魔女の宴
第1章ラストスパート!
今回もいつもと比べてちょっと長かなってます。
※あとがきも長くなっております。
※2020/11/10 修正しました
今日は神休日ではないため俺とリーナは普通に学院がある。
それについて昨日のうちに大臣に相談したら。
「そうじゃな…。うむ学院には通え、それまでは城のもので女神様を見ておく」
と言われたので、俺とリーナは朝起きてそれぞれ準備するのだった。
そんな中、俺達よりも少し遅く起きてきたアリシアが俺たちの様子を見て頭にはてなマーク浮かべる。
「お兄ちゃんとリーナは学院に行くのか?」
アリシアには大臣から話を通してるはずなんだが…。
「あぁ、学生はちゃんと学校に行けってな」
「ん」
俺の言葉にリーナが同意するように頷く。
「むぅ〜」
アリシアは頬に空気をためていかにもご立腹ですと顔に出していた。
そこにコンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた後グーデンが部屋に入ってくる。
「女神様、今回ばかしは諦めてくださいませ」
「や!」
アリシアはそれを可愛らしく否定。
まぁ、予想できてましたけどね。
「そういわれましても、ダメなものはダメです」
「グーデン」
「め、女神様」
アリシアの纏う幼児的な雰囲気から一転、大人びたアリシアに変わった。
これには流石のグーデンもたじろいでしまう。
今までアリシアのことを見てきて分かったことがあるのだがアリシアがああいう風に大人モードで大臣と話してる時は国にとってなにか重要なことや深刻な事がある時。
つまり、今回も何かしらの事があってのことなのだろうか?
「私も学院にいきたいです」
いやぁ、どう考えても自分のわがまま突き通そうしてるようにしか見えないんだが…。
大人モードなアリシアに大臣も渋っている。
普通に考えてそりゃそうだよな。
女神様が学院に通うなんて例は聞いたことないし。
グーテンも初めてのことで戸惑っているのだろう。
というか、女神様が学院になんか行った日には大惨事だな。主に学院側が、だけど。
「で、ですが女神様、学院の方が…」
「私がなんとかします」
「…」
アリシアのなんとも言えない圧にグーデンは返す言葉を失ってしまった。
うーん、これは俺もグーデンに助け舟を出した方がいいだろう。
「アリシア、今回はグーデンの言うことを聞いてあげたらどうだ?」
「ふぇ…」
俺がそう注意するとアリシアは俺に振り向き一瞬で涙目になってしまった。
あるぇ、さっきまで大人モードだったじゃん。
そんな一瞬で変わられると対応できないよお兄ちゃん。
「お、お兄ちゃんは私と一緒にいるの嫌なのか?」
そんないつもよりしおらしいアリシアに俺の心を砕かれてしまった。
今日ぐらいはグーデンの味方になってやろうかなと思っていたんだが、それはアリシアの涙目により砕け散ったのだった。
「んじゃ、学院に行ってきます」
俺はリーナとアリシアを連れて学院に向かうのだった。
「はぁ~」
一際大きく溜息するグーデンにもはやフォローのしようもない。
(すまんな、あんな態度とられたら無理だわ)
兄として妹を泣かしてはいけないという庇護欲的な、そういうのがでちゃったので許して欲しい。
しばらく歩いて俺達は学院に着く、リーナもちゃんと魔法学院の方へ向かった。
アリシアはというともちろん俺の方についてきた。
その間ずっと服の袖をつかまれていたが。
「ほらついたぞ」
「うむ!」
クラスの扉を開けて俺とアリシアは教室の中に入っていくのだが…。
まぁ、当然騒ぎになりました。はい。
まず、教室には入るなりクラスメイト達がライと手を繋いでいるアリシアを見て数秒固まった後。
「ついにやりやがったぁ!」「誘拐よ!誘拐!」などと、大騒ぎである。
なので、俺はそれに悪ノリして「ふははは!貴様ら!この幼女がどうなってもいいのか?」とアリシアを抱きしめるとこの発言が見た目幼女なアリシアの気に触ったらしく痛くはないがぽかぽかと叩いてくる。
その光景にクラスメイト達はなぜか和んでしまいそのまま朝のチャイムが鳴ってSHRが始まった。
みんなが席につきアリシアも俺の膝の上に着席させるとタイミングよくポル先が教室に入ってくる。
ポル先はクラスを一度見回した後、俺がアリシアを膝の上に乗せてるのを見て即座に腰に掛けていた自前の愛剣を躊躇いなく抜き放つ。
「ちょっとまったぁぁぁあ!」
「それはこっちのセリフじゃぁぁぁあ!」
お互いがお互いに叫び合う。
ポル先の表情にはもはや余裕などなかった。
「なにおまえ女神様連れてきてんだァ!?俺を晒しクビにしたいのか!?そうなのか?だったらこの場でお前を斬りすてて道連れにするまでだぁ!」
ガチだった、もう目がガチだった。
ポル先はSHRとか学院の中とか忘れて俺に斬りかかってくる。
ちなみに騒動の元凶となったアリシアは可愛らしくちょこんと首を傾げている。
きっと自分のせいでこんなことになってるだなんて思ってもないんだろうな、この子。
そんな切羽詰った状況の中で突然教室のドアが開き遅刻してきたルナが入ってきた。
「ぎりぎりセーフ!ってあれ?え?え?」
扉を開ければポル先が鬼の形相でライに斬りかかる光景にしばらくルナは思考が追いついてないみたいだ。
数分してようやく周りの状況を把握したのかルナはポンと手を叩く。
「あ、誘拐だね!」
などと口走るのでそれを合図に朝のSHRは嵐のように荒れることとなった。
そんなこんなでお昼時。
あれから、まぁ、いろいろあってなんとかなったのだが。
まず、アリシアがそれぞれに説明して後から騒ぎに駆けつけた学院長がやってきて話を通す。
流れで俺がアリシアの専属執事になったのがばれてクラスメイト達に質問攻めにされたのは言うまでもない…。
最初こそ先生方も戸惑っていたがアリシアのことを受け止めてくれたみたいだ。
今では落ち着いてみんなアリシアと一緒にクラス全員で円になって昼飯を食べるているのである。
珍しいことに物静かというか、大人しい系のクラスメイトを含んだ全員である。
ちなみにグラウも俺の隣の席で渋々皆と一緒に昼食をとっている。
今日のお昼はライガルがもってきてくれた弁当だ。
わざわざ城まで届けに来てくれたから嬉しいし、それにはアリシアの分も含まれていた。
大方こうなることを予め予想していたのかきっちり四人分作ってきていたのだ。
そんなライガルの愛情たっぷり弁当を頬張ってるとグラウが話しかけてきた。
「おまえ、あれから大丈夫だったのか?」
「ん〜、なにが?」
「シェルさんから聞いたぞ、魔女騎士と戦ったって…」
グラウは周りに聞こえない程度の音量で話してくる。
まぁ、それは俺のことを気遣ってるからなんだろうけど。
「あぁ、それなら大丈夫大丈夫」
「そうか、ならいいんだが。その、まぁ、なんだ…」
グラウが口篭る。
俺は気になってグラウのほう見ると、グラウはアリシアを見つめていた。そのグラウの横顔はなにかに思いを馳せてるように見えた。
やがて、いろんな感情の篭った目で俺の方を叩く。
「ご愁傷さま」
「ほわっつ!?」
いきなりの言葉とグラウのギャップに驚かざるえなかった。
なんだ!?急にどうしたんだ??グラウがいつものグラウじゃないぞ?
とか、本気で心配してたら頭叩かれた。
なんか専属執事に思うところがあったらしく、それでらしい。よくわからないが。
そんなこんなで楽しい昼食の時間はアリシアを中心に騒がしくもあっという間に過ぎていったのだった。
そうして午後の実技授業が始まる。
俺達のクラスは実技授業のために作られた訓練場に集まっていた。
アリシアはベンチで見学ということでちょっと離れたところにある椅子に座ってこっちに手を振っている。
そんなアリシアにライも軽く手を振り返す。
そんな二人とは違いクラスのみんなはいつもより緊張していた。
ポル先も少しやりづらいんだろうが頑張って授業を進めている。
まだ幼いとはいえどアリシアもこの国の女神だ。
それなりのプレッシャーがあるのかみんないつもより真面目に授業を受けている。
俺とルナも授業の通りに一対一の練習をしていた。
「ねぇライ、あの時みたいに手加減は抜きでしてよ?」
「えぇ〜」
「だめ!あの時みたいに本気でやってくれないと私怒るからね!」
「そういわれてもな…」
もちろん、グラッグバー事件の時に俺の実力を見たのは少数の観客とルナとグラウぐらいで、ここにいる全生徒が知ってる訳では無い。
だから、俺が専属執事になったことの経緯について話すのには苦労した。
実力を知ったルナは俺とどうやら本気で試合したいらしい。
だから、一対一のパートナーを選ぶ時物凄い勢いで俺の元に来た。
それをベンチで見ていたアリシアは頬に空気を溜めて明らかにご立腹そうだったが。
本来ならライの傍で牽制したい所なのだが練習を邪魔してはいけないという葛藤だけがアリシアをベンチに留めていた。
「はっ!」
まだ合図も何も無いのにルナは不意打ち上等で先手を打ってきた。
腰に下げていたレイピア寄りの細身の剣を抜き放ち、俺に突きを繰り出す。
あまりにも唐突だったため、俺は反射的にその突きを躱す。
なにせ本気で突いてきたからな。
その反応にルナは満面の笑みだったので傍から見たらただの恐怖である。
なにせ、目の前の美少女は満面の笑みで俺をその自慢の愛剣で突きにきてるのだから。
「ふふ、そうでこなくっちゃ!」
「手加減ぐらいしてくれませんかね〜」
ルナが愛剣なのに対して俺は木刀。
手加減ぐらいしてくれてもいいんじゃないだろうか?
というぐらいルナは本気で仕掛けてきていた。
こうなったらテキトーにやってやられるか、とか考えながら剣を交えている。
ふと、空が曇ってきているのに気づいた。
ルナは俺にばかり集中しているのか気づくことなくお構いなしに斬りかかってくる。
俺はそれを華麗に木刀でいなす。
ルナはそれに翻弄されぱっなしで周りが見えていないのだろう。
戦ってわかったがルナは俺がティルを出さないことをちょっと不満に思っているのだろう。
顔に出ていたのだが、流石にそれはここで出してはいけないとわかってくれているのだろう。
本気を出せとはいうがティルについては触れないでいてくれてる。
練習もそこそこいい感じにあったまってきた所なので何度目かの攻撃でわざとやられようとした時にそれは起きた。
周りが異常に暗かった。
クラスメイト達の姿は見えるがそれでも闇を感じさせる暗さだった。
さすがの異常にルナも気づいたらしく身構える。
周りのクラスメイトも何が起こったのか困惑していた。
そんな緊急事態でもさすがというところかポル先が急いで生徒を集める。
みんなその指示に従ってポル先の元に集まる。
俺はベンチに座ってるアリシアの元まで迎えに行く。
俺の後にはルナもついてきていた。
「これなんだろうね」
「さぁな〜」
俺はルナの質問に生半可な返事を返す。
ルナはこんな時でも可愛くぷくぅ〜と膨れるのだった。
アリシアの元までくるとアリシアは怯えるように震えていた。
「アリシア?」
「ぁ、ぁ…」
なんだ?いつものアリシアとは違って困惑する。
(何が起こっている?)
俺は周りを見回す。
ポル先とクラスメイト達がこっちに早く来るように手を振っている。
その光景に既視感を覚えた。
嫌な予感だけが背筋をなぞる。
そこで気づいた。昔の、ことを…。
「ライ?」
「ライ!」
ルナが不思議そうに、アリシアが切羽詰った風に俺の名前を呼んだ時、それは来た。
闇が晴れて闇が訪れた。
「固有結界」
そこはもはや俺達が知っている訓練場ではなかった。
別の空間といったらいいだろうか…。
周りは黒と紫色が結晶が混在した閉じられた空間だった。いきなりのことにクラスメイト達はパニックに陥っていたがポル先が落ち着かせる。
さすがは元女神近衛兵だな。
俺はアリシアを見ると腕にしがみついて震えていた。
その原因は何なのか。
そんなの分かりきったことだ、この固有結界だ。
この固有結界を俺は知っている。
忘れることなんて出来やしない魔法。
俺の心に深く抉られた古傷が疼く。
俺は空を睨みつける。そして、それは姿を現す。
「ふふ、ようこそ、魔女の宴へ」
魔女。この固有結界そのものの雰囲気を纏ってるようなロリ巨乳の美少女が空中に立っていた。その格好は少々露出が多かったが魔女を想起させる衣装だった。
ところどころに宝石を散りばめている腰のポーチにはカラスの羽が何重にも縫っていた。
魔女の、アメジスト色の瞳が俺を見つめる。
それだけで何かにしばれる感覚に陥る。
クラスメイト達は魔女をただ呆然と見ることしか出来なかった。
そんな中でもポル先とグラウは愛剣を抜いてそれぞれ構えていた。
臨戦態勢を整えてはいるものの二人ともわずかにだがその足は震えていた。
ルナも魔女にこちらを睨まれて腰を抜かしたのか膝から地面に崩れ落ちた。
「え、え…」
ルナはなんで?というように足を叩くがいうことが聞かないのかその足は震えるだけで立つことは出来ずにいた。
「魔女、なにしにきた?」
俺は自分の記憶と一致するそいつを睨みつけて問う。
しかし魔女はただ静かに微笑むだけだった。
空中に立っていた魔女はその足を結界の地につける。
「今宵の魔女の宴を開いたまで。主役は私でヒロインはライ、あなた」
魔女は俺を見つめる。
その瞳には吸い込まれそうになるほどのものがあった。
俺はそれを頭を振って睨みつける。
魔女の目には特別な力がある。石化や洗脳の類の魔眼を持ってるのだ。
「ふふふ、そんなに拒絶しなくてもいずれあなたは私を受け入れる。それまでの宴をたのしみましょ?」
「お前を受け入れてやるほど、俺の器はでかくないぞ」
魔女は俺を見つめ、俺は魔女を睨む。
こいつは一度俺の目の前で妹を、リーナを殺した。
俺の大事な家族を。
許さない。許せない。もう何も奪わせはしない。
そのために俺は俺を犠牲にした力を手に入れたのだから。
「ティル!」
『やるのね…。あなたの好きなように、あなたの望むままに』
俺はティルを呼ぶと同時に装甲化する。その姿を見て魔女はより一層、艶っぽく微笑んだ。
「ふふ、あの時よりずっと逞しくなって私は嬉しいわ、ライ。だから、見せて。あなたの全てを教えて。今宵の宴は私とあなたのためだけの宴なのだから」
空に月が登る。
その幻想的な風景にポル先やルナ、グラウでさえも見惚れていた。
そしてそれは動き出した。
いや、始まってしまったんだ…魔女の宴が。
幻影の中から数十体もの魔女騎士が姿を現す。
シェルランの時見たく、それぞれ個性のあるような魔女騎士とは違いすべて同じ姿をしていた。
全て同等の魔女騎士、それは魔力量も一緒ということ。
その魔力量は一体一体がシェルランで戦った魔女騎士の比ではなかった。
魔女騎士は大地を蹴り瞬きする間にクラスメイトに肉薄してその剣を振るう。
その一瞬の行動と目でとらえることの出来ない魔女騎士の動きに何が起きたのか把握出来ずクラスメイトはただぽかんと口を開けて見ることしか出来なかった。
そのままクラスメイト達は…。
「させるかぁぁぁあ!!」
俺は雄叫び、ティルに限界までの血を吸わせる。
ティルが心配するほどに。
俺はそれでも無理矢理ティルに血を吸わせて魔法を全力で行使する。
クラスメイトに剣を振るった魔女騎士たちの前には何人ものライが存在していた。
「『幻惑分身』」
本来、幻惑分身は敵を惑わすための幻影を作り出す幻惑魔法。
実態を持たない魔法だが、俺はそれに実態を持たせて戦わせている。
魔女の騎士/顕現操術を真似たような魔法にしたのだ、無理矢理に。
そうでなければ守れないから。
守りたいすべてを。
そうして俺はその場の魔女騎士を一度に全てを霧散させる。
「魔絶技、緋ノ型 絶華緋影乱舞!」
数十人もの俺が、今までに見たことないぐらいに紅く禍々しく光っているティルを緋の軌跡を描くようにして魔女騎士を切り刻む。
緋の軌跡が全ての魔女騎士を切り裂き霧へと変える。
と、同時に俺の幻惑分身も効果が切れて数十人の俺は幻影となり揺らめくように消える。
「はぁはぁ…」
大量の魔力消費と血の不足で体がとんでもない程の倦怠感に襲われる。
これ以上は危ないと体が悲鳴をあげている。
だからなんだ、そんなのはもう昔に何度も味わった。
今更これぐらいのキツさはどうってことはない。
けれど息は切らしていた、それは何よりもの疲労の証拠だ。
「ふふふ、あははは、ライ、素敵、素敵よ、もうどうにかなりそうなぐらいに、欲しい。やっぱり欲しい。はやくあなたを私のものにしたい」
魔女は微笑みから一転、満面の笑みへとその表情を変える。
「ふふ、とても早いけれど我慢出来ないから、フィナーレをしましょう?私と二人きりで」
突然周りの結界が砕ける。
キラキラと輝きながら結晶が散っていく。
「ここなら誰も邪魔は入らない、あなたと私だけの世界」
そこは、さっきの幻想的な世界とはうって違ってとても静かな場所だった。
魔女の箱庭というべき場所か。
ただただ広い草原、暗い夜の闇に光る月の光。
その世界には俺と魔女だけが立っていた。
アリシアもルナもクラスメイト達の姿はどこにもなかった。
「どうやってお前はここに来たんだ」
「ふふ、言ったじゃない。ライを私のものにするために」
「ほんとにそれだけか?」
「それだけ、それ以外の理由なんてない」
「なら国は、あの帝国はどうした」
そう、魔女が治めるのは帝国。
アリシアが、女神として王国を治めてるように魔女にも帝国を治める役割がある。
それはつまり、魔女と女神は自分の国から出られないのだ。
「捨てたわ、あの帝国は他の魔女に譲ってあげた」
「なっ!」
いまこいつは、目の前の魔女は国を捨てたと言ったのだ。
「だって、私はあなたが欲しいもの。あなたのいない国はいらない」
「どうしてそこまで俺に固執するんだ?その意味がわからない。それにお前がなんと思おうとなにがあろうと決して許さない」
「それは、困る…」
俺はその反応にキレた。
「お前が何をやったか忘れたとは言わせないぞ、もう失ったものは戻らない。お前が葬った命はもうもどってこないんだよ!」
無意識に体が勝手に動いていた。ティルフィングはいままでないぐらいに禍々しく、紅く、朱く染まっていた。
俺はそのティルフィングで魔女に斬りかかる。
だがしかし、その刃が魔女に当たることもなく空中で防がれた。
まるで見えない壁に激突したように。
「時/事/止」
「…」
体が動かなくなった。正確には俺の周りを動かす時間そのものが止まった。
「ふふ、人は神に勝てない。ただの人が女神や私に戦いを挑むのは無謀。けれど、私はあなたのそういうところが好き」
魔女は優しく俺の頬を撫でる。
俺は抵抗しようにもできなかった。
俺という時間さえも止められた以上動くことは愚か、息をすることさえできてないのだから。
全ての時が、俺だけがその場に止まったように。
「いままで生きてきて幾多の凡人を見てきたけど、やっぱり貴方は違った。貴方は守るもののためになら生命を賭ける。もしそれが私のためだったらと思うと震えが止まらないの」
魔女は一方的に話す。
まるで、今まで溜め込んでいた思いを爆発させるように。
「だからこそ、あなたの守るものが羨ましかった。そこに私がいないことが憎かった。私はずっと、貴方達を守ってきた。けれど、私は守られてなんかいなかった。だからあなたをあの時に捕まえた。邪魔が入ったおかげで逃がしたけれど、もう逃がさない」
その言葉は呪いのように俺の全身に降り注ぐ。
魔女は俺の目を見つめながら話し続ける。
そのアメジスト色の瞳はどこまで闇が深く見えた。
「あなたの世界に私を入れる。いや、私以外を排除する。そうしてライの、貴方の想い人を私だけに染め上げる」
魔女は顔をさっきよりも俺に近づける。
魔女が自分の唇に俺の唇を合わせようとする。が、触れ合う前に俺はそれを破壊する。
「はぁぁぁ!!」
「なっ!?」
魔女は一瞬の反応の後、俺から即座に距離をとる。
俺はやっと動くようになった体を確認し魔女に構える。
「ふふ、驚いた。まさか神魔法を破るなんて。やっぱり私の目に狂いはなかった」
そして、魔女はより一層うっとりとした表情になって…。
「ふふふ、ふふふふふふ。いい、いいわライ。ますます惚れたわ」
「その口黙らしてやる!」
俺はほんの数歩、しかし一瞬で魔女に肉薄してその華奢とも呼べる身体を押し倒す。
魔女は抵抗することなく俺に倒される。
それでも魔女は余裕の笑みを崩さない。
俺はそんな魔女にティルフィングの切っ先を喉元に突き立てる。
「ライは殺したいほど私を憎んでる?」
「当たり前だ、俺の大切な人を奪ったんだからな」
その顔に、いつもの明るいライの顔はなかった。
そこにあるのは復讐を誓った男の顔があった。
魔女は刃を突き立てられてるにも関わらずそのライの表情にうっとりする。
「ふふ、その多大な憎しみはいずれ私を愛する感情へと変わる。だから、とても嬉しい」
「なに、を…っ!」
魔女は俺の心臓の部分に手を触れる。と、同時に俺はなにかに縛られるように、力が抜けていく。
『ライ!ライ!!』
ティルが叫んでいる。しかし、それに答えることが出来ない。
俺はやがて力をなくして倒れる。
それを魔女が優しく抱きしめる。
俺は力の入らない体にムチを打って足掻こうとするが魔女はその足掻きもむなしく強く抱きしめる。
「なにが、おこって…」
「あなたに植え付けてた種が開花した、それだけ。そしてこれが、貴方と私の始まりのフィナーレ」
俺の心臓部分が淡く紫色に光っている。
そして、その場所には知らない印が刻まれていた。
「魔女の、烙印」
「正解。あの時、あなたが帝国を出る前に植え付けた種」
そう言って動けない俺の頭を魔女は優しく撫でる。
それは愛する者にしてやるようにとても優しく。
俺はそんな魔女に撫でられながら、昔の記憶が蘇る。
★
魔女の兵士は何の躊躇いもなくその鈍く光る剣をリーナに振り下ろした。
「リーナ!!!」
俺は叫んだ。しかし、叫んだところで運命は変わらない。首が跳ね飛んだ。魔女の兵士の頭が。
「え?」
リーナの髪をつかんでいた兵士が素っ頓狂な声を上げて跳ねられた仲間の首を見る。
何が起こったのかわからずその兵士の首も体から切断された。
その場は自然と血のたまり場ができる。
その中心にいたリーナは呆然としていて、何が起こったのかわからなかった。
それを離れてみていた俺でさえ何が起こったのかわからなかった。
そんな中それをやったであろう人物が闇から姿を現す。
「怪我はないかしら?二人とも」
綺麗な美少女がたっていた。
その姿は神秘的だった。
闇から姿を現したのは黒い髪を伸ばして紅い瞳をした美少女。
その手には禍々しく紅いオーラを纏った剣を持っていた。その紅い瞳で美少女は僕を見つめる。
そしてその美少女は可憐な口を開く。
「あなたに私が扱えるかしら?」
そう言って目の前の美少女は僕の目の前にその剣を持ってきて地面に刺す。
僕はその剣の柄を迷いなく握る。
「扱ってみせる、必ず!俺は、俺の守るもののためならどんな犠牲だって払う!」
その時、僕は俺に変わった。
そうして、魔剣ティルフィングと血の代償の契約をした。
「ふふ、なら契約ね。一生涯を持って私を愛し続けること。いい?」
「わかった。リーナと同じぐらいお前を愛するよ」
「契約成立ね」
そう言って目の前の美少女は俺に口づけをした。
淡く紅い光が俺とティルを包む。
そうして黒髪紅眼の美少女は俺の中に溶け込むように消えた。
「リーナ!」
俺はティルと契約を交わしてリーナの元へ走る。リーナも気づいたようにこちらに走り寄る。
「お兄ちゃん!」
それがリーナの最後の言葉だった。
「リー、な…」
こちらに走ってきていたリーナの体に深々と剣が刺さっていた。
「うそ、だろ……」
リーナはやがて倒れ、その場に深い血だまりを作る。俺は急いで駆け寄りその小さな身体を抱き寄せる。
「リーナ!リーナ!お願いだから返事をしてくれ!頼む!リーナ」
その体は徐々に冷たくなっていく。
血もとめどなく溢れ出しどう考えたって助かるはずのない致命傷。
何も喋らない、ピクリともリーナは動いてくれない。
そんな絶望の中に絶望がやってきた。
「ふふ、これであなたの守るべきものは排除した」
声のする方へ、空へ目を向けると魔女がいた。
優雅に佇む魔女は俺を見て月に微笑む。
「諦めて私のものになる覚悟はできた?」
「…なるものか、絶対になってやるものか!」
俺は契約したばかりのティルフィングを顕現し、その力を余すことなく奮った。
しかし、所詮付け焼き刃の力。いとも簡単に弾かれてしまった。
「くっ!」
「ふふ、仕方のない子、けれど好き。大好き以上に好きになった。だから」
魔女は俺の元までくると心臓の部分に手を置いた。
動けなかった。怖いわけじゃない、怯えてるわけでもないのに体がいうことを聞かなかった。
「あなたに私の印をつけてあげる。私のものである証、私の烙印を」
「ぐ、ぁぁぁ!!」
胸が、心臓がひどく熱い、焼ける、焼けちぎれそうだ。
それが体全体に広がる。
まるで炎の中にいるみたいに体が燃えるみたいだ。
(終わってしまうのか、俺は力を手に入れたのに結局何も守れずにここで果てるのか?)
絶望した。魔女の烙印は俺の心臓に深く深く刻みこまれていった。
★
いま、まさにその時と同じように体が熱くなる。
「ぐっ、ぁぁ!」
「ふふ、すぐに終わるから。終わればあなたの世界は私色に変わるから」
それはつまり、全員殺すという意味だ。
もうあの時みたいな助けはない、この熱さが終わる頃に俺はもう…。
俺は守るための力を手に入れたのに…。
まただ、所詮力を手に入れてもそれを扱えるだけの力がなければ守れやしないんだ。
俺はどうしようもない力の壁に絶望して、砕けて、崩れ落ちた。
「それでいい、もう大丈夫。あなたが私を愛する、そして私があなたを守る。それでこの宴は終わりを迎える」
俺はもう抗うことも出来ず、ただただ魔女の好きなようにされる。
そんな中、どうしてだろうか。
アリシアの顔が、頭に焼きついて離れない。
それは、自然と自分の口に出ていた。
「あり、し、あ…」
そして絶望は希望へと塗り替えられる。
「なっ!?」
魔女が驚く。
その数秒後に結界が砕けた。
草原が消え、月が砕け、全てが粒子へと変わり果てる。
その粒子の光が魔女と俺を包む。
そして、俺は聞いた。
その光の中から俺が呼んだ一人の妹の声を…、俺を呼ぶ声を。
「ライ!!」
浮遊の感覚に視界いっぱいの光。
俺はその中から手をまさぐる。
そして掴んだんだ。笑顔が良く似合って、たまに大人びたところを見せるちょっとミステリアスな可愛い女神様。
それでいて魅力的なところがいっぱある妹の手を。
「アリシア!」
「ライ!」
掴んだ手を引き寄せると光の中からアリシアが姿を現した。
アリシアは満面の笑みで俺に微笑むと俺の唇に自分の唇をあわした。
ほんのりとした彼女の温もりが伝わってくる。
もう負けないと、そう誓ったんだ。
それに妹の前だ。兄が妹の前で負けてなんていられないよな。
「「女神装甲化!!」」
眩い光がライとアリシアを包む。
体がとても軽い。さっきのような縛られるような感覚とは一転、自由な感覚が身体を突き抜ける。
いまなら何にでもなれそうな、何でもできるようなさえ気がする。
光が収まる頃には世界は元の色を取り戻していた。
闇は晴れて太陽の光が注ぐ世界。
そこは元々俺達がいた訓練場だった。
周りにはちゃんとクラスメイト達も立っていた。
そんな中、俺の身体はアリシアの魔力で包まれていた。
アリシアの綺麗な金髪を連想される黄金の鎧に女神の刻印が刻まれたマント。
俺は空を飛んでいた、まるで鳥のように。
その手には光り輝く剣が、アリシアが創り出した剣が握られていた。
どこまでも強く煌めく剣が。
俺の心臓は魔女の烙印である淡い紫色の光はなく、アリシアがくれた女神の刻印が微かな虹を含ませて覆っていた。
「そんな、うそ…」
次は魔女が絶望する番だった。
魔女が大好きな人はたった今この国の女神に取られ、あまつさえ自分が刻んだ烙印はかき消されてしまったのだ。
その上、天敵である女神の刻印が刻まれていた。
ありえない、とそう呟くことしかこの魔女にはできなかった。
魔女の大好きな人の腕の中にその刻印を刻んだ女神はいた。
「ライ」
「あぁ、ありがとなアリシア」
俺はアリシアを優しく抱きしめる。
俺の心臓に刻まれた烙印は消えた、アリシアが消してくれたのだ。
代わりにアリシアは新しい力をくれた。
いまここにいる守りたいものを守れる力を。
「終わりにしようか、魔女」
俺はアリシアを地面に降ろし剣を構える。
「うそ、うそうそうそ!認めない!私は認めない!!」
魔女は大好きな人を、愛していた人を目の前で奪われ狂い出す。
幾つもの魔法陣が出ては消える。
魔法が荒れ狂い世界が激しく変わる。
雨が、雷が、風が、炎が、闇が一気に溢れ出す。
そうした全ての神魔法をライは授かった剣、最愛なる女神の剣で断ち切る。
魔女の放つ神魔法、その一つ一つが国を簡単にも滅ぼす力を秘めて荒れ狂っている。
しかしそのどれもがライによって断ち切られた。
それでも魔女は諦めず黒い剣を、闇よりも深く黒い剣を虚空から抜き放ちライに斬り掛かる。
魔女の攻撃をライは冷静に受け止める。
魔女は巧みにも幾つもの魔法と同時に乱撃をライに浴びせるがライはその全てを逃すことなく無効化し断ち切る。
それでもお構い無しに渾身の一撃を魔女は全力で全魔力を使って放つ。
「ぁぁぁぁあ!!」
「神絶技 天羅」
魔女の振るった剣がライの剣と交わった時、魔女の持つ黒い剣が天高く舞った。
魔法と同時に斬りかかられた時、ライすべてを同時に断ち切った。
空に舞った魔女の剣は空中で粉々に粉砕した。
「う、そ……」
魔女はライに全てを断ち切られた挙句、すべてを跳ね返された。
全ての全てを。なにもかも。
やがて、戦う気力をなくしたのかその足は地に落ちる。
魔女は疲れ果て膝から崩れ落ちる。
それを見ていたクラスメイト達の誰かが声を上げて、みんなもそれにつられるようにわーっと歓声あげる。
空は晴れ、気持ちいい風がなびく。
横に目を移すとそこにはアリシアの笑顔があった。
クラスメイトたちの方にも目を向けるとみんなの笑顔と涙があった。
長く感じられた魔女の宴は終わりを告げた。
久しぶりだな人間ども!というかまじすいませんでしたぁぁぁー!!!何もなしに先週の水曜日に最弱上げることが出来なくてほんとに楽しみにしてくれた方がいれば申しわけございません!もうほんと、いろいろつまってたのだよ、我。ちょっと告知乙的なことさせてもらうが前のあとがきで書いていた新作ダークサイド系ラノベをその最弱の日にだしたのよ、そんで、一緒に出すつもりだったんだがあまりにもそのダークサイド系が書くのにはまって、いざ最弱書こうとしたらかけなくなったのだ!!それ結構致命傷……。というか、はまったというよりダークサイドの妄想がおっかなびっくりどんどん考えるうちに泥沼になっていって……、という言い訳だけさせておくれ(´;ω;`)まぁ、結果的に作品増やして自滅した我の責任ではあるがな!ということで!ちょっと改めてここで言わせてもらおう!もちろん他の作品のあとがきにも書いておくが、投稿日を改めて決めさせてもらいました、最弱週1と、変わりはなくこれは行こうと思うが、オレケモ、新作のダークサイド系ライトノベル、ダクバ(dark back)についてはずらします。オレケモは五月から再スタート週2で出していきたいと思う、もちろん、金曜日にな。そして、ダクバは月1のペースで出していこうと思うから、もちろん何曜日になるかはランダム。ということで見てくれている皆様方、申し訳ありませんがこれでよろしくお願いします。最弱は変わらず平常運転で頑張って稼働させますので!もうほんと、最弱も最弱で書き始めたら止まらないけどこう終盤になるとどうしても書く量が増えていたのだよ。ということで!dark backことダクバの方も皆様方よろしくです!このあとがきをみて言ってみてくださった方がいれば我、無茶苦茶嬉しいぞ!ちなみにちょこっと説明しておくとダクバはほんとに我の考える闇と歪な恋をテーマにした作品なのでそういう殺戮凌辱が苦手な方は自分で書いといてなんですがオススメはしないぞ、逆にそういう泥沼を好きな方には見ていってあわよくばコメントが欲しいところだがな。というか、いろいろ書きたいことありすぎて今までにないぐらいあとがきが長いぞ。とりま!ダクバの方もよろしくです!
ということでそろそろ我もここらで済ませようと思ったがあともう一つだけ!おっぱい!ちがう!前の前のあとがきの反動ががが……。面白くないから次に進むか、(´-ω-)ウム
おっぱい最高!あかん、いろいろ足りなさ過ぎてあかん!そんなんじゃなくて、なんと!最弱剣士(嘘)の俺が女神様の執事兼奴隷として滅茶苦茶な日々を送っています!?のユニークというこれを読んでくれた人?が1000人を突破したぞ!我無茶苦茶嬉しかった!読んでくれた皆様方、本当にありがとうございます!これからも頑張って書き続けていこうと思うので応援してくる方はよろしく&ありがとう!ということでこんな我の書くガバガバで中二病妄想ほぼほぼ全開の物語だがこれからもお願いします!ということで人間共!次週ちゃんと出せるようにするからまた水曜日にな!