-5−
車は見覚えのあるロサンゼルスのダウンタウンに入り、殺風景な街を走って独特の雰囲気があるエリアに入った。
「お客さん、ここでいいかい?」
やたら日本語の看板が目立つ街の一角にバンは止まった。
「ああ、ここでいい。ありがとう。」
ここがこれからしばらく住むことになるリトル東京だ。ここなら安宿もあるし、レストランもたくさんあるから何かと便利だろう。治安はそれほど悪くはなさそうだが、一本道路を越えるとやばそうなところもある。
支払いを済ませると、バックパックを担いで歩き出した。目的の宿はここからそう遠くない、数分の距離のはずだ。
このバックパックってやつは便利でいい。
本格的なフレームザックは背負えないが、このバックパックならちょっと大きな縦長のリュックサックといった感じだ。
詰め込めば結構収納力もあるし、何より両手が自由になるのがいい。それに、取り外しのできるデイパックもおまけのようにくっついている。
荷物を降ろしたら、そのデイパックさえ背負えば動き回れるというわけだ。
背中にくっつけてさえいれば、目を離すこともないし、ひったくられることもない。
もっとも、パスポート以外は失くして困るものもなかったが。
「ここか。」
俺は「さくらホテル」の前に立っていた。この名前もどうかと思うが、まあいいだろう。自分で予約したんだから。
ホテルとは名ばかりの小さなガラスドアを開けるといきなり階段だった。2階が受付らしい。
階段を上がるとパチンコ屋の両替所のような受付があった。
「今日から予約してるんですが。」
ガイドブックにここは日本語が通じると書いてあったので日本語でたずねた。
「ああ、ジョージさんね。一ヶ月ね。400ドル、前払いだよ。観光に来たの?」
おばさんは韓国系だろうか、ちょっとアクセントがあるが流暢な日本語で答えた。
「まあ、そんなとこです。」
「じゃ、ジョージさんの部屋は5階の503号室ね。ここにサインして。」
サインするほどのこともなかろう。一目で全部を理解できるような簡単な書類だった。
「これが部屋の鍵ね。こっちが下の入り口の鍵。夜10時になったら閉めちゃうから。鍵を失くしたら150ドルもらうからね。廊下の突き当たりにシャワー室があるよ。タオルと石鹸は自分のを使ってね。シーツの交換は週一回。月ぎめで住むんなら毎月25日までに次の月の分を払って。」
簡単な説明を聞いた後、動きが怪しいエレベーターに乗って、俺は5階に上がった。
「503か。」
廊下の両側にいくつか部屋が並んでいる。昔のアパートみたいな作りだ。
エレベーターから見て右側が奇数、左側が偶数の部屋番号になっていた。
突き当たりにもドアがある。あそこがシャワー室らしい。
まずは荷物を置いて、シャワーを浴びたかった。