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よく寝た。
昨日初日からあれだけ歩いたのが良かったのだろう、夜10時半頃から朝の9時過ぎまでぐっすり寝た。
近くにあるコンビニでテレホンカードみたいなのを売っていたので、昨日寝る前に愛美に電話をした。とりあえずしばらくは妹のマンションに転がり込むことにしていた。
元気そうな声を出していたが、内心は寂しいだろうな。
一日も早く迎えに行くから、と再度約束した。
愛美のことを想って、また、これから始まるという興奮で眠れないかと思ったが、すぐに眠りに落ちた。
俺も案外図太いな。
起きても仕事を探す以外することがない。
自由なようでいて、退屈なものだ。
レストランというものは、何時ごろから準備に入るものなのだろう?
この時間に行ったら瞬間で叩き出されそうだ。
まずは日用品を手に入れよう。
この辺の地理も知っておく必要がある。
簡単な地図は持っていたし、前にも来た事があるので少しは道も分かる。
ダウンタウンの高層ビル街を目印にすれば迷うこともないだろう。
道路を一本一本確かめるようにして歩き出した。
とりあえずの目的地は日系マーケットのヤオハンだ。
他にマーケットらしいところを知らなかった。
歩いてみると、リトル東京というところは意外と狭いエリアであることに気がついた。
一本裏に入れば店も何もないところもあるし、ちょっと外れるとホームレスがたむろしているヤバイエリアもある。
暗かったら気づかなかったかもしれないことにいろいろと気づいた。
まっすぐ歩けばせいぜい10分くらいの距離であろうヤオハンに着くのに2時間かかった。
ヤオハンでは大した買い物をしなかった。
目覚まし時計と、ヤカンと、食べ物を少し。あとは洗面用具だ。
所持金は限られている。無駄なものを買う余裕はない。
手持ちの残りは2000ドルくらいだった。
残りは全部愛美のところに置いてきた。
これからどのくらい離れ離れで暮らすか分からないのだから、金はいくらあっても足りないだろうと思って必要以外は全部渡したのだ。
俺自身には2000ドルくらいもあれば十分だと思った。
これがなくなる前に何とかしなければホームレスだ。自分をそう追い込むことで馬鹿力が出ると思ったのだ。それに、余裕があると行動が後回し後回しになる。
自分の性格をよく知っていた。
ホテルに帰って味気ない食事を済ませると、もう2時が近くなっていた。
昨日の店に行ってみよう。
身支度を整えてまたホテルを出た。