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愛美にアメリカ行きの話をしてから数日の間、俺の頭は混乱していた。
もしかしたら今、俺にはアメリカに行くという選択肢があるのか?
でも愛美はどうする。
理解してくれたとはいえ、何がどうなるか分からないアメリカに一緒に連れては行けないだろう。
メシさえ食えないかも知れない、へたしたらホームレスにだってなりかねないのに。
愛美をそんな目にあわせるわけには行かない。
でもこれが最初で最後のチャンスかもしれない。
このままホテルかユニフォーム屋に就職したら、二度とチャンスはないだろう。
もしあったとしてもその時俺はいくつになっているだろうか。
体力も精神力も持たないに違いない。
何より、泥水をすするような暮らしには耐えられないだろう。
今行くか、一生行かないか。
一度は寝かしつけたはずのアメリカの夢がむくむくと頭をもたげてきた。
一人で決められることではない。
俺は愛美ともう一度話し合った。
俺が考えていること、心配していること、全部話した。
愛美はただ淡々と聞いていた。
「私、ジョージにはいつまでも夢を追いかけて欲しいの。私のために地味な仕事に就くって言ってくれた時嬉しかったけど、やっぱり私は夢を追いかけているジョージが好きなのよ。今アメリカに行くチャンスがあるなら行ってみればいいよ。だって最後のチャンスかも知れないんでしょ?」
「私のためにジョージが夢を諦めるって言うなら、私はジョージの重荷でしかないのよ。私はそんなの嫌だし、ジョージらしくないよ。やってみて、ダメだったら日本で大人しく暮らせばいいじゃない。私は大丈夫。大丈夫だから。」
俺は涙が出そうになった。
男のバカな夢を分かってくれるどころか、背中を押してくれる。
この女だけはどんなことがあっても一生かけて必ず幸せにする。そう心に誓った。
「分かった。でも、どうなるかまったく分からないところに君を一緒に連れて行くことはできない。だから、俺は一人で行って、死に物狂いで何が何でも絶対にチャンスをつかんでみせる。そして、必ず君を迎えに来る。半年かかるか、一年かかるか、何年かかるか分からんが、必ず迎えに来る。それでいいか?」
何とか搾り出すように、それだけ答えた。