滅茶苦茶な後悔とともに
あれからフィナが目を覚ましたのは三日後だった。その間、グラウはフィナに付きっきりだった。たまに、俺とルナもお見舞いに行った。というか、これだけ寝込むって相当ショックだったんだなって思う。なにかいろいろと理由はありそうだが…。それはグラウが教えてくれるまでのお楽しみにしておこう。そして、その三日間。俺はというと…。
「なんでまた、俺はこいつらの相手してるの?」
レグナスが指定した木刀を構えているアルガとレオの十二彗と試合していた。ライも同じく木刀だ。打ち合う度にカコンと軽快な音を弾ませる。なぜ、こんなことになってしまったのか、ことの成り行きは十二彗のガチ試合が終わった翌日のこと。
リーナ達とお城のお庭でゆっくりしていると、唐突にレグナスが俺の元までやってきたのだ。しかも、急にその翡翠色の兜を外して頭を下げだした。
「すまないがライ・シュバルツ。お前に折り入って頼みたいことがある」
突然の来訪者にアリシアは驚き大人モードでなにか言おうとするが俺はそれを手で制す。同じくそれに気づいたリーナとネアが俺の元に戻ってくる。
「聞くだけ聞こう」
「ありがとう」
そう、礼を述べて頭を上げる。グレイのおっさんよりはやや体格がちっちゃいがそれでも鎧の中はゴツゴツとした筋肉で覆われてるのがわかるほどの覇気。そして、その兜を外したレグナスは、なんだろう、グレイのおっさんのダンディーさとライガルの荒くれ感を足して二で割ったような感じだ。それに、その頬には有名な侍漫画、実写化もされた某流浪のなんちゃらの主人公みたいな傷跡がついてる。まぁ、その人とは逆の頬についてるのだが。頭はツンツンしていた。兜を被ってたのに。なにそれ、どうやって被ってるのってレベルで。ドラゴンのボールを集める有名漫画のスーパー〇〇〇人になった時のあれに似てる。なんだこいつ、有名漫画の詰め合わせ?って思うレベル。眼光は鋭くキリッとしている。そんなレグナスは改めて頼み事をする。
「ライ・シュバルツ、お前に俺の部下であるレオとアルガを鍛えてやって欲しい」
「あぁ、最初に突っ込んできた二人?」
「そうだ、よく覚えていたな」
「なんとなく、すぐに忘れるんだけどな。それで、なんでって聞いても?」
「あぁ、あいつらを俺の次の十二彗の一彗にしたいんだ」
「それなら、現一彗のレグナスが鍛えたらいいんじゃないのか?」
「すまないがそれはできない」
「なんでだ?」
「俺ではあいつらに手加減できない」
「いやいや!あんなに強かったじゃない!」
そう、それこそレグナスはグレイツバルが受けきれなかった<幻滅>を一撃耐えたのだから。それなら、あの二人には余裕で相手できるだろう。しかし、レグナスは苦い顔でこういった。
「あれは、ほとんどこいつのおかげでな…」
そう言って腰にかけてある一際、青白く輝く鞘に収まった剣の柄を叩く。ライはそれを察するも肯定はしなかった。
「それでもだ、俺じゃなくても他にいたんじゃないのか?もっと力の度合いが丁度いいヤツとか」
「俺の知ってる限りではそんな奴はいない。それに、十二彗の中でもあいつらはずば抜けて強い」
うーむ、そうは見えなかったんだが。そう、なにせあっさりと倒しちゃったライにはレグナス以外、全然相手にならなかったのだから。
(それとも、本気を出す前に倒しちゃった系か?)
しかし、戦闘において本気を出さない。つまり、油断とは命取りの行為だ。ライはそれをよく知っていた。だからこそ、おちょくりもするし余裕顔でいつも戦闘しているがいつだって本気の戦闘をしている。それは、本当の意味で最弱と呼ばれた由縁であるから。だからこそ、最弱の皮をかぶって最強であることを隠した理由でもある。
「頼まれてはくれないだろうか」
そしてまた、レグナスは頭を下げる。俺はリーナ達に目を向ける。それを感じ取ったリーナ達は迷わずニコッと微笑むだけだった。リーナもアリシアもネアもどうやら異論はないようだ。俺は再度頭を下げて頼み続けているレグナスに答えを出す。
「わかったから頭を上げてくれ。リーナたちがオーケー出してくれたからそれぐらいだったらやってやる」
「ほんとか!すまない、恩に着る」
レグナスはその厳つい顔を満面の笑みにして礼を言う。こうして、現在に至る。
「はぁぁぁ!」
「たぁぁ!」
同時にアルガとレオが動き出し俺にその木刀叩き込んでくる。が、俺はそれを悠々と躱す。アルガとレオの攻撃はライに当たることはなく、されど、何度何度も打ち込みを続ける。そんなことをずっと続けていた。しかし、それを飽きずにずっと見続ける者がいた。わかっているだろうがリーナ達である。観客席でアリシア、リーナ、ネア、ティルの順で並んでずっとこの光景を見続けているのだ。
「お兄ちゃんにはそんな攻撃効かないのだ!」
「おに、ちゃんは、つよ、い」
「ふふ、あの程度なら私の騎士を召喚するまでもない」
「全く、あの頃と比べてホント強くなったわ…」
そして、それぞれが言いたい放題言っていたのだ。
アルガが上段切り、レオが下段切りと合わせてはいるが一向にライに当たらない。ちなみにだが、レオとアルガはレグナスの言ったとおりずば抜けて強いのだ。もう一度いう、無茶苦茶強いのだ。大事なことだから二度言った。それこそ、聖剣を使ってないレグナスと同等なくらいに。ただ単純にライが強すぎるのだ。ライは自分を最弱というがその実、周りと比較にならないほどに強いのだ。しかし、さすがはレグナスが次期候補に選んだものとして時々驚かされる動きをする。ライは場を把握しながらバックステップでアルガたちの攻撃ひらりと躱すが、その最中、レオが突貫してきた。そして、アルガが下がる。
「らぁぁぁあ!!」
ものすごい勢いでレオが後ろのアルガを隠れるようにして突貫してきた、
(さぁ、こんどはどっちからだ…)
レオが思い切り木刀を振り下ろす。俺はそれを対の力で弾く。弾かれたレオはそのまま後ろにのけぞる。本来ならここで積みなのだが…。
「うぉぉぉぉ!!」
俺の視界から右斜めしたから突然、後ろにいたアルガが木刀を構えて飛び出してきた。下段から上段への斬りあげをするがライはそれをギリギリで避ける。そして、二人が横に並ぶ。
「残念!」
ライは木刀を横一文字に振るう。仰け反ったレオも振り上げで大きな隙ができてしまったアルガもこれを防御することは出来ず、そのままクリティカルヒットする。
「ぐっ!」
「うっ!」
しかし、その勢いを利用して後ろに下がった。再度構える。まだやるつもりなのだろう。しかし、二人とも息が切れていた。さっきまで肩で息をしていたがそれももうできなくなっているぐらいに消耗していた。まぁ、なにせかれこれ始めてから四時間は経とうとしているのだから、休憩もなしに。俺は流石にこれ以上はきついだろうと思い休憩を提案することにした。
「そろそろ休憩にしません?」
そう木刀を肩に担いで言うと。右の十二彗のレオが叫んだ。
「認められっかこんなの!てめぇみたいなガキになんでこの俺が負ける!ありえるかよ!」
どうやらご満悦のご様子。盛大な誤解解釈である。
「んじゃ、休憩ってことで」
そう言って俺はリーナ達の元へ行こうとする。が、俺の態度が気にくわなかったレオがこれでくたばるわけなく。
「あ、おい!」
アルガの制止もむなしくレオは力強く握ったその木刀を持ってライに仕掛ける。そのがら空きな背中めがけてレオは木刀を振り下ろすが。一瞬振り返ったライの鋭い眼光が見えてたじろぐ。次の瞬間、レオが振るった木刀はライの木刀のたった一振りで折れたのだ。
「な、に…」
自分の持っていた木刀が折れるまさかの異常にレオは尻餅をつく。ライはレオが戦意喪失したのを確認して再度リーナ達の元へ向かう。
「ごめんな、つきあわせちゃって」
「へい、き」
「うむ!私は大丈夫だぞ!」
「私も異論ない」
「だ、そうよ?」
そう、謝るライにリーナ達はそれぞれ返答する。それにしても、あれから一ヶ月たつがリーナ達は異常に早く馴染んでいた。それはまぁ、簡単な理由。仲良くしないとライに嫌われるからというのがあるからだろう。特にアリシアとネアは時間がかかると思っていたライでさえこんなにもすんなり馴染んでいる二人を見ると驚いてしまうのだ。俺はそんな可愛い妹たちの頭をそれぞれ撫でてやりレグナスの元へ向かう。
「レグナスのおっさん」
レグナスはレオとアルガにいろいろと話していた。そんなところちょっとお邪魔する。
「なんだ?」
「いやさぁ、おもったんだけど…」
そこでレオが敵対心剥き出しで俺を睨んできている。アルガはそれをどうどうと落ち着かせてはいるが…。やりづらさを感じながらも俺は言葉を進める。
「正直、俺が相手するよりもおすすめの奴がいるけど、そいつとやりあってみればどう?」
「お前が勧める相手、か。気になるな…」
俺のおすすめとあってレグナスが興味を持つ。よし、乗ったな。と俺はすかさずそいつの名前をいう。
「あぁ、グラウっていう俺の親友がいるぞ」
「はっ!ふざけんな!あんな糞ガキが俺達より上だと?んなわけあるか!てめぇも俺らより下なんだよ!せこいことばっかしやがって!てめぇにこの国の女神のかごなんてなけりゃあ俺の方がうえだかんな!」
悪党さながら、残念セリフを吐きまくるレオの姿がそこにはあった。兜を外しておりその悪そうな風貌が丸見えでまさに言葉に合う顔つきだった。その隣では大人しそうな、レオと同い年のアルガの姿があった。その顔は弱気を感じさせるが。実際問題、アルガはときたま気配を消して、冷静に隙をついてくるあたりレオの突貫よりも強い。しかし、レオがいるこそあの突きが放れてるのだろう。とも思う。しかし、グラウに散々のいいようだな。
「うーん、じゃ一度グラウと試合してみたらどうだ?」
「は!あんなカス俺がボコボコにしてやんよ。再度あいつにはフィナ様を守れないことを突きつけてやるよ」
その言葉にライが敏感に反応する。
(やっぱ、なんかありそうなんだよな…)
先日からのグラウの反応、このレオという男のグラウに対する怒気。そして、フィナのショック。別に推理が得意ってわけじゃないけどなんかありそうなんだよな。これでなにもなかったら俺恥ずかし!とか思いながらライはグラウを呼びに行くのだった。俺は特別に備え付けられたお城のある一室の前に来ていた。俺はそこで扉を軽く二回ノックする。すると中から「入れ」と可愛らしい声が聞こえてきた。そして俺は遠慮なく開ける。ガチャと音を立てて扉を開けるとそこには豪華なベッドが備え付けられており、そこにはフィナが体を起こしていた。そしてその近くの椅子に座っていたのはグラウ。俺の突然の来訪に驚いている。フィナはというと犬歯むき出しでこちらを睨んでいた。なんでこう、ラフェルナ王国の人達は俺を目の敵にするんですかね。俺はグラウに近づいてさっきまでの話をする。
「俺が、か?」
「あぁ、グラウがちょうどいい相手になるんじゃないかなって」
「…」
グラウは考え込むように黙り込む。そんな姿を見たフィナはグラウに言う。それも、絶対に心を許した相手にしか見せない満面の笑顔で。
「グラウは私の誇れる執事。十二彗なんかに遅れを取らないわ!」
そう、フィナがグラウに後押しをする。
「なにせ、私の自慢の専属執事だもの!」
「さっきも言ったろ。俺はもう、お前の執事じゃない…」
「違うわ!今もグラウは私の専属執事よ!」
「違くない、現にお前には俺より頼りになる執事がついてるだろ」
「あんなの私は認めた覚えはないわ!私の執事はグラウだけ!」
そんな口論を続ける二人。そんなところに水を差すバカタレ。
「あぁ、お取り込み中悪いけど、相手はやる気みたいなんだよな」
「……」
やだ、やめて!その無言で俺を睨むのやめて!まじでグラウがそれやったら怖いから!
「…ったく」
グラウは諦めがついたのか悪態をついて立ち上がる。そして、訓練場に向かうため足を動かした。俺はそれを見送る。やがて、ガチャンと扉が締まりグラウは部屋を後にした。俺はベッドの方に振り返るがそこにはフィナの姿はなかった。
ガチャンと扉を閉めて俺は人通りのない廊下に出る。そこで壁に背中を預けて下にうつむく。そこには、震えている自分の足があった。
「…くそ!」
俺は壁を勢いよく殴る。それで多少の震えはおさまった。が、小刻みにだが震えている。どうしてもあの時のことを思い出してしまう。今でもそのことは夢にも出てくる。怖い。逃げたい。そんな気持ちがいっぱいだったあの瞬間を。自然と呼吸が短くなっていた。息苦しい。悔やんでも悔やんでも悔やみきれない過去を。いまだに俺は乗り越えることが出来ない。そんな自分への苛立ちと恐怖でおかしくなってしまいそうだった。正直、あいつの顔を見た瞬間怒りが込み上げてきて恐怖を感じた。
(くそ、あの男だけでも俺が…)
ただひたすらにそのことだけを考えていても過去がそれを邪魔する。俺にそれができるほどの力が今あるのか、と。俺に。
(俺にフィナの執事でいる資格なんて、もう…)
昔と今、過去は戻らず未来は見えず。今だけを見ることしか出来ない。しかし、今さえもグラウには遠くに見えた。しかし、そんな震えを無理やり引っ込めさせ、再度、グラウは訓練場に向かうことにした。しかし、歩き出した瞬間その後ろから急に誰かに抱きつかれた。それを、グラウはよく知っていた。しかし、かける言葉が見つからず黙ってしまう。はたして、今の俺に、本当に彼女の名を呼んでもいいのかさえ…。数秒、その空間を沈黙が支配した。やがて、グラウは何も答えずに歩き出した。そこには今にも泣きそうな、悲しい顔をした女神の姿があった。
「おうおう、何しに来た糞ガキ」
「ちょっと親友に呼ばれただけだ」
「あぁ!?いい度胸じゃねぇか、あの時みたいに軽くひねり潰してやるよ!」
グラウが訓練場に入るなりレオが突っかかる。グラウはそれを知らんぷりして俺に問う。
「訓練相手ってこいつらなのか?」
「おう、ちょうどいい感じなんじゃないか?」
「あぁ!?俺とコイツが同程度だとおもってんのかてめぇ!」
レオがグラウの胸ぐらを掴む。慌ててアルガがそれをやめさせる。
「ちっ、いいだろう。この試合で俺様の方が強いってことを叩き込んでやる。てめぇもろともな!」
そうしてづかづかと自分の立ち位置にレオが戻っていった。それを見計らってアルガが俺の元に来る。
「さっきからレオがすまない。悪いやつではないんだが、どうも短気なところがな…」
アルガはそうため息をつく。そこからして苦労が目に見えてる。だから俺は優しく返すのだった。
「いやいや、気にしてないから別に構いませんよ」
「すまない、恩に着る。それと、いまからグラウ君と行う試合についてなんだが。デュアルでやらないか?さすがにグラウ君一人と戦うのは気が引ける」
どうやら十二彗の中でもグラウは相当弱い認定されてるのだろうか。そのせいか、レグナスがさっきよりも集中してこの試合を見ようとしてるし。
「うーん…」
「それとこれはほんとに個人的なことですまないんだが。俺自身、君と1対1でやりあってみたいんだ」
「そういうことならそうしよう。グラウにもいっとくな」
「ありがとう」
そうお辞儀をしてアルガもレオがいる場所に走っていった。俺もグラウの隣に移動する。
「ということでデュアルになった。アルガって人は俺がやるからレオっていうやつたのんでいいか?」
「あ、あぁ…」
そこで気づいた。グラウが少しは震えているのに。ライはこれに驚きを隠せなかった。震えるグラウなんてネアが最初に学院を襲ってきた時以来か。いや、それとは震え方が違う。こう、トラウマ的なのを思い出した時の震え方だった。俺はそんなグラウの肩を優しく叩く。
「大丈夫、あのアルガって人ならともかくレオってやつの程度ならお前が古来魔法を使わなくとも勝てるぞ?」
「…そうなのか?」
「おう、自分に自信持てって」
「…あぁ」
親友に肩を叩かれて励みの言葉を言われた。俺は、俺の強さがわからない。果たして、今の俺にこいつみたいな力があるのか。今の俺に十二彗に勝てるのか。わからない。戦闘においての落ち度とは自分の実力を推し量れていないことだ。それが、今の俺だった。自分の力量も把握してないのにここに来たのは間違いなんじゃないか、と。今更ながら思う。しかし、親友は言った。自信を持っていいと。俺が一番心を許している親友にそう言われた。だから…。自然と足の震えは止まっていた。横には俺の、大事な親友。ライが立っていた。ライは俺の視線に気づくとにやっと笑う。その顔は自信と余裕で溢れていた。
(俺も、いつかこいつみたいに守れるものを守れるのだろうか…)
あの日守れなかったものを、次こそは必ず守ってみせると。しかし、それはまだなんだとグラウは思っていた。これは大事な人を守るための力を手に入れる、一歩にしか過ぎないのだと。双方の準備が整ってレグナスが中央に立ち手を振りあげる。公式でないとはいえ試合が始まる。グラウにとって、過去を乗り越えるための第一戦が。そこでライは場を和ますためか、それとも俺の緊張を解こうとしてくれたのかふざける。
「さ!ダブルデートをはじめようか!」
「ホモか、お前は」
自然とそれに反応して自分の口が突っ込んでいた。その反応にライはより一層笑顔を見せる。そして、レグナスの手が振り下ろされた。
ふはは!待たせたな人間共!ということで読んでくださってる皆様方、ありがとうございます!
ふはは、戦闘おおくないか?われでさえ疑問に思うレベルで…。
( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
とりあえず笑っておけばなんとなるだろう。魔王だけに…。退治されるのがオチだがな!それはそうと、我は最近バイトを始めたぞ。しんどいけど意外に楽しい。うむ、しかししんどいのにかわりはないのだよ。まぁ、もし投稿日が遅れたらすまぬな!とだけ言っておく。つまりそれが今日の言いたかったことだ!今日はとくと言って面白いことは無かったな、それじゃあ今日はここらへんでだ!サラダ版!人間共!




