わりはないように見えるが違うのだ。色や形は確かに変わりはないかもしれない。しかし、材質と性質は完全に違っていた。それを辿る魔術回路さえも。全てがオリジナルを超えたデュアリスエンブレーなのだ。それはもはや模倣魔法などではないだろう、なにせ聖剣や魔剣と同等に戦えるほどの物になったのだから。それはつまり、模倣魔法を超える古来魔法をグラウ創ったのだ。それに敢えて、名前をつけるとするのなら、改善魔法。そして、もっとも目を惹くものがあった。それはグラウの周りをふわふわと飛んでいる。淡く光り輝く丸い球体達だ。それぞれ、白、青、赤の色をした物体が飛んでいるのだ。それの正体は精霊だった。
「グルゥゥ…」
そんなグラウの変わり果てた姿を見て混沌龍がたじろぐ。つまり、あの混沌龍にでさえもグラウの周りを飛んでいる精霊がくっきりと見えるのだろう。その精霊たちはグラウの周りで静かに佇む。
精霊とは古来魔法の中でも希少とされている魔法だ。なぜなのか、それは人が精霊に好かれることがまず無いからだ。そして、精霊は人の目に見えない。故に、古来魔法の中でも精霊魔法というのは実際にあったかどうかさえ疑われていた魔法なのだ。なにせ、自分たちの目に見えないのだから。しかし、過去に精霊と話したことがあるという男の話を俺は聞いたことがある。まぁ、それもぶっちゃけ童話として語り継がれていたものなのだが。そして、その記述にはこうも書いてあった。精霊魔法が使えたのはその男が最初で最後だろうと。けど、今目の前でグラウの周りを飛んでいるのは間違いなく精霊だ。それも、ライ達が見えるほどの力のある精霊だ。精霊、いままで空想の存在とされていた存在。果たしてその小さな球体達にはどれほどの力があるのかなんて未知数だった。当のグラウ本人自体も驚きながらも現実を受け入れていた。白い球体がグラウの前でふわふわと浮いている。
「お前はあの時の…」
《グラウ、家族、友達、守る、力貸す。それがファミリー》
そう、グラウの頭に直接語りかけてくる。グラウはその白い球体にそっと手を伸ばす。白精霊は拒むことなくその手に収まる。手の上に白精霊が留まる。それを傍から見ているライ達には神秘的な光景にしか見えなかった。
「力を貸してくれるのか?」
そう言うと青と赤色の精霊もグラウの目の前に来る。ちょっとびっくりするもののグラウは三匹の精霊を見やる。返事は帰ってこなかったが応えは返ってきた。精霊たちの輝きが急に強くなる。それと同時にグラウの瞳の輝きも増す。そして、体の奥底から力が沸き上がる。魔力が溢れ出す程に。現にそれは溢れ出していた。グラウの周りだけ魔力の渦ができていたのだ。
《それがグラウのホントの力》
赤精霊がそうグラウに語りかける。
「これが俺の…」
グラウは改めて自分のしでかしたことを再認識する。そして改めて思う。ありえない、と。今、精霊と話していることさえ実感がないのだ。そもそも、これが現実なのかどうかすら怪しい。しかし、わかってしまうのだ。本物だと。それに今この精霊は俺のことをあの時と同じ『家族』と言ったのだ。それがどういう意味なのか。俺はそれを知りたい。物心つく前にはもう一人だったこの俺に、家族だというこの精霊たちは。しかし、今はそれどころじゃないのは百も承知。そして、俺に力を貸してくれているこの精霊たちには感謝している。
《グラウ、強い》
《大丈夫!》
《私達が、ついてる》
「ありがとな」
グラウそう言って三匹ともの頭をなでる。それが嬉しかったのか精霊達は元気よく飛び跳ねる。
「グルァァァアア!!!」
まるで私の存在を忘れるなと言わんばかりの咆哮を混沌龍は放つ。その怒り故に今度はグラウにその死のブレスは大量に放つ。まるで雨のように。確実にさっきとは量が違う死の雨をグラウはデュアリスエンブレー改め魔王の朱蒼劍で迎え撃つ。しかし、一発のブレスを切り裂いたと同時に風化してボロボロに…はならなかった。そのまま次へ次へとブレスをその場で爆散させるように切り裂いていく。
「ほほぅ、まさかまさかぁ、これはちょっとイレギュラーすぎやしませんかぁねぇ…」
レベンはグラウの急激な進化に冷や汗を流す。しかし、表情はニヤケ顔を保ったまま。混沌龍もまさか自分のブレスで死なないものがあるとは思えず驚く。
「うぉぉ!」
タンとグラウが踏み込む、それだけでその場が爆ぜる。そして、爆発的にグラウは加速する。そのまま混沌龍に斬撃の嵐を撃ち込む。ダイヤモンドよりも何十倍と硬かった混沌龍の龍鱗にはかつてないほどに深い傷がついていた。
「グルァァ!?」
受けたことのない痛みとダメージで混沌龍がよろめく。グラウそこをすかさず斬り込む。が、
「ちっ!」
ガキン!と音を立ててグラウの魔王の朱蒼劍は真っ二つに両方とも折れてしまった。そう、ブレスを斬った時に既にそれは始まっていたのだ。グラウの剣は『死ぬ』効果を無効化したのではなく延長化させたのだ。つまり、遅らせたのだ。しかも、その剣で龍鱗を切り裂いたのだ。それはさすがに剣にもガタがくるだろう。しかし、グラウは慌てることなく両手を剣を持った状態で構える。そこには剣も何もないのに。
「リテイク」
グラウがそう唱える。すると、虚空からグラウの握り手に合うように魔王の朱蒼劍が現れたのだ。しかも、より一層その刀身を黒く朱く、黒く蒼く染めて。
「ふん!」
その場で剣を振るう。すると、カマイタチよりも強力な斬撃波が混沌龍に襲いかかる。混沌龍は見えない攻撃に何も出来ずその体に傷を刻まれる。混沌龍の硬い龍鱗は裂け龍血が飛び散る。それぐらい深く混沌龍にダメージを与えたのだ。
「グォォォン!」
混沌龍も本気になったのか先程とは違う雄叫びをあげる。と、同時にその場から姿を消した、その瞬間だった。グラウは振り向きざまに下段から斬り上げるように思い切りデモンズエターナルを振り上げる。ガン!と音が鳴りデモンズエターナルの先にはそこには混沌龍の鉤爪があった。瞬間移動。先程、混沌龍が見せた未知の力の一つ。しかし、それだけでは終わらなかった。混沌龍の眼光が一瞬だけ光る。次の瞬間、グラウのいた場所が盛大に爆ぜたのだ。混沌龍はその爆風を利用して後ろに下がる。そのまま、爆煙で見えなくなった場所をじっと睨む。そして驚く。
《守る!》
そこには全身氷漬けになっていたグラウがいたからだ。その周りを青色の精霊が飛び回っている。混沌龍は完全に不意を狙った確殺の一撃を防がれまたもやたじろぐ。クレータのど真ん中にはグラウが生きているのだから。
《力!》
そして次に氷が溶けて赤色の精霊が姿を現す。氷から開放されたグラウは右手のデモンズプロミネンスを混沌龍に突きつける。そして…。
「《スフィアブラスト!》」
それは、覚醒前にもグラウが放っていた爆裂魔法。しかしそれは、今のグラウでは桁違いの威力だった。いくつもの爆発に龍鱗が弾け飛ぶ。
「グル、ゥゥッ」
もはや、混沌龍はこれまでにないほどボロボロだった。龍鱗は剥がれ傷がつき、龍血が流れる。かつて、ここまでドラゴンを追い詰めたのはグラウがこの世界で初めてではないだろうか。混沌龍の息は切れ腕を地面についていた。それでも混沌龍は立ち上がり最後の力を振り絞る。
《最後!》
「うぉぉおぉお!!」
白精霊の声と共にグラウはボロボロの混沌龍に突っ込む。
「グルゥァァア!!!」
混沌龍は最後の力を込めた渾身のブレスをグラウに向けて放つ。それはさっきのような玉のブレスなんかじゃなかった。まるで、レーザービームのように一直線でグラウに放つ。
《守る!》
《力!》
突撃するグラウ目の前に赤精霊と青精霊が現れそれぞれの力を発言する。そんなグラウ達の前には青色と赤色の障壁が張られる。そして、グラウに直撃するはずだったレーザーブレスはその障壁によって阻まれる。グラウは勢いを落とすことなく混沌龍に突っ込む。そして。
「グルァ!」
先に力尽きたのは混沌龍の方だった。ブレスが切れてグラウの視界がクリアになる。そしてそのまま魔王の朱蒼劍を振り上げる。
《決着!》
「はぁぁぁ!!」
白精霊の言葉と共に剣を振り下ろす。
「グァァァ!」
混沌龍のお腹にはバツ印の傷が刻まれていた。それで力尽きたのか混沌龍はその巨体を横に揺らし倒れる。そのまま混沌龍はピクリとも動かなくなった。
「はぁ、はぁ…」
グラウの体から淡い光が消える。グラウは息を切らしながらも動かない混沌龍を見やる。動かなくなった混沌龍を確認してグラウはライ達のもとへいく。そして、いつの間にか周りを漂っていた精霊達は姿を消していた。
「お疲れ、グラウ」
「あぁ」
グラウはライに肩を叩かれようやく一息つく。そして、フィナをみる。その様子を見てライはその場を静かに離れるのだった。アリシアとネアもそれについていく。
「フィナ…」
そう、グラウはフィナの頬にそっと手をあてる。その手から感じられる暖かい体温にほっとする。すると、フィナの瞼がゆっくりと開く。そこには光を取り戻した、綺麗な翡翠色の瞳があった。しかし…。
「くっ!」
グラウはフィナの不意打ちの風弾に吹き飛ばされる。そして、離された位置を見てフィナを見る。操られてるのかとも思ったがそうではなかった。
「こっちに来ないで」
フィナはグラウを見てそう淡々と応える。グラウはその言葉を無視してフィナに近づく。
「来ないで!」
「うぐっ!」
フィナが風化してを放ちグラウにそれがもろに当たる。しかし、吹き飛ばされる事はなくその場で受け切る。躱すことも避けることもできたはずの一撃なのに。そして、また一歩とフィナに向けて歩き出す。
「来ないでって言ってるじゃない!」
フィナの神風魔法が荒れ狂う。まるでそれは、フィナが本気でグラウを拒んでるように。それでもグラウはフィナに近づくためにその歩みを止めない。ボロボロだった体にまたいくつもの傷跡がつく。頬にフィナの放ったカマイタチで傷がいくつもつき血が飛び散る。体には風弾を何発も受けて悲鳴を上げていた。それでもグラウは歩を進めてフィナに近づく。さっきフィナに吹き飛ばされてその距離を見た。きっとその距離はフィナを遠ざけてしまった距離だとグラウは思ったから。だから、その距離は自分で埋めると。埋めてもう一度、フィナの傍にいるために。
「くるなくるなくるなくるなぁぁ!!」
あと五歩というところでフィナがより一層荒れ狂う。先ほどとは比較にならないほどのカマイタチがグラウを襲う。腕にも脚にも浅くとも深くとも言えない傷がつく。流石にこれは応えたのかグラウが怯む。それでもフィナはやめない。そしてグラウも歩みを止めない。
一歩
風弾が連続して体に当たる。不可視の風弾に体を滅多うちにされる。
二歩
フィナをまっすぐに見据える。フィナは、泣いていた。
三歩
肩にカマイタチが当たり大きく傷をえぐる。血が溢れ出す。
四歩
風が止む
五歩
「フィナ」
「ぁ、ぁ…」
俺はフィナの頭に手を伸ばす。触れられるこの距離で。グラウは躊躇うことなくフィナの頭に手を置き撫でる。フィナは、フィナは泣いていた。正直、魔法を当てるつもりなんてなかった。けど、当たってしまうのだ。あれだけの数を乱発すれば。グラウには躱すことなんて容易かったはずなのに。彼は避けなかった。避けて欲しかった。なのに…。すべてを受け止めてグラウは来たのだ。混沌龍と戦って相当な疲労があったはずなのに。それなのに、躱すことも避けることもせず、その身に一身にフィナの攻撃を浴びて。
辛いはずなのに
痛いはずなのに
苦しいはずなのに
それでも彼はきた。
けれど、私は彼を拒んだ。あの時、最後の願いが拒まれたから。だから、吹き飛ばした。来て欲しくなかった。諦めれたはずなのに。彼から近寄ってくるから。より一層拒んでしまう。来て欲しいのに。けど、グラウはわかっていた。それは、子供の頃から変わらなかったフィナの悪いくせだから。フィナは拒絶するほどその逆をして欲しいのだ。それが強ければ強いほどなおさら。本音と違う行動をとってしまうのだ。いわゆるツンデレというやつだ。だから、グラウはどんなにきつくてもフィナに近づいた。空いた距離を埋めるため、開いてしまったフィナへの思いを伝えるために。たとえどんなに体が傷ついていたとしても。そして、届いた。距離は埋まった。フィナとグラウとの距離が。
「も、もぅ、ひぐっ。わ!私の専属執事にはならないグラウなんて知らない!」
「悪かったよ」
フィナは拳を強く握ってグラウをぽかぽかと叩く。それは、今までどんな攻撃よりも軽く、重かった。グラウはそんなフィナをギュッと抱きしめる。
「もうあんな事言わねーよ」
「し、知らない知らない知らない!」
「俺はずっと、お前のそばにいる。お前を守り続ける。執事としてじゃなく。一人の男として」
「っ!」
フィナの叩く手がとまる。不意に、感情のタガがはずれた。
「バカ!ずっとずっと寂しかったんだから!グラウがいなくて、あれから無事だって聞いても会わせてくれなくて。城を出てもグラウはどこにもいなし、必死に探したのに!それなのに、国を出たって聞いて…。探すことも出来なくて、会えなくて、悲しくて…」
「あぁ」
「グラウと連絡取れないし、私の刻んだ刻印は消えてるし、私のこと、きら…い、になったのかなって、ひくっ、愛想つかされたのかなって、う、うぅ…」
そうフィナは泣きながらも、ずっと胸のうちに秘めていた思いをグラウに打ち明ける。そんなフィナにグラウただ優しく頭を撫でてやるのだった。そして、自分の気持ちをフィナに伝える。
「俺はフィナのことを嫌いになったりなんかしない。俺は、フィナのために強くなりたいと願ったから。またお前のそばにいたいと思っていたから。けど、すまない。一度はそれを諦めようとしてた。けどな、やっぱ俺は」
その言葉をグラウが最後まで紡ぐことは無かった。そのまえに、充分にそれはフィナに伝わっていたから。だから、フィナはグラウの唇に自分の唇を重ねた。
「!?」
「んっ」
唐突な出来事にグラウは驚くもそれを受入れる。今まで溜め込んだいろいろなものを受け取るようにして。フィナを優しく抱きしめる。
「ぷはっ!」
「ぷはぁ!」
長いキスは終わり二人共息をする。ちなみにこれが二人にとっての初キスだったりする。フィナはグラウを見る。そんなフィナをグラウもみる。
「ずっと、これからずっと私の傍にいなさいよ」
「あぁ」
「もう、私の目の前から消えたりなんかしないでよ?」
「あぁ」
「…すき」
「あぁ、あ?」
グラウは一瞬何言われたのか理解出来ずフリーズする。そんなグラウにフィナは抱きつく。慌ててグラウはそれを受け止める。そんなグラウにフィナはボソッと呟くのだった。それは昔のような呼び方で。
「…ぐらうのばか」
こうして、混沌の宴は幕を閉じた。
むっちゃお久しぶりだな人間共!ということで、読んでくださってる皆様方ありがとうございます!
いやぁ、なんかぶっ飛んだね。2章で主人公のライ君の出番ほぼほぼなしだよ!主人公なのに!2章なのに!まだ2章なのに!滅茶苦茶だね全く。プロットないとこうもなるのか…
( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
とりあえず笑っとけばなんとかなるであろう!それが魔王精神だぞ!ということで、また来週の水曜にな!サラダバー!人間共!
ルナ「いやぁ、私の出番ぎりぎりあってよかったよぉ」
ライ「そういえばそうだな、よかったな」
ネア「次は私たちの番」
アリシア「なんだと!?」
ティル「どういうことよ」
リーナ「?」
シェル「あらあら〜」
ラン「私たちの出番ってほんとにあるのかちょっと不安になってくるわよね」
レベン「そぅしたぁら、ここのメインパーソナリティになってみーてぇはいかがでしょうかなぁ?」
ライ「なんでいんの?」
レベン「いいじゃなぁいですかぁ、敵役だって混じりたいもんなんですよぉ?」
ザルバ「あらぁ、いい男発見」
レベン「それでぇは、わたくしはこれで…」
ザルバ「まちなさぁぁぁい!!」
〜レベンはザルバさんに追いかけられどこかへいきました〜
ルナ「よかったね、ザルバさん出番ができて」
ライ「そうだな。グラウとフィナもハッピーエンドだったし」
混沌龍「グァァ」
ライ「お前もか!」
リーナ「よし、よし」
混沌龍「グルル」
〜混沌龍はリーナに手懐けられました〜
ティル「ま、これで一件落着ね。私たちがいないあいだに」
アリシア「ティルはいいじゃないか、1章で活躍したじゃないか」
ティル「あなたもじゃない」
ネア「だから次は私の番、ね」
アリシア「どいうこうとだ!?」
ティル「どういうことよ?」
ネア「それは次の話」
レオ・アルガ「次回」
フィナ「狂気の宴」
ライ「次は俺達の番だから!」
ネア「絶対にみること、ね」




