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「昨日お邪魔したジョージと言います。親方にお会いできますか。」
昨日のウェイトレスが居た。
「えーと、ちょっとお待ちください。ヤマさーん!朝言ってた人来たよー!」
出てきた人を見てちょっとだけ後悔した。
どんな人かというと、背は低いが太っている。赤いトレーナーを袖まくりして、エプロンをしている。
そこまではいいのだが、何しろ人相が悪いのだ。特に目つきがヤバかった。
「おう、じゃあ、ちょっと座ってまってて。」
座らずに逃げようかと思った。
「お待たせ。で、何?働きたいんだって?」
入り口から遠い席に案内されて、逃げられなかった。
「はい、ここで働かせてもらえないでしょうか。」
「レストランで働いたことある?」
「ないですけど、どんなことでもやります。仕事も死んだ気で覚えますから、お願いします。」
「経験ないのか・・・。ま、いいや。で、永住権は持ってるの?」
「持ってません。観光ビザです。」
「ビザなしか。前はどこで働いてた?」
「日本です。」
「日本って、いつロサンゼルスに来た?」
「昨日着いたばっかりです。」
「昨日!?昨日の今日で仕事探してるのか!?」
それまではユルユルに座っていた親方が座りなおして身を乗り出してきた。
「昨日の今日じゃなくて、昨日から探してます。腹くくって来てるんです。」
俺の本気が通じたのかどうか、親方はちょっと考え込んだようだった。
やがて口を開いた。
「よし、じゃあテストしてやる。明日の8時ごろもう一回来れるか?」
「もちろんです!」
どきどきしていた。何というラッキー。僅か二日目にして手応えがあった。
雇ってもらえるかどうかは分からないけど、少なくともチャンスはもらった。
どんなテストかは分からないけど、ダメで元々だ。やってみるしかない。
調理の経験はまったくないけれど、包丁で手切るくらいは何てことはない。
チャンスをものに出来るかどうか。なりふりかまわず必死にしがみついてやる。
その足でまたヤオハンに向かった。
日系の本屋に行って、閉店までずっと調理の本を見た。
付け焼刃ではどうにもならないだろうが、何かせずにはいられなかった。