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あまり眠れなかったらしい。時計を見ると夕方の5時だった。
「そうか、目覚ましも買わなきゃな。」
疲れは残っていたが、少しは楽になった。
これからのことを考えたら疲れたなんて言っていられない。
初日は疲れを取って?冗談じゃない。俺にはそんな時間はない。
一日でも早く愛美を迎えに行くんだ。
そう思うとちゃんと体が動いた。
リトル東京という場所を選んだのには理由があった。
安いホテルアパートメントがあるのも理由の一つだが、一番の理由はもちろん日系のビジネスが多いことだ。
ビザもないのにアメリカの会社が雇ってくれるとも思えない。
それに、アメリカ人のやり方が分からないので、いざという時どうなるか不安だった。
日本語が必要、もしくは日本人でなければ出来ない仕事ならチャンスもあるだろう。
永住権を取りやすいと言う話も聞いていたので、レストランに狙いを定めていた。
ここに来るまでの間にも日系レストランはいくらでもあった。
なに、100軒もあたれば一軒くらいは引っかかってくるだろう。
それでダメなら200軒回ればいい。
見つかるまで何軒でも回ってやる。
「今店長がいないので分かりません。」
「うちは今募集してないから。」
「永住権持ってんの?ないならダメだなぁ。」
この時間はちょうどディナー営業のオープン前の準備で忙しいのだろう、あまりちゃんと相手にしてくれるところも少なかった。
話を聞いてくれてもこんな返事ばかりが返ってきた。
中には、「うちは今人手は足りてるけど、他で人探してる所があったら声かけてやるよ。連絡先残してきな。」という親切なところもあった。
全然きついとは思わなかった。
飛び込み営業に比べたら楽なもんだ。何しろ、一軒ヒットすればOKなんだから。
必ず雇ってくれるところはある。そう信じていれば、断られるということはダメなところをつぶして行く作業に過ぎなかった。
一軒断られるごとに、「当たりに近づいている」「次は当たる確率が上がった」と思いながら回った。
30軒くらい回っただろうか、一軒だけ、「今親方が居ないんで分かんないけど、明日の2時過ぎくらいに来てみてくれる?その時間なら居るから。」という店があった。
そこの店で晩飯を食べた。
まさかアメリカに来て初めての食事がラーメンになるとは。
何故か店の人がギョーザをつけてくれた。気が張っていた時に親切にされたようで、嬉しかった。
その後も何軒か回ったが、芳しい返事はもらえなかった。