-20-
いよいよ出発は明日に迫った。
今日はいろいろとやることがある。
朝一番で段ボール箱に詰めた荷物を近くのコンビニから宅急便で田舎に居る愛美の妹の家に送った。大したものはなく、ダンボール5箱くらいだった。他のものは既に送ってあった。
マンションの管理人立会いの下、部屋を引き払った。敷金は愛美宛に送ってもらうようにした。
そうなると、俺たちの持ち物は俺のバックパック一個と愛美の小さなスーツケースとハンドバッグ一個になった。
電車で横浜に出ると、まずは荷物をロッカーに預けた。
もう俺たちに住所はない。今晩は横浜市内のホテルに泊まる予定だった。
お茶を飲んでから、電話加入権を買い取ってくれる店に行った。
何万円かにはなった。これで俺たちにはもう連絡先すらない。
ところが不思議なもので、もう何ヶ月も連絡を取って居なかった友達から昨日の夜電話が来ていた。
誰にも言わずひっそりと姿をくらます積もりでいたのに、虫の知らせというやつだろうか。
とにかくつかまってしまったものは仕方がない。俺はアメリカ行きの件を話し、今晩横浜市内で会うことになっていた。
銀行に行き、口座を解約して、そのまま新しく愛美の口座を作ってすべてそこに金を移した。
20万円と、さっきの電話加入権の分を足した分だけを米ドルに両替した。これからこれが俺の全財産となる。
「もっと持って行けばいいのに。何があるか分かんないよ。」
それは確かにその通りなんだが、どうせ最初から無茶な事をしようとしているんだ。一年か二年くらいなら働かずに暮らせる金はあったが、遊びに行くんじゃない。
これでダメならいくらあってもダメだよ。
ホテルにチェックインして荷物を置くと、愛美を連れて待ち合わせの場所に向かった。
奴は先に来て待っていた。
「おう。」
「おう。」
「それ、誰よ?」
こいつとは15歳の時からの付き合いだ。もう何ヶ月も連絡を取っていなく、会うのは一年ぶりくらいだというのにこの挨拶だ。
「これ、愛美。こいつ、山本。」
「はじめまして、愛美です。」
「ああ、はじめまして。」
山本のことは愛美に話してあった。とんでもない奴だと言うことも。
その日は居酒屋で食って飲んだ。
ずーっとくだらない話ばかりで、アメリカのことは殆ど話に出なかった。
奴は奴なりに気を使っている積りなのだろうか。
それにしても、最後の日にこいつと会うとはな。これも腐れ縁ってやつか。
こいつとはどんなに環境が違っても、どこに居てもいつも付き合ってきた。
こんな仲間が俺にはあと二人居る。
そいつらにもよろしく伝えるように言って別れた。
最後の夜は愛美と二人きりでゆっくり過ごそうと思っていたが、こんなことになっちまった。まあいい、まだ時間はある。
その後ホテルのバーで二人で飲みなおした。