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8時に来いと言われて8時に行っても気持ちは伝わらないだろう。
例え無駄でも先に行って待っているくらいでなくちゃ。
その日は7時半から行って待っていた。
親方は8時を5分ほど過ぎてやって来た。
「おう、もう来てたのか。入れ。」
とりあえず親方の後について店に入った。
「今日はまだしばらく誰も来ないからよ。その間にテストをする。」
さあ来た。ここが勝負だ。
「そこの戸開けたら道具入ってるから。トイレ掃除してみろ。」
は?トイレ掃除?
「トイレ掃除って、それがテストですか?」
「そうだ。」
トイレ掃除・・・なんだ、そんなことか。
それくらいのことなら楽勝だ。そのくらい苦でもなんでもない。何しろ、「何でもやる」と言い切ったんだからな。
本当にどんなことでもするのか、汚い仕事でも嫌がらずにやるか、きちんとやるか。見るのはそんなところだろう。
どれくらい時間をかけていいのか分からないが、俺がどれだけ気合が入っているか見せてやる。
とは言ってもトイレ掃除なんてしたことがなかった。それどころか、子供の頃から自分の部屋を片付けるのさえ嫌だった。
どこから手をつけたものか・・・。
まあいい、とりあえず始めてみよう。
やってみると色んなことが分かった。
壁を洗っていたら、上からやると洗剤が流れてどこからどこまでどのくらい綺麗になったのか分からない。下からやればいいんだ。
洗いやすいところは丁寧にやりやすいが、そうでないところこそ丁寧にやらないと綺麗にならない。
汚れが落ちないところは洗剤をかけておいて、しばらく置いてからやると落ちやすい。
それにしても、一見綺麗に見えたトイレも細かく見ると結構汚れているもんだ。
裏の見えないところや手の届きにくいところは一回も掃除してないんじゃないか。
やっているうちにちょっと面白くなった。どんどん綺麗になっていくのが楽しかった。
「俺、掃除のプロになれるんじゃないか?」などと一人でふざけてみた。
気がつくと1時間半くらい経っていて、全身汗まみれでぐしょぐしょになっていた。