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カフェを出て、愛美と二人で出国審査に向かった。
二人とも無口だった。
出国審査をするところはちょっと広くなっているが、柵があって、ここから先は俺しか入れない。
パスポートとボーディングパスを見せてセキュリティを通る。
愛美とは5メートルも離れていないのに、随分遠くに感じる。
ここで書類を書いてから出国審査を通るのだが、この場に及んで愛美の目の前で事務的な作業をするのは何だか中途半端な感じがしてもどかしかった。
書類を書いてから、柵越しに愛美と向かい合った。
寂しそうな笑顔を見るのがちょっとつらい。
「じゃあ、先に行くから。」
先に飛行機に乗るという意味と、先にアメリカに行っている、という意味をかけていた。
「うん、元気でね。頑張って。向こうに着いたら一回電話ちょうだい。」
「うん、分かった。先に行って、必ず迎えに来るから。半年かかるか一年かかるか分かんないけど、必ず迎えに来るから。」
「うん、待ってる。待ってるよ。」
その時だった。
「ひーん。」
愛美が俺にしがみついて、一瞬だけ泣いた。
今回のことで今まで一回も涙を見せたことはなかったのに、愛美が初めて泣いた。
今までずっとガマンしていて、今もガマンしているのだろう。それが、抑えきれなくなって溢れ出たのか。そんな愛美があらためていとおしくなった。
人目もはばからずにキスをした。
出国審査は空いていて、すんなり通れた。
ここを過ぎたらもう外国になる。
係員の横を通り過ぎて、振り向いてみた。
愛美の姿が見える。まだそこに居て手を振っていた。
一瞬掛け戻りたい衝動にかられたが、軽く手を振って先に進んだ。
そこから先は一度も振り向かなかった。