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「どうだ、そろそろ終わったか?」
親方が声をかけてきた。後は道具を片付ければ終わりというところだった。
「後は片付けしたら終わりです。」
「見せてみろ。」
親方が入ってきた。ただでさえ悪い目つきがさらに厳しくなっている。
さあ、どうだ。やるだけのことはやった。
親方は入り口から入って来ず、そこに立ったまま見回している。
「おい。」
来た。こういう時によくある話だが、掃除したところを舐めろと言うなら舐めてやる。いくら掃除してもトイレはトイレだ。汚いことに変わりはない。だが、舐めてもおかしくないくらい綺麗にしたし、雇ってもらうためならそれくらい出来る。死にはしないだろう。
「エプロンのあるところ教えるからこっち来い。」
肩透かしをくらった。普通こういう時には何か一言あるんじゃないのか。
あれ?ちょっと待て。エプロンの場所を教えるということは、それを着て仕事をしろという事じゃないのか?俺、雇ってもらえるのか?
「はい!」
こうして渡米二日目にして俺の仕事が決まった。
いつの間にか他の人も来ていた。
「おい、今日から入ったジョージだ。」
皆に紹介された。中には日本人じゃないのもいるようだ。
「よろしく。」
「頑張れよ。」
「Habla Espanor?」
待て。今何と言った?日本人か日系人らしいが、何と言ったのか分からなかった。
英語は結構出来るつもりでいたが、俺程度では現地では通用しないのか。
言葉が通じない理由は間もなく分かった。
奴はメキシコ人だったのだ。だから、スペイン語で話しかけてきたらしい。
キッチンで働いている人数の半分以上がメキシコ人だった。
それだけではない。親方も、他の日本人もスペイン語混じりでしゃべっている。
参ったな。聞いてないぞ。何でアメリカなのに英語じゃないんだ。と言うより、何でメキシコ人がこんなに多いんだ?スペイン語を覚えないと仕事にならないぞ。