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「実は俺、子供の頃からアメリカに行きたかったんだよね。」
俺は愛美にそう告げた。
彼女は少しだけ考え込んだようだった。
やがて少し微笑んで言った。
「ジョージがそう思うなら、行けばいいじゃない。やりたいことをやったらいい。」
2月も終わりにさしかかろうという頃だった。
俺は一月の末で、それまで勤めていた不動産屋を辞めていた。
とは言っても、俺は三年ほど前にその会社を一度辞め、田舎に引っ込んでいた。
そこで雑誌の編集記者をやっていたのだが、その不動産屋でカナダでの新しいプロジェクトが進行し、どうしても俺が必要だと言われ、東京に呼び戻されたのだ。
しかし、あろうことか俺とは関係のないところで別件の事業が失敗し、会社自体が立ち行かなくなり、二度目の辞表を出した。
仕事を辞めて、少し休んだ後、今後の身の振り方を考えた。
また田舎に帰ってのんびりして暮らす方法もあったが、あそこにはあまり仕事がない。
それに、わざわざ愛美を田舎から呼び寄せて一緒に暮らし始めていた。
すでに生活の基盤が出来つつあった。
不動産屋の仕事ならいくらでもあった。それまでの経験を生かすことも出来たし、仕事上の繋がりもあったから、「うちに来いよ」と言ってくれる奴も何人かいた。
編集記者の経験もあったから、マスコミ関係とか広告代理店なんかも考えられた。
自分にはそれだけの能力があると思っていたし、やっていく自信もあった。
「俺、十分休んだし、そろそろ仕事探すわ。」
「急がなくていいよ。今まで大変だったんだから、じっくり休んで、それから考えたらいいよ。今すぐ生活に困るわけじゃないしさ。」
「うん、でも、毎日家でごろごろしてるのもさ。俺、家事とかやるわけじゃないし。」
「あら、家事を手伝ってくれてもいいのよ。」
このままでは本当に家事をやらされそうだ。
冗談じゃない、自慢じゃないが俺は家の事は何も出来ない役立たずだったりする。
毎日の家事が大変なのは分かっているが、俺がやっても仕事を増やすだけだ。
家事をやらされる前に仕事を見つけなければ。