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出国審査が済んでゲート前に着いても、すぐに飛行機が飛ぶわけでもないし、搭乗自体がなかなか始まらない。飯も食ったし、お茶も飲んだし、やることがないのでタバコばかり吸っていた。
そういえばと思って、免税店でタバコを1カートン買った。何しろ安い。
さっき買った雑誌をパラパラめくっていたらやっと搭乗開始になった。
それほど乗客も沢山はいないようだ。
俺の席は飛行機の後ろの方、左側の窓際だった。隣が空いていて、通路側におっさんが一人座っている。
さっきの愛美との別れでエネルギーを使い果たしたのか、感慨は特になかった。気の抜けたような状態だった。しばらくは見られないであろう日本の景色も目に入らず、ぼんやりと外を眺めていた。
やがて安全のための何とかというビデオが流れて、飛行機が動き出した。日本の地に居られるのもあと僅かだ。
飛行機は滑走路に入り、一拍置いてから出力を上げる。エンジンの音が大きく響き、するすると動き始める。重力が後ろ向きにかかり、体がシートに押し付けられる。
ちょっと機首が上がったかと思うと、飛行機はふわりと飛び立った。とうとう日本から離れたのだ。
さらば!日本!
ちょっとだけこみ上げるものがあったが、それもすぐにおさまった。
飛行機が水平飛行に移ると、ほどなく食事が出た。いつ食べても飛行機の食事は中途半端だと思う。けしてまずくはないし、もちろんうまくもない。量的に少なく見えるが、足りないわけでもない。
そのくせカロリーだけは高い。
今回のフライトでは友人がふざけてローコレステロール食のリクエストを入れていた。フライトアテンダントが俺の食事だけ別に運んできたのでちょっとだけ恥ずかしかった。
それほど腹は減っていなかったが、とりあえず食べることにした。この先食べられなくなるかも知れないから今のうちに食べておこう。
食事が終わると隣のおっさんがウィスキーを飲み始めながら話しかけてきた。
「よかったら飲む?」
「ああ、いいです。ありがとう。」
「一人?俺も一人なんだよね。」
あなたと旅の道連れになる気はない。
「チケット、六万八千円だった?」
「ああ、そうですね。」
おっさんはよほど退屈なのだろうか、いろいろと俺に話しかけてきたが、俺があまりにそっけないものだからそのうち飽きて眠ってしまった。
俺もしばらく音楽を聞きながら雑誌の続きを読んでいたが、やっぱり飽きて寝てしまった。
一人旅はつまらないと思い知った。