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警備員の仕事もかなり慣れた。現場の人達とも仲良くなった。
こう考えると、逆に現場で働く仕事でも良かったのかもしれない。
最初は近くの定食屋とかに昼飯を食べに行っていたのだが、そのうち現場の人に倣って弁当を持っていくようになった。仲間的な意識を持ってくれたらしく、一緒に飯を食うのが嫌じゃなかった。
いろんな話をしながら食べた。楽しかった。
俺のアメリカ行きの話をすると、皆応援してくれた。
飯の時にはよく缶コーヒーを飲んだ。誰か彼かがおごってくれた。
買いに行くのはほとんど俺の役目だった。
あっという間に時は過ぎる。
いつまでも警備員をやっているわけにもいかない。アメリカ行きの準備をしなければ。
仕事は出発の一週間前で終わりにすることにした。
短い間だったけれど楽しく働けた。ちょっと気に入っていた。
せっかく仲良くなった人達とまた別れるのは寂しい気もしたけれど、そうも言っていられない。
最後の日に皆で焼き鳥屋に連れて行ってくれた。
よく食べ、よく飲んだ。
とっつきづらい職人さんたちだけど、仲良くなってみるとこんなにいい人達はいない。
皆がそれぞれ昔持っていた夢の話をしてくれた。
そうか、やっぱり皆夢はあったんだ。だから、夢に挑戦する俺を応援してくれるんだ。
その日は気持ちよく酔った。
その一方で観光ビザ申請について旅行会社の友人から朗報が入った。
「残高証明を出して申請してもいいけど、それだと長い期間旅行することになり、却下される可能性がある。もっと簡単で、しかも断られない方法がある。」
耳寄りな情報だった。
「ビザウェーバーっていうのはさ、日本も含めてアメリカに認められた国っていう条件があるんだけど、もう一つ、認められた航空会社を使わなければならないっていうルールがあるんだ。だから、それ以外の航空会社を使えば、観光ビザが“必要”ってことになる。」
「日本から飛んでる便で、認められてない会社ってあるのか?」
「ない。だから裏技があったのさ。」
「ヤバイことは嫌だぞ。」
「違う違う。実はカナダ経由で入国するんだよ。カナダもビザウェーバーの対象国なんだが、実はカナダからアメリカに飛んでいる便って言うのは、実際は殆どが下請けの会社なのさ。元請は認められている会社でも、下請けの小さな会社までアメリカはいちいち審査しない。ということは、ウェーバーの対象外になり、ビザが必要となるって言うことさ。」
「なるほどな、でも俺のチケットはもう取ったんだろう?それをカナダ経由に変えるのか?」
「ビザ申請にはチケットの現物は必要ないんだ。予約確認書だけあればいいのさ。そんなもの、いくらでも作ってやるよ。」
道が開けた。