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休憩が終わってキッチンに帰ってみると、ちょっと人数が減っている。皆交代で休憩に行くらしい。
店も忙しい時間は終わっていたので、俺はたまっている皿を洗いながら周りを見てみた。
なるほど、ギョーザを巻いたり野菜を切ったりと、仕込みをしている。
隣のメキシコ人に話しかけてみた。早口でスペイン語と思われる言葉をまくし立てられた。
英語はほとんど分からないらしい。
ダメだ、こりゃ。やっぱり俺がスペイン語を覚えた方が早そうだ。
ディナータイムはランチとは違って一気にお客が来ない。
その代わり、ずっと続けて客が来る。
忙しいのは忙しいし、ずっと気が抜けないのだが、ランチタイムほどではなかった。周りを見る余裕が少しだけあった。
見ていても何が起こっているのか全然わからないし、何をどうやっているのか皆目分からないのだが、一つだけ気づいた。こいつら皆魔法使いだ。でなきゃあんな風にできるもんか。
結局何も出来ず足手まといなまま一日が終わった。まあ初日はこんなもんだろう。明日以降もしばらくは多分同じだろうが。
嬉しい誤算が一つあった。というのは、昼メシだけでなく晩飯も食わせてくれるのだ。
休憩している暇はないが、交代で代わる代わるメシをかき込む。
落ち着かないとか言ってられない。メシが食えるだけでラッキーだ。
これなら、仕事の日は食うものには困らないじゃないか。いや、休みの日でも腹が減ったら仕事にくればいい。どうせやることなんてないんだから。
そう言えば、給料がいくらとか、休みがいつとか一切聞いてないな。
まあいい、今日は最終面接のつもりで来たから、いきなり働くとは思ってなかった。
その辺の話はおいおいしよう。使い物にならないうちに給料の話をするのも気まずいし。
汗と油でドロドロになって一日が終わった。疲れていたし、体がベタベタして気持ち悪かったが、不思議と気分はすっきりしていた。
「お疲れさん。明日から10時半に入ればいいから。お前、どこに住んでるのよ?」
「そこのさくらホテルです。」
「そうか、じゃ、気をつけて帰れよ。」
皆エレベーターで地下の駐車場に降りていった。
俺はタバコに火をつけて、のんびりと階段を下りていく。
わくわくしていた。仕事が決まったと愛美に言ったら驚くだろうな。
タバコを吸い終わる頃、ホテルに着いた。