滅茶苦茶過去話から始まる
修正 R3 6月7日
「くっ、はぁっ…」
真っ暗な夜道の中、俺は迷路のような街中を必死に駆けていた。
息を切らしながらも傍にいる妹の手を引っ張って走った。
そうしなければ追いかけてけくる死神どもに殺されてしまうから。
季節は冬、寒さが体を鈍くさせ体力を容赦なく奪っていく。
次第に雪まで降り始めてきて体温までもが奪われる。
それでも僕達は走り続ける。
走り続けなければいけないのだ。
後ろにいるガシャガシャと鈍い金属音を鳴らせながら迫り来る死の恐怖から。
誰だって死ぬのは怖い。
それはまだ九歳の俺でも、幼い五歳の妹にだってわかることだ。
だから俺たちは必死に走った。
生きるために。
俺は妹を引っ張りながらも全力で走った。
走って走って時には隠れてやり過ごした。
そうでもしないと体力が持たなかったから。
特にまだ五歳の妹には休憩もなしに走るのはまず無理だろう。
俺は隠れてやり過ごしている間に妹を励ましていた。
「大丈夫だ、兄ちゃんが絶対に守るから」
「うん…」
そういうと妹は安心したように白い息を吐く。
それでも体は震えていた…。
それが寒さからくるものなのか。
それとも、死の恐怖からくるものなのか。
はたまたその両方なのか…。
その時の俺にはわからなかった。
「おい!あそこだ!あそこにいるぞ!」
どこからか叫ぶ声が聞こえてきて、次第に鈍い金属音が近づいてくる。
俺は焦って妹の手をとり走り出す。
「リーナ走るぞ!」
「う、うん!」
そうして長い間走っていると限界だったのだろう…。
リーナは途中、道端でつまずいてこけてしまった。
俺はその一瞬に追いつけず妹から手を離してしまう。
「リーナ!!」
俺は即座に振り返り妹の元まで戻ろうとする。
が、リーナはそれを拒むように首を横に振り叫んだ。
「お兄ちゃんだけでも逃げて!」
その言葉に俺は迷ってしまった。
ここで妹を見捨てれば俺は逃げ延びることができるかもしれない…。
そんな邪な思いが俺の考えが最悪の結果を生んだ。
俺が迷ってるうちにリーナは魔女の手下に捕まってしまう。
「ったく、手間かけさせやがって」
「う、うぅ…」
兵士はリーナの長く綺麗な銀髪を強引につかみ頭を無理やりあげさせた。
「さっさと捕まってればとっくの昔に楽になれたのにな」
そうして一人の兵士が腰につけていた剣を抜きそれを真上に振り上げると何の躊躇もなくリーナの首に目掛けて振り下ろした。
★
「やめろぉぉぉ!!!」
俺は伏せていた顔を勢いよくあげた。
同時にスパーンととてもいい音が静かな教室に響いた。
とゆーか頭が痛い。
「なにするんですか先生」
「なにするんですか先生、じゃねぇよ!誰が授業中に居眠りしてたあげく大声で叫んでんだ!」
俺の目の前でガミガミと説教をしているのはここアレーザ剣士育成学院、二年生の担任であるポル先もといポルーク先生だ。
ポル先は教師陣の中でも特に生徒から人気のある先生だ。
まぁ、ポル先とかあだ名がつけられているところからしてわかるだろう。
パッと見はどこにでもいるおっさんみたいな人だが体は見かけによらずガチムチである。
顔の頬に剣で斬りつけられた跡があるのが特徴的だな。
ちなみにポル先と呼ぶとブチギレるので要注意だ。
そんなポル先の手には先ほど俺の頭を叩いたであろう教科書が丸めて握られていた。
「ライ・シュバルツ、お前は一体何しにこの学院に来てるんだ?」
その答えに俺は笑いながら答えてやった。
「お勉強に決まってるじゃないですかぁ(笑)」
スパーンとまた静かな教室に音が響いた。
「先生」
「なんだ?」
「痛いっす」
「当たり前だろ、痛くないと意味がないからな」
「じゃ、おやすみ」
俺が再度机に顔を伏せるとポル先は「はぁぁ…」と溜息をついて教卓に戻っていった。
ポル先は途中でなにかを思い出したようにこちらに振り向く。
「あぁもう知らんぞ、寝るのは別に構わんが授業中に大声で叫ぶのはやめろ。
お前が重度の問題児だということはここを受け持ってよーく分かったからな。
それと、午後の実技授業はちゃんと出れよ」
と最後に忠告してだけ戻っていった。
ポル先の言葉を聞いて周りの生徒たちがどっと笑い始める。
「はーい、静かにしろー。授業はじめるぞ」
そうポル先がいうとみんな「うぃ」といって授業を再開させるのだった。
そんな何事もなく進んでいく授業にホッとする。
(全くとんだ悪夢を見ちまったな…)
俺は見た夢の内容に冷や汗をかくのであった。
★
「よーし、今から実技授業を始める。それぞれ練習用の木刀はもったか?」
あれからあっという間に時間が過ぎていき昼休憩が終わった後、二年生は実技場に集まっていた。
この学院の実技場はかなり広めだ。
俺たち一学年のほんの一部分である百人程度なら余裕でスペースが出来るぐらいに。
「まずは各自自由に練習しろ、二十分後にはそれぞれ一対一をやるからそれまでにはウォーミングアップを終わらせておけよ」
「「「「はーい」」」」」
とそれぞれ気だるそうに返事をする。
その反応にポル先は「まったく…」とた溜息をつく。
「あぁ、それとライ。お前の手に持っているそれはなんだ?」
「あぁこれですか?やだなぁ、模擬剣に決まってるじゃないですかぁ」
「そうかそうか、じゃあいまから俺が特別に打ち込んでやるからちゃんとその模擬剣で捌けよ」
というやいなやポル先は自前の愛剣を抜き放ち構える。
「待って待って!それはまじでシャレになんない!」
俺は即座に手に持っていた模擬剣(小枝)を投げ捨て土下座した。
「あれしか残ってなかったんですよ!」
「は?そんなわけ…。ん?ほんとだな」
ポル先は実技場の武器庫に目をやる。と そこには武器が一個もなくすっからかんの状態だった。
「でしょ!?」
「はぁ、ったくしゃーねぇな。俺の剣貸してやるから新しいのもってくるまでこれで練習しとけ」
「え?いいんですか?自分なんかに愛剣渡しても?折りますよ?」
「折るな!つかわかってるならなおさら折るな!」
そして周りの生徒がそれをみて笑い出す。
これが俺の、ライ・シュバルツの日常だ。
ポル先が新しく剣を取りに行ったのを見て隣にいた美少女が話しかけてきた。
彼女はルナ・キアラーナことルナ、このクラスの中でトップレベルの才女さんだ。
しかもルナはこの学院で五本指に入るぐらい超が付くほどの美少女なのだ。
どこぞの有名な彫刻家が作ったんじゃないかってぐらいその目鼻立ちは端正に整ってるし、滅茶苦茶笑顔が似合う活発な女の子。
肩まで伸ばした俗に言うセミロングな茶髪、光加減では黄金色にも見える。
その瞳は鮮やかな宝石のブルーサファイアみたいに透き通るような色をしていて、昔の知人を思い出す。
前髪にはチャームポイントである三日月の形のヘアピンがとめられておりそれがまたルナの可愛さを引き立てていた。
「ねぇライ、私と一緒に練習しようよ!」
「いや、練習って言ってもお前らの木剣とは違ってこれは本物だぞ?」
「大丈夫だよ?」
「なんで?」
「だってライが相手だもん」
「おうおう言ってくれますねぇルナちゃん」
「あはは〜、ちゃん付けはちょっとキモイかも。あ、あとグラウ君も誘っていい?」
「もちろん」
言うやいなやルナはグラウを探すため当たりをキョロキョロと見回す。
俺も一緒になって探すとすぐに見つかった。
「グラウ君一人だね〜」
「だな〜」
その男子、グラウ・ディオスもといグラウは実技場の隅っこで一人で練習していた。
グラウという男を一言で表すなら一匹狼だな。
髪は右半分を目を隠すように伸ばしておりところどころボサついていて紅いメッシュが入った群青色の髪が特徴的だ。
その瞳は狼みたいに鋭く紅い。体格は俺よりも男らしく年相応にがっちりしている。
そんなグラウくんと目がバッチリと合っちゃった、きゃっ。
グラウは一度こちらを睨むとそのまま踵を返してどこかに行ってしまった。
「あらら、振られちゃった」
「そうだな〜」
グラウはこのクラスの中で人一倍浮いている。
まあ、見ての通りああいう性格をしているからクラスのみんなから近ずくこともなくグラウからも近寄らず。
それでも一年生のころより印象はだいぶ良くなったほうなのだが。
「もう仕方ないからライ、ちゃちゃっと私の練習に付き合ってよ」
「ういうい、手加減なんかしてやんないからな」
「望むところだよ!」
俺はそんな生返事をしてルナの練習に付き合ってやるのだった。
読んでくださっている方ありがとうございます。まだまだ初心者なのでアドバイスがあればお願いします