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結構広い店だった。カウンターなしのテーブル席のみで40〜50席はあるだろうか。その割りにキッチンは狭い。人とすれ違うのが難しいほどのスペースしかない。
そのキッチンの端で、俺は体を折りたたむようにして皿を洗っていた。
忙しくて目が回りそうだった。
実際は俺自身は下がってきた皿を洗っているだけで大したことはしていないのだが、どんどん皿を洗っていかないと注文に間に合わないくらいだった。
何をどうやっていいのかまったく分からない。回りを見ている余裕などなかった。何がなんだか分からないうちに時間が過ぎたらしい。
ランチタイムが終わった頃声がかかった。
「休憩行って来い。2時間な。メシ、何食うんだ?」
2時間も休めるのか。助かった。メシも食える。
「ラーメン食います。作り方教えてください。」
食べ物屋ならまかないでメシが食えると思っていた。思っていた通りだ。
毎日のことだからこれは助かる。
「よし、じゃあ今作るの見てろ。麺をほぐしながら鍋に入れる。箸でばぁーっと泳がせる。その間に丼にタレを入れる。このレードルで一杯だ。時々麺の様子をこうやって見てやる・・・もう少しだな。麺が上がるくらいになったら丼にスープを張る。この線くらいまでだ。見てみろ、麺の上がりはこれくらい、このくらいになったら麺を上げて・・・箸でスープと馴染ませる。後はトッピングして出来上がりだ。」
・・・簡単そうに言うが、どうやって麺を上げたのか全然分からなかった。平たいザルに取っ手がついたようなので鍋をバシャバシャやったかと思うとザルに麺が乗っていて、それをくるくると回したかと思うとパシッパシッと小気味良い音で麺を湯切りした。
本当はちゃんと作ってもらったラーメンを食いたかったが、俺はこれを仕事にするんだ。一日でも早く自分で作れるようになりたい。でも、皿洗い初日の俺がラーメンを作らせてもらえるのはいつになるか分からない。でも、自分で食うものなら文句はないだろう。よくテレビとかでやってるじゃないか。こっそり練習してチャンスを待つってやつさ。
自分で作ってラーメンを食べた。
今まで食べた中で一番まずいラーメンだった。
メシを食った後、休憩返上で、とカッコいい事を言いたかったが無理だった。とにかく休みたかった。この後店は9時まであるんだ、休まないと体が持たない。
時間まで裏で寝た。