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アメリカに行くと決めてから、そのことだけ考えて準備した。
まず仕事のオファーを全部断った。
履歴書を出した所や面接の連絡をもらったところには電話だけで済んだが、ホテルとユニフォーム屋だけは直接担当者に会いに行った。
どちらも面接時に俺の話をちゃんと聞いてくれ、俺の想いを分かってくれた上で来いと言ってくれた会社だからだ。
仕事を断りに行っただけの俺の話をよく聞いてくれた。
その上で俺の夢を応援してくれ、もし帰ってくることがあったらいつでも来いと言ってくれた。
日本で最後にこんな素晴らしい会社と出会えてよかった。
どちらかを選ぶことなんてできなかっただろう。
この人達の気持ちを決して忘れるまいと心に刻んだ。
一方でチケットの手配に入った。
パスポートはまだしばらく切れないから大丈夫だ。
さて、いつの便にしようか。
身の回りをきちんと整理するのには一ヶ月くらいはかかるだろう。
幸い学生時代の友人が旅行代理店に勤めていた。
相談してみたが、安いのは3月末くらいだろうとのこと。
どこのエアラインでもいいから取っておいてくれと伝えた。
さて、そうなると時間は一ヶ月しかないが、逆に言うと一ヶ月もある。
その間ただ準備だけで食いつぶすわけにはいかない。
一ヶ月間だけ出来る仕事を探した。
その結果考え付いたのが警備員だ。
これなら一種のアルバイトだし、給料もそれほど悪くない。
一日働けば一万円くらいにはなるし、いざとなれば日払いもできるのでぎりぎりまで働けそうだ。
目黒の会社と話をつけた。
これからしばらくは日雇いだ。