滅茶苦茶なクラス
「まーけーたー」
俺が棒読みで負け宣言をするとルナは怒ったようなあきれたような声で地面に倒れこんでいるいる俺を上から見下ろしていた。
「もぅ~、ライよわすぎだよぉ~。もうちょっと粘ってほしかったなぁ~」
「まじむりっす」
「もぅ~」
ほっぺを可愛らしく膨らませるルナは傷どころか汚れ一つなかった。
対する俺の体はあちこちボロボロだった。
「今回もライのぼろ負けだねぇ?最初だけだったよね、威勢がよかったの」
「わるかったな」
俺のおでこをつんつんとルナがつついていると横からグラウがなにかを手に持って近づいてきた。
「女に負けるとか情けねー奴だな」
と言う捨て台詞を吐き、俺にポーションの入った小瓶を投げつけるとそのままどこかに立ち去っていった。
俺は投げ渡されたポーションを上手く手に取り一気にその勢いのまま飲み干す。
「ぷはー!うまいな!」
たちまち俺につけられていた傷はなかったかのように治っていく。
「ふふ、相変わらずグラウ君はツンデレだね」
「そうだな、あいつがこんなに優しいってわかってるのはおれたちぐらいだろうな」
「かもね」
最初にグラウと会った時は、まぁ、ね?
ああいう態度ばっかとっていたからみんなが言う悪い噂が本当なんじゃないかって一年のころは疑っていたけど。
あの時のあいつを見たいまでは悪いやつだなんて到底思えないし、今の一連の通り根はとても良い奴なんだよな。
まぁなにがあったかっていう話はまた別の機会にでも話そう。
そんなこんなで時間は過ぎてポル先が集合をかける。
「よーし集まれ、お前ら今から一対一するぞ」
「「「「え~」」」」
ポル先の練習メニューが気に入らずみんな否定の声をあげた。
「おまえらぁ!!」
「「「「ポル先が怒った!逃げろー!」」」」
「ゴルァ!まちやがれ!」
一人の生徒が逃げ出したのを合図に他の生徒も走り出した。
クール系やおしとやかな女子や男子を除いて。
そんなそれぞれノリのいい生徒は真っ先にこの実技場を走りだしていた。
これがこのクラスのテンションでありいつもの光景なのだ。
「ぜぇぜぇ、全くこの馬鹿どもは」
あれから、ものの三分でポル先は逃げ出した生徒を全員捕まえた。
ちなみに捕まえられた女子はデコピン、男子はげんこつという罰がまっていた。
そのため男子はみんな頭にタンコブをつけていた。
ちょっと疲れ気味のポル先がみんながいることを確認するようにを見回す。
そういえばポル先が昔はあの女神近衛兵の一人だったって噂があったな。
女神近衛兵とは極僅かに限られたほんの一部の精鋭騎士だけがなれる称号と名誉だ。
このアレーザ学院の生徒の殆どが目指す目標であり憧れでもある。
まぁ仮にポル先が女神近衛兵だったと言われても驚かない。
なにせ、たった三分で半数以上の生徒を捕まえたのだから。
「いいからとっとと練習しろ!」
「「「うぃ」」」
「「「はーい」」」
と、俺たちはそれぞれ一対一の練習にはいるのだった。
みんながそれぞれの配置についたのを確認してからポル先は爆弾発言をこぼした。
「あぁ、それと伝え忘れていたが今度の昇格試験には女神様がおいでになる。それぞれ気合を入れて練習に励むように」
「「「ふぁ!?」」」
「「「え!?」」」
なんかこうもみんな息があっているこのクラスはある意味すごいと思う。
「ちょ!ポル先!それってどういうことですか!?」
一人の眼鏡をかけたおカッパな男子生徒、ラックがポル先にそう聞きに行くと周りの男子生徒は手を額にやってあちゃーとポーズをしている。
「誰がポル先と呼べといった?」
ラックに振り向くポル先の姿はさながら鬼のようだった。
ラックはポル先から頭を両拳でぐりぐりされていた。
めっちゃ痛いやつや…。
そのグリグリ攻撃をポル先がやめるとラックはそのまま地面にどさっと倒れて動かなくなった。いや、まだかろうじてピクピクしてる。なにこれクッソおもろいやん。
「まぁ、お前たちの言いたいことはわかるがこれは女神近衛兵目指す者にとっての大きなチャンスでもある。それを肝に銘じそれぞれ練習に励め」
その言葉でみんな理解したのだろう、それぞれ真面目に練習にとりかかる。
「まったく、こういう時はクソ真面目にやりやがるのな。まぁ、当然といえば当然なんだが」
「そりゃあまぁ、女神さまが来るとなればねぇ。みんな頑張るにきまってるじゃないですか」
「お前はもう少し努力をしろ!」
「ぐぺっ!?」
俺が隣でポル先と一緒になって生徒を見回していると不意に腹に鈍い痛みが走った。
「安心しろ峰打ちだ」
「い、いや、そういう問題じゃ、ない…」
バタッ。俺はポル先の見事な峰打ちを受けてその場にたおれるのだった。
「まぁ、お前もみんなの前で恥をかかない程度にはなっとけよ」
「昇格なんてしなくていいから休ませて」
「馬鹿か、ちゃんと出席しないと退学させるぞ」
「うへぇ~」
こうして俺も渋々一対一の練習に取り組むのだった。
★
時が過ぎて放課後。
俺は学校にコレといった用事はなかったのでクラスのみんなに別れの挨拶を交わして一人帰路につくのだった。
「はぁ、今日も疲れたなぁ。帰ってリーナに抱きつくか」
この兄、シスコンにもほどがある。
「そのあと、hshsでもしとくか」
訂正、ただの犯罪者である。
それぐらいシスコンなライは自分の家でもあるラッフ亭の扉を開ける。
「ただいま~」
「おう、お帰り」
返事を返してくれたのは優雅にオーナテーブルでマグカップをどこぞのバーのマスターのように拭きあげているこの宿の主人、ライガル・サマソである。
体つきは筋骨隆々という言葉が相応しいくらいに漢らしくがっちりしていてその鋭く狼のような眼光は相手を一瞬で恐怖に陥れるほどの怖さだ。
髪はマスター風におろしているが昔はオールバックという結構荒れた感じの人だった。
まぁ、そんな宿主が怖いせいかチンピラみたいな客はここには来ない。
そのためここラッフ亭にくるお客さんは九割が女性だ。
意見はまぁだいたい二つに分かれていた。
一つは普通にここが安心してゆっくりできるそうだからだ。
もう一つはここの宿主であるサマソのじっちゃんが好きだという変なお客。
ガサツで横暴なジジィのどこがいいのやら。
まぁ、そんなサマソのじっちゃんだがこれでも俺たちの命の恩人だ。
「どうだった?学校は」
「いつも通りだよ、ポル先に教科書で頭を五回叩かれて峰打ち喰らったこと以外は」
「ふっ、ちっとは剣の修練はつめたか?」
「ちょっびっとね」
「まぁ、お前ほどになるとそうだろうな」
そんな会話をしながら俺は周りをキョロキョロと見まわす。
「リーナなら庭の花に水やりしに行ってたが…、今頃は寝てるんじゃないのか?」
「んー」
俺はそんな生返事をしてポイッと鞄をそこら辺に放るとさっそく庭に足を向ける。
そこであきれたようにライガルが注意をしてくる。
「リーナといちゃつくのは構わんがちゃんと仕事手伝えよ」
「そんなのわかってるって」
「わかっているならいいが、寝てたらそっとしておいてやれよ?」
「もちろんだとも。俺がそんなひどいことするように見えるか?」
「まぁ、リーナに限ってはせんだろうな」
「当たり前だ、ということでいてきまー」
「あぁ、あとすこしで店を開けるからそれまでには戻って来いよ」
「もちろん、それまで女神さまの顔でも拝んでくるさ」
「ばか、ここでの女神さまはアリシア様だ」
「俺にとっての女神さまはリーナだけだ」
「はぁ〜、引き留めてわるかったからとっとといってこい」
俺の意固地にライガルは深くため息をつくのだった。
「うぃ!」
俺はそんなライガルにビシッと敬礼して庭に向かうのだった。
ラッフ亭をざっくりと説明するなら簡単にいって真上からみてほぼ正四角形、でその真ん中がくりぬかれているような感じだ。
そのくりぬかれた真ん中が庭なのである。
そしてこの庭、ちょっと広かったりする。
「リーナ?」
俺は真ん中にある大樹に目をやる。
この庭、ちょうど真ん中にでかい神木がありその向こう側にリーナとおぼしき人影が見えたのだ。
近づいてみると予想通り、俺の女神こと妹であるリーナは神木を背にして寝ていた。
神木の周りにはリーナが毎日お世話をしている色とりどりの花が咲いていた。
そこに神木から差し込む光がなかなかに幻想的な光景を創りだしていた。
リーナの綺麗な銀髪がその光に当たってキラキラと虹色に輝いている。
女神としか思えないぐらい超絶にかわいいし。性格だって最高。もうすべてが、なにもかもが完璧で自慢の妹なのである。
「こんなところで寝てると風邪ひいちゃうぞ?」
俺はそんな超絶可愛いリーナのほっぺをぷにるのだった。
「全く、いつ見てもかわいいな」
頭を撫でてやるとリーナは気持ちよさそうにしていた。
「んっ…」
「あぁ、もうちょっとこうしていたいな」
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで。
撫ですぎてしまったのかリーナのつぶらな瞳がゆっくりと開く。
そこから覗く透き通った碧眼は見るものを吸い込むような力がある。
「ん、にぃ…?」
「おっ、起こしちゃったか」
実はわざとだったりする。というか十中八九わざとだ。
「うん、お仕事、いいの?」
そんなたどたどしく言葉を紡ぐリーナもまた可愛い。
「そうなんだよ!仕事したくない!ずっとリーナとこうしていたいよぉ!」
と、俺はおもむろにリーナに抱き着く。
「んぅ、けど、仕事、しないと」
「リーナがそういうならしよう!」
さすがはシスコン、妹とのいうことなら何でも聞いてしまう。
「さて、お兄ちゃんはこれから仕事するから、リーナはこんなところで寝てないでちゃんとベッドで寝るんだぞ?」
「おにい、ちゃん、とじゃなきゃ、ねれ、ない」
「うぉぉぉぉ!」
と、おもむろにまたリーナに抱き着こうとしたらどこからかマグカップが飛んできた。
俺はそれを何事もなかったようノールックでにキャッチする。
「あぶなっ!」
俺はキャッチしたマグカップを投げた張本人に投げ返す。みんなはカップとかでキャッチボールとかしたらだめだからね?まじ危ないから。
「ったく、さっさと準備しろ」
そこにはウェイトレス姿のグラウが立っていた。
「はやいな、グラウ」
「けっ」
「ま、そうかっかするなって。今着替えるから」
「さっさとしろ、ルナも待ってるぞ」
そういってグラウは店の奥へと引っ込んでいった。
「うぃうぃ、ということでリーナ。ちょっと行ってくるな」
「うん、いってらっしゃい」
「おう」
俺は最後にもう一回リーナの頭を撫でて店の中に入っていくのだった。
読んでくださってありがとうございます